第30話:悪白令嬢の主張
翌日:
反乱軍の隠れ家の石造りの廊下は冷たく、薄暗い松明の炎が壁に長い影を揺らめかせていた。
エレインはオルフェミの数歩後ろを不安げに手を組みながらついていく。二人の靴音だけが静寂を埋めていたが、居心地の悪いものではなかった。ただ、もう少し一緒に歩いていたかっただけのようだ。
角を曲がると、静かな小部屋――元は倉庫だった休息所に着いた。オルフェミが中に入り木箱に腰を下ろすと、ここ数日の重圧がようやく肩にのしかかった。エレインは戸口で躊躇した。
「入っていいよ」
彼は深く落ち着いた声で言った。
エレインは頷いて前進し、松明の明かりに浮かぶ白い肌をさらした。銀色がかった金髪が繊細な顔を縁取り、青い色の瞳が静かな熱意でオルフェミを見上げる。
「ちょっと…話がしたくて。いい?」
「もちろん」
彼は優しく視線を向けた。
「どうした?」
エレインはためらい、やがて彼の隣の木箱に座った。小さな体はほとんど場所を取らない。
「いろいろ考えてたの。王子様のこと。昔の生活のこと。今のこと」
俯きながら続けた。
「...全部終わった後、あたしには行く場所がない。貴族の家はあたしを捨てた…売り飛ばしたんだもの。もう『エレイン様』なんて呼ばれる資格もないかも...」
オルフェミは黙って話を聞いた。
「あたし…呪われてるのかと思ってた。愛される運命じゃないんだって......」
声が震えた。
「でも、あなたやヴィオレッタさんに出会えた。ヴェーレナさんや変な薬つくるおじいさんも。みんなが守ってくれた」
瞳を潤ませながら彼を見つめた。
「......特にオルフェミさんが...」
オルフェミの眼差しが柔らかくなった。しばらく黙り、言葉を選ぶように静かだが力強く言った。
「エレイン…お前は呪われてなんかじゃないよ。ただの強い子だけだ。...普通なら耐えられない苦しみをもう乗り越えた身だ。それでも優しさを失わない。なら、...それは弱さなんかじゃないぞ?紛れもない勇気だ」
エレインは唇を噛んだ。
「...でも辛いの。目を閉じると、追い出された屋敷の門が見える。いつも思う――あたしが十分じゃなかったんじゃないかって」
彼は手を伸ばし、そっと彼女の肩に触れた。
「裏切ったのはあいつらだ。お前じゃない。金のために子供を売るような家族がどこにある?」
エレインの目に涙が溢れた。突然、彼にしがみつき顔を押し付けると、小さな声で尋ねた。
「じゃあ…これから家族って呼んでもいい? 本当に…一生に、......パパって呼んでもいい...?」
オルフェミは一瞬凍りついた――その言葉の重みに心臓が跳ねた。
パパ。願いと喪失に満ちた言葉。
彼は大きな手で彼女の頭を撫で、少女の銀髪を梳いた。
「安心できるなら…そう呼んでもいいぞ...」
エレインは涙をこらえ頷いた。
「ありがとう。...あたしは、ただ、...どこかに属していたいだけなの」
「もう属している」
しばらく二人はそうして座っていた――戦士と孤児、血縁ではなく苦しみと保護で結ばれた絆。
やがてエレインは離れ、笑顔を見せた。
「今度、剣の使い方教えてくれる?」
オルフェミは柔らかく笑った。
「俺の剣より小さなものから始めよう。それならば、教えてやれる...」
彼女は決意に満ちて頷いた。
「あたしもいつかオルフェミさんを守ってあげたい。オルフェミさんがあたしを守ってくれたように」
「きっと、その日が間もなく来るだろう」
オルフェミは彼女の心境が十分に分かるような表情を浮かべながら答えた。
「それと……最近変な夢を見るの。幽霊や悪霊が出てくる……怖いはずなのに、冷や汗で目が覚めても、なぜか……興味を感じるの」
「それは……」
オルフェミは返答に詰まり、ようやく言葉を見つけた。
「ただの夢だろう……だが、あの廃墟で幻影が現れる前に、お前は声を聞いたんだろ? 言いたくはないが……周囲には常に気をつけろ。お前には眠っている力があるかもしれない。何か、原始的な、理解を超えた何かが……」
はっきりと言い切れずに途切れた。
エレインは交わしていたその会話に明らかに動揺したが、やがてぬいぐるみや好きな食べ物の話に話題を転換できた。
立ち去るエレインを見送りながら、オルフェミの顔に微かな笑みが残った。
彼は怪物や暗殺者、悪徳貴族や政権転覆の王子様と戦ってきた。
だが、エレインの静かな強さ――彼女が寄せた信頼は、どんな戦場の勝利よりも深く胸を打った。
