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第38話:この世界にない色

オルフェミ視点に戻る、二日後の夜の、異世界のエスカルディア王宮にて:


エスカルディア宮殿の庭園は月光に浸かり、刈り込まれた生垣は強迫的なほど整然とし、大理石の小道は静かな水面のように磨き上げられていた。


俺はレイザリア王女と並んで静かに歩いた。


彼女の金髪は絹の旗のように風になびき、優雅で計算された歩みの中にも、どこか落ち着かないエネルギーを感じた。


魔術の理論や異世界転移の推測に一日を費やし、巻物と記録で埋もれた部屋を出たばかりだった。


夜風は冷たかったが、俺はそれを感じなかった。思考は故郷と記憶と静寂の中にあった。


彼女がそれを破った。


「また黙り込んだわね、異邦人。珍しいことね。......普段は寡黙でも、言葉には重みがあったのに...」


俺は手を背中で組みながら彼女を見た。

「言わない選択にも重みはあるだろう?」


彼女は王族らしい微笑みを抑えた薄笑いを漏らした。

「くすくす~、なら今言いなさい。この青白い王女の耳を恐れているのでなければけどね、ふふふ......」


思わず低い笑いがこぼれた。自分でも驚いた。

「...君を恐れてなどいないよ、レイザリア姫...」


「結構よ」

と、彼女は顎を上げた。

「あなたのような…筋骨隆々の男をこの世界一の美少女たるワタシが威圧しているなんて嫌だわ~。何故なら、ワタシは男を恐怖で従わせる趣味はないしね、『あの女』と違ってー」


彼女の声には遊び心があったが、常にある鋭さ──誇りと好奇心、そして言葉にされない何かが混ざっていた。......嫉妬かな...


ふと歩みを緩め、内省的な表情になった。


「個人的な質問があるの」

と、彼女はまっすぐ俺を見た。

「あなたはワタシが今まで見た中で、最も肌の色が黒い人間」


王族らしい率直さで、遠慮のない言い方だった。


「本当よ。磨かれた黒曜石のよう。珍しいというより、この宮廷では聞いたこともない。それなのに、あなたが語る女性たち──ヴィオレッタ、ヴェーレナ…あの小さな10歳の少女のエレインまでも、皆は色白で繊細......。確かに先日で、既にこのことについて話し合っていたけれど、またもこの話題に触れずにはいられないほど異質で変だと思うわ」


青い瞳が俺を捉えた。まあ、確かに君の国が単一民族で白い人達ばかりとしか毎日のように交流してなければ、そう思うよねー?王女も黒い肌の男ばかりに囲まれるの『逆ハーレム』生活を経験したことがないので、俺の境遇に共感できなかったのだろう......


「そのことで…苦にはならないの?自分と似つかぬ女性たちに囲まれて......。...故郷の同胞を置き去りにしたと思うことは一度あるの?」

挿絵(By みてみん)


すぐには答えなかった。月明かりに浮かぶ小道沿いのユリに目をやる。


「毎日のように」

静かに言った。


レイザリアは遮らなかった。耳を傾ける。


「母の肌を思い出す──夜のように深く、大地のように温かい。笑った時の熱意が頬を照らす様子も。姉妹の編み込んだ髪と、リズムと喜びと闘志に満ちた声も。村の市場の香辛料の匂いも。星の下での太鼓の音も...」


自分の手を見下ろした──光さえ吸い込むような黒さ......


「ここには故郷の匂いも歌もない。俺の童年の言葉も、赤土に雨が降り注ぎ世界が記憶の匂いで満たされる意味も知らない」


「......」

彼女は黙ったままだったが、視線の重みを感じた。


「......白い女性たちに囲まれることを選んだわけではない」

と続けた。


「運命が俺をここに置いた。共に戦う者たちと肩を並べる。だが時折…静かな瞬間に…自分だけが異なるインクで書かれた書物の一頁のように感じる。拒まれているからではなく、俺がどう書かれたかを誰も知らないからだ」


風が再びそよぎ、生垣を揺らした。


確かに運命は俺をあの女、......ヴィオレッタに会わせた(最初に、入っちゃいけないところに入ってみたら彼女と出会ってしまったの、あの滞在先である彼女の父が持っている大きな、王宮と近い距離にある第2番目のマンションで...)......そして、彼女に対してある種の奇妙な執着を覚えてしまった。


...でも今は目の前の王女がまたも新しい視点と新鮮な感覚で俺の心も支配してくるように感じ始めたが、まだヴィオレッタ...様に対する未練も諦めることなく、心のどこかで、またもヴィオレッタ様の元に戻りたいと思う願望が依然として、健在のままだ......


彼女がようやく口を開いた時、声は低く優しかった。

「...肌の色をそんな風に語る人を初めて聞いた。ワタシはずっと、白い肌が美の究極な基準だと思っていた」

レイザリア姫は自らの白く繊細な手を上げ、じっと見つめた。そして再び俺に向き直る。


「でもあなたを見て、色とは美しさ以上のものだと気付いた。歴史であり、記憶であり、アイデンティティなのだと。......そして時には…ワタシの知らない種類の孤独でもあるとー」


驚いた。


俺は彼女の方を向いた──本当に向き合った──そして初めて、彼女は王女ではなく、名付けられない何かを探す少女のように見えた。


「憐れんでいるわけじゃないわ、オルフェミ...」

彼女は急に王族らしい姿勢を取り戻した。

「ただ思うの…同じ肌色の者を愛したいと思ったことは?あなたの世界を血に宿す者を...?」


すぐには答えられなかった。答え方がわからなかった。


「......その機会はなかったよ」

ようやく口にした。

なにせ、肌の黒い異性と恋愛に落ちる前に、先に肌の白いヴィオレッタ様と出会ってしまって惹かれていたからなぁ...

なので、本当に答えようのない質問だった......


「そー、いいえ.........」

彼女は唇を開き、さらに何かを言おうとした──しかし言葉は出てこなかった。


だから俺たちは歩き続けた。並んでの。


彼女の影は白く太陽のように。俺のは黒く深く。黎明と真夜中のように異なるのに。


それでも一歩ずつ、同じ方向へと進んでいく。


色の違う者同士であろうとも、同じ道を歩むことは出来るのだからな......

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