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第34話:磨かれた服従、語られぬ欲望...

別の部屋に移したオルフェミとレイザリア姫:


空気はまだ淀んだままだった。


ポータルの異常は現れた時と同じ速さで消え去り――侵入者も脅威も何もなかった。


ただ一瞬の魔力の煌めきと、不気味な静寂だけが残された。


衛兵たちは解散したが、部屋には何かが漂っている。重苦しく、見張られているような感覚。


俺は磨かれた大理石のような不思議な材料で作られた真っ白いテーブルの前に腰を下ろし、体は静止しているが心は別の場所にあった。


目の前の杯に軽く指を絡ませるが、喉は渇いていない。ただ思い出に浸っていただけ。


向かい側のレイザリア王女は頬杖をつき、好奇心と支配欲が入り混じった眼差しでこちらを見つめている。貴族のたしなみを身にまとっているが、その下にはより野生じみた飢えが潜んでいた様子だ。


「女がいると言っていたね」

彼女は静かに言った。

「あなたの思考を占めるその女。あなたがついさっき、ヴィオレッタだという人物を...」


俺は王女の顔を見た。

その声は単なる好奇心以上のもの――より鋭い何かで縁取られていた。所有欲か、縄張り意識かぁ...


鼻から息を吐き、再び視線をそらした。


「彼女については…説明するのが難しい...」

俺の声は、脳裏に浮かぶ彼女の姿に釣り合わないほどに小さく感じた。


「貴族的で、雪のように白い肌。冬の月光のような銀髪。部屋に入るのではなく、真っ先に征服しに行くタイプだ。ベルベットに包まれた鞭のような女だったよ」


レイザリア姫は片眉を上げた。

「暴君のようね。あなたをどうやって縛りつけてきているの?」


「あ~ははははは......」

乾いた笑いを漏らし、テーブルに肘をついた。


炎の光が杯に揺らめく。映った俺の顔は疲れていたに違いない。


「...彼女は、......俺を跪かせたことがある」


レイザリア姫のまぶたが微かに震えた。


「跪かせた、ですって?」


「ああ。ヒールを履いたまま磨かせた」


予想外の答えに、彼女の仮面に亀裂が走った。

「…靴を、...あなたに磨かせたというの?」


ゆっくりと頷いた。

「...それだけでは終わらなかったけどね」


再び視線をそらす。

恥ずかしさからではなく――ただ言葉を探していた。


「......そのハイヒール靴に、...キスを命じられたことがある」


「.......................」

続いた沈黙は重く長かった。


彼女が衣擦れの音と共に座り直すのが聞こえ、彼女がこの情報を解釈しようとするのが感じられた。


「…そして従ったの?」


俺は落ち着いた目で彼女を見返した。

「その前日、彼女は同じヒールで男の肋骨を砕いていた。腐った果物のように頭蓋骨を踏み潰すのを見た。その後、跪けと言われた…」


......躊躇した。記憶が鮮明によみがえる。


「…感じたのは恐怖ではなかった」

静かに言った。

「何か別のものだ.........」


...................

二人の間に重い静寂が広がった。


「もっと深い何かを......」

自分自身に言い聞かせるように付け加えた。


レイザリア姫はしばらく黙っていた。再び口を開いた時、彼女の声から嘲笑いは消えていた。


「このヴィオレッタ…周囲の全てを支配する女のようね...」彼女は呟いた。

「そしてあなたは熟練の戦士ながら、召使いのように彼女の命令に従った」


鋭い猫のような笑みを浮かべた。


「実に不適切で…野蛮で…興味深いことよ、それ...」


俺は目を細めた。彼女俺を嘲笑っているのか、その情景を賞賛しているのか判別できなかった。

王女なら両方だろう。


彼女はゆっくりと立ち上がった。ヒールは大理石の床に音も立てず、まるで部屋の一部のようだ。そして檻の端を探る捕食者のように、俺の座ってるこの周囲を回り始めた。


「侮辱と取るべきか、興味を引かれるべきか」

俺の背後で囁いてきた王女。


背中に影のような存在感を感じる。

「......女にそんなことを許すなんて」


身を乗り出した。吐息が耳に触れる。


「...従属させられるのがお好きなの、異国の騎士君?」


顎に力が入った。

体内で何かがうねった――原始的で、頑固で、誇り高い何かが。


「そういう問題ではない」

歯の間から言葉を絞り出した。

「彼女の事だ。彼女の何かが俺の心を鷲掴んで離さない気がするんだ...」


彼女は再び背筋を伸ばし、腕を組んで考え込みながら離れた。


俺が振り返ると、月明かりに浮かぶ彼女のシルエットがバルコニーへ向かっている。


「もしかすると、このヴィオレッタはあなたの捕縛者ではなく...」

彼女は思索しながら言った。

「羅針盤なのかもしれないのね」


声は柔らかだが、鋭さが潜んでいた。レイザリアのような女は、たとえ眼前にいないライバルでも好まないみたい。


椅子から立ち上がりベランダへと続く外へ歩いてきて宮廷庭園を見下ろすと、微かに不可解な笑みを浮かべながら背後にいる振り返った。


「だが…もし彼女がこの宮殿にいたら…」

声は絹のように滑らかになったレイザリア姫。

「あんなに自由にあなたを従わせたりはさせないわ」


そして剃刀のような笑みで付け加えた。確かにここは彼女の王城で国だ。郷に入っては郷に従えというので、俺に屈辱的な命令は出来ないようにヴィオレッタ様に求めたらあいつも従うしかないだろう......


「この宮殿で戦士を跪かせる権利があるとすれば――それはワタシだけだからよ」


俺は返答しなかった。できなかった。息は胸の奥で止まったまま。


......またしても、あの感覚だ。戦場の緊張。刀の両端から俺を引き寄せる二つの力。


一つは月のように冷徹で無情。


もう一つは太陽のように炎のごとく帝王的。


そして俺――黒曜刃のオルフェミ――はその狭間に立つ。


戦いに鍛えられた男が、今また別の戦いの中にいる。せめぎ合い中の二人の女王様の渦中にいるかのような......


忠誠の。


欲望の。


......そして、権力の......


そしてどちらの女も、戦わずには放さないだろう。

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