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『第2部:悪霊召喚の子供と古の契約編』の最初回の第1話: 食屍鬼の女王

ヴィオレッタ視点:


夜が陣営を覆ったが、誰も眠ってはいなかった。見張りの兵士がいる基地の外には焚き火は弱々しく燃え、石とテントに長い影を落としている。


マークとの戦い後の興奮がまだ冷めやらぬ。


だが私を覚醒させていたのは痛みではなかった。静寂だった。


挑戦の後に訪れる、あの静寂。敬意と恐怖の狭間で揺れる沈黙。


私は陣営の端に立ち、銀髪を梳く風に外套を翻がえさせていた。月明かりは青白く冷酷で、私たちの隠す全てを暴きたがっているようだった。


「......んっ...」

足元にエレインが蹲っていた。


暖まってもらうために縋りついて来てる様子だ。遠くの消えゆく炎を見つめるその瞳は、瞬きさえ忘れていたようだ。


私は彼女の傍らに膝をついた。


「寒いか?」

優しく頬にかかった髪を払いながら尋ねた。


彼女は私を見なかった。

「いいえ」

とかすかな声が返ってきた。

「ただ…変なの...」


「変?」


エレインはゆっくり頷いた。

「何かが…ノックしてるみたい。私の中に...」


「-!?」

私の心臓が一瞬止まった。


その時感じた――空気の歪みー!


かすかで、不自然で、悲鳴の直前の息遣いのよう。手袋をめた手で彼女の細い肩に触れた。


「エレイン。君の中に何があるかは分からないわ。だがそれが何であれ…きっと制御できると思うのよ。君はもう一人なんかじゃないから」


私はそう信じたかった。

そうでなければならなかった。


「.........」

だが彼女は答えなかった。


良く見てみれば、少女の指が痙攣しているみたい。


そして――!


..............................

風が止んだ。


........................

森の全ての音が消えた。


..............................

炎の爆ぜる音さえしなくなった。


月が翳った。


いや――遮られたのだ。


「ぐえぇー!」「うえぇー!」

「—!?」

『彼ら』が現れた!


空気そのものから這い出るように、まるで夜が狂気に堕したかのように!


数十、数百の巨大で骨ばかりの忌まわしい存在!

「「「「「「「「「「「「「「「「「「ぐえぇー!うえぇー!」」」」」」」」」」」」」」」」」」


焼け焦げた腱が歪んだ骨に張り付いたような肌。その口――神よ、あの口は――!外れかけた顎に、自然のものとは思えぬ鋸状の黄ばんだ歯が並んでいたわ――!!


「うわああああああ―――――――――!!!」

最初の悲鳴が静寂を打ち破った。


隊の一人、ジャキアが一瞬で引き裂かれた!

体はまともに倒れさえせず、濡れた紙のように崩れ落ちた。


「あぎゃあああ―――――――!!?」

次が。


「うぎゃあああ――――――!!?」

また次が。


「「「「「「わああ―――!?何だこの腐臭と不気味な肉と骨のバケモンは―――!?」」」」」」

「「「武器も火の魔法も効かん!逃げろーーーー!!!」」」

陣営は混沌に飲まれた!


「嫌だ――――!!来ないで!!」

叫ぶ者。


「わああぁ~~!!ぐず~!どうするんだ、これ~!」

泣き叫ぶ者。


「うぐ~!うげえぇ~!ぶわぁ~っ!」

引き裂かれる前に嘔吐する者。


「~~!」

そして私…私は凍りついた。


騎士も、奴隷商人も、魔術師も相手にしてきた。


だがこれは?


これは間違っていた。


......太古のものだった。


......飢えが形になったような存在だった。


崩れ落ちそうになりながら、私は必死に前へ進み、震えるエレインの腕を掴んだ。

「止めさせろ」

声もあまり出ずに何とか力絞って呟いた私。


「......」

彼女は答えなかった。


もう私を見てもいない。


その瞳は――白目も虹彩もない、ただ黒色に輝く球体だった。


「......」

彼女は虐殺の中心に立ち、無傷で。触れられない存在で。

私の顔も皆のことも、まるでその眼中にないかのように、意識を『乗っ取られている』かのように、ただ虚空を見つめているだけになっているエレイン!


「「「「「「「「「「「げえー!けえー!」」」」」」」」」」

そして怪物たちは跪いた。


跪いたのだ!


従ったのだ!


「逃げろ!」

背後で誰かが叫んだ。


私もつられて逃げ出そうと無表情と無反応のエレインを抱き上げる。

「早くしろーー!じゃないと殺られちまう!」

皆が逃げ始めたー!


反乱兵も、殺人者も、脱走兵も――恐怖に駆られた子供のように基地を離れて森へ散らばった。


私はエレインを胸に抱き締め、腿が燃えるように熱く、肺が裂ける思いで走ったー!


歪んだ樫の木々を抜け、丘の端に辿り着いた時、月が再び私たちを照らした。


「ぐ~!」

私は膝から崩れ落ちた。


「うええええ―――ッ!!!」

そして胃袋の中の全てを吐きだしたー!

...いや、『ぶちまけた』と言った方が正しい表現かぁ......


「ゥオええぇ―――――!!」

傍らのヴェーレナも。


「うわあおお~~っ!?」

老いた毒薬師のソーンブリアヤーも、嵐の木の葉のように震える手で。


私は腸を引きずり出される男も、燃えさかる都市も見てきた。


だがこれほどのものは――決して――なかった。

は、......初めての体験だー!


「......くっ」

恐怖という言葉では足りない。


これは屈服だ。

存在してはならない何かを、本能で理解した瞬間だった。


「......」

背後で、エレインが無表情と無言で立っている。


泣いてはいない。


怯えてはいない。


ただ…平然と。


「…この子達はあたしの言うことを聞いてくれるみたい...」

幽霊のような穏やかさで彼女は言った。


「「「......」」」

誰も答えなかった。


答えられる者などいなかった。


食屍鬼グールたちは森の縁で漂っている。

見守り。待機し。


『彼女』の命令を待っていた。


その瞬間、私は悟った。


エレインは…あの愛らしく、不思議な少女は…もはや救出された子供ではなかった!


彼女は『奴ら』の女王だったー!


そして恐らく、――いや、きっと、...彼女がなりつつあるものからは、私さえも守れないのだと!

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