もはや彼は異国の地を漂うだけの剣士ではない。今や何かの一部になったんだ。
奇妙に成長しつつある家族の。たとえ戦いが迫っていようと、久しぶりに……孤独を感じなかった。
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ヴィオレッタ・フォン・アウステルリントは反乱軍の隠れ家上層部の石造りのバルコニーに立ち、月光のような銀髪を背中に流していた。
黒く輝く手袋をはめた腕を組み、松明の明かりにかすかにきらめいていた。眼下には、オルフェミとエレインが以前より密接に歩く姿がよく見えた。
エレインが彼に寄り添い、強く抱きつくのをヴィオレッタは見つめた。
彼女の氷のような青い瞳が細くなった。
かつて彼女は感傷や弱さを嘲笑っていた。
だが、オルフェミが彼女の退屈な日々を切り裂く剣のように現れてきて以来、彼女は均衡を失っていた。
リズムが狂い、脱線した。彼女は自らの存在を鞭のように使い、注目を集めることに慣れていた。しかしオルフェミは……誰の気まぐれにも屈しなかった。彼女にさえ、完全には。
――少なくとも最近までは。
彼が跪いて彼女のヒールを磨いた記憶――黒革を優しく撫でる逞しい手、それを勝利の笑みで見下ろした彼女――は今も胸を灼熱させる。彼に靴先にキスを命じた時、息が詰まるのを感じた。
黒い肌の異国の男、エキゾチックで強靭な彼が、ためらわず悪党どもの頭蓋骨をヒールで穿ち砕く冷酷な白い肌の女に屈服した。
それは彼女の冷たい心に、虚栄心以上の原始的な何かを目覚めさせた。
所有欲。
だが今、エレインが割り込んできた。あの子はただの子供よ、とヴィオレッタは自分に言い聞かせた。それなのに……彼はあんなに優しく抱きしめる。
かー、か、かー...
...背後に静かな足音が響いてきた。
「また見つめていらっしゃるの?」
ヴェーレナの滑らかで優美な声がした。
彼女は石壁に寄りかかり、黒と白の修道服に包まれた肢体をくねらせ、光沢ある黒タイツと――ヴィオレッタと同じく常に履いている、凶器のようなハイヒールを交差させていた。黄金の髪は聖人の光輪のように顔を縁取っている。
「私は自分の所有物を見ているだけよ」
ヴィオレッタはそっけなく答えた。
ヴェーレナは薄笑いを浮かべた。
「あら? オルフェミは独立した人間だとばかりー」
「彼はこのグループの一員だ。そしてリーダーは私だわ」
ヴィオレッタは少し向き直った。
「それにあなた……最近彼に馴れ馴れしすぎるわね」
「「......」」
二人の間に冷気が走った。
ヴェーレナは無邪気に手を上げたが、笑みは悪意に満ちていた。
「まあまあヴィオレッタさん。ただエレインを守ってくれたお礼を言っただけですわ。あの戦いぶりは誰もが認める傑作でした。強い男に女が魅了されるのは自然なことでは?」
敬語になって皮肉るような言葉で返したシスター。
ヴィオレッタのヒールが鋭く鳴り、完全に恋ライバルであるシスターに向き直った。
「賞賛と野心を混同しないことよ。彼はあなたのものなんかじゃないわ」
ヴェーレナは柔らかに笑い、一歩近づいた。
「嫉妬なさっていて 可愛らしいですね。あのような異国の殿方が、貴女の血にまみれているハイヒールに簡単に飼い慣らされると、本気で思う~?」
言葉は鋭く突き刺さったが、ヴィオレッタはひるまなかった。
「飼い慣らすと献身をまたも混同してるようね。...彼は自ら進んで、私に惹かれるようにして跪いてきただけなのよ?」
ヴェーレナは首を傾げた。
「他者が命令ではなく温もりを差し伸べた時、いつまで貴女を選び続けるか……楽しみですわ~」
ヴェーレナが腰をくねらせながら廊下に消えると、ヴィオレッタは再び眼下を見下ろした。
オルフェミはエレインを連れて自室に戻っていったみたいだ。
「くっ......」
胸が締めつけられる。
彼に思い出させなければ。
自分自身にも。
二人が築きかけてきたものを。
彼はかつて彼女を「恐ろしい」「威圧的」「畏敬すべき女」と呼んだように。
そして再び示すつもりだった。
一歩一歩、ヒールへのキス一つ一つ、眼差しの一つ一つで。
彼は絶対に私のことを一生忘れないわ。その頭にある記憶はいつまでも私からの『贈り物』で埋め尽くされてきたはずだわ......ふふふ...
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