第36話:闇に残された銀炎の悪白令嬢...
元の世界の、ヴィオレッタ視点に戻る:
反乱軍キャンプの中央に立つ私は微動だにしなかった。
蝋燭の炎が石壁に歪んだ影を落とすが、何も目に入らない。地図も、囁き交わされる報告も、金属とインクの匂いも。
......彼がいない。
逃げたわけではあるまい。夜陰に紛れて消えた臆病者でもないはず。
私をあのボールルームから一人だけで連れ出してきたような者が、決してそんなことはしないの。
......これは──別の何かだ。
感じていた。
胸の奥で、張り詰めた紐が突然残酷に切られたように。
......あまりにも慣れ、依存しすぎていた存在が消え、残された虚空の中で息もできなくなっている。
オルフェミが......いない。
「...どうやって消えたの?」
私は冷たく切り捨てるように唸った。
喉を這い上がる震えを隠すためだ。
「ここにいた。私の傍らに。それが今は?ただ消えてなくなるんですって?」
毒薬の老賢者は灰色のぼろきれに包まれ、厳かに首を振った。
「魔術の残滓なし。召喚のルーンもポータルの塵もなし。一瞬の現象だった。我々の追跡能力を超えた転移だったかもしれん」
ぶちのめすべきだった。机をひっくり返すべきだった。叫ぶべきだった。
だが私はきりりと背を向け、檻の中の獣のように怒りを胸に閉じ込めた。
今、テントの中で私は髪をかきむしり、ヒールで床を叩く──カチ、カチ、カチ──戦鼓のようだ。
......神経を逆なでする音であったも、やめないつもり。
だって、不安を紛わすために必要だもの~!
「ちぇ!」
怒っていた。
不可解な状況に......
沈黙に。
消えた彼に。
......そして何より──自分自身に!
言いたかったことを言っておかなかった。
本当のことを。
機会があった時に。
彼がまだここにいた時に。命令はした。
試練は与えた。炎は注いだ。
......だが彼が必要としたかもしれないものは与えなかった。
人間同士としての温もりと対等な関係を!
そして今、彼はいない。
畜生め。
自分がー!
彼はもはや傍らの刃以上の存在だった。
異世界からの謎以上の何か。
私のものになっていたはず!
ヴェーレナにこそは絶対に言わないけど。
...彼女の小生意気な微笑みと甘い言葉には常に刃があった。絹に隠された短剣のよう。彼女が彼を見る目は見逃さない。すべてお見通しだ。
エレインにも言うまい。あの子の彼への信頼は純粋すぎて胸が痛む。被護者として彼を愛する権利はある。
だが私は──
「くそ!......」
彼が跪く姿を思い出す。
黒いヒールを磨く彼の手──硬くて有能なその漆黒肌の手が、白い肌の私のためだけに優しくなる。
真夜中の黒曜石のような肌が、私の白い脚に触れる。
一度、私の靴にキスもした。
...命令だった。
...力の象徴だった。
...だが…意味があった。
騎士など要らなかった。
私が剣だった。ヒールだった。嵐だった。
だが、......今は彼を求めるようになった。
私の視線にもひるまない唯一の男に、静かに燃えるように。
奴隷のようにではなく──私の傍らに立つことを選んだ者として従う彼に。
そして今、......彼はいない。いなくなったの!
バタ――ン!
勢いよく立ち上がり、椅子を倒した。マントが翻り、テントの幕を払いのける。
カー、カー、カー!
当然のように、彼女がいた。
ヴェーレナ。甘いものを食べて満足した猫のように柱にもたれている。腕を組み、金色の髪を肩に垂らし、月光に照らされて柔らかく──腹立たしいほど平然とー!
「まだ戻らないわね?」
...軽く、遊び心たっぷりにのたまってー!──くそっ、馴れ馴れしく。
だが見逃さなかった。彼女の瞳の奥の本気の憂い。
「きっと靴にキスさせない誰かを、別世界で見つけたのよねー?」
「~~!?」
手が痙攣した。
「畜生め―!」
ぶん殴るべきだった。
代わりに、私は怒鳴っただけ。ガラスのように鋭く。
「もう一度言ってみなー!」
声を上げて怒りを露わにした!
「今度はあなたがキスさせられるわ、私の靴に――!!」
彼女は首を傾げ、脅しを楽しむように微笑み返した。
「彼はどちらを想うかしらね~?…貴女がいない間に。......彼を焼いた銀髪の炎か、それとも癒した優しい新手かー?」
「ふーん!」
きりりと背を向けた。
ヒールが石を打つ──カチ、カチ、カチ──怒りを極限までに抑えながら歩き去る。
あんな女のために我を失う価値などないわ!
「どこへ?」
背後から声がかかる。
カチカチー
振り向かない。
「彼を探しに決まっているだろう!」
唸った。
「どの世界にいようと必ず見つけ出してやるわ!」
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