第20話:肉の城壁オルフェミ
全てが速すぎて、私には行動する暇もなかった。
「キ――――――――――――――――――――!」
あの赤い亡霊は、耳を完全に無視する音を発した。視界が真っ白になり、膝が砕けそうになった。
叫び声は頭蓋骨の中で、百万本のガラスの破片のように暴れ回っている―――!
「くっ!...」
私は動けなかった。
単なる恐怖心だけではない気がする...
何らかの力によるものだ。
罪と同じくらい古い呪術だ。
だが、オルフェミは違った!
彼は躊躇なくエレインの前に立ちはだかる。
シミターを構え、
岩のような表情で。
「エレインに手を出すなー!」
と唸った。
「キキ―――!」
亡霊が襲いかかる――!目にも留まらぬ速さで――!その外套は引き裂かれた肉のようにひるがえった。
オルフェミは微動だにしない。最初の一撃を全身で受け止め――壁に叩きつけられても――まだ立っていた。
額から血が流れ落ちている。
「ぷー!」
唾を吐き、ダガーを構える。
「それだけじゃ足りねえぞ――!」
と歯を剥く原始的な怒りを表す異国な漆黒肌の剣士。
そして……
突撃したー!
私は地面にひれ伏して無力なまま、その間にオルフェミが何か別の存在になっているのを見た。
筋肉と怒りの要塞。強いだけではない――不屈だ!
動きは優雅ではないが、止められやしない!
亡霊が襲いかかるたび、オルフェミはより強く反撃した!
避けない。耐えるー!
迷わない。ぶつかっていく!
心拍数があがる地滑りのように戦う!
「キキキ―――!!」
グサ――!
亡霊の爪が彼の腕を切り裂く。
それでも彼は気にしない。
バコ――!
その腕で柱に亡霊を叩きつけ、呪声をもう一度叫ばせ、天井の一部を崩落させた!
エレインは彼のもっと後方で泣きながら、この命懸けの戦いを一瞬も見逃さない。
「目を閉じろ、エレイン!」
オルフェミが叫んだ。
「俺が必ずお前を守ってやるんだ」
その時、修道女の服を着ている『彼女』が現れた!
聖なる詠唱と光沢のある黒タイツで包まれている両足の鋼鉄のハイヒール音が轟く!
シスターヴェレーナだわー!
恐るべき威容で。
バキ―――!!
巨大なメイスを紙鎮のように投げ飛ばし、亡霊の脇腹を粉砕する。
煙と砕けた骨の音を立てて亡霊は吹き飛んだ。
「我ながら見事だったわー!」
彼女は声を上げていった。
「男の戦いぶりみたいだったよねー!?」
オルフェミは彼女を見すらしない。
「まだ終わってねえー!」
「あら、知ってるわ、くすくす...」
彼女は笑う。
「一緒にこの化け物を壊しましょう、ハンサムさん~?」
ヴェレーナの参戦で、これはもはや神罰となった。
「ナ~~、ケ~~、マ~~、シ~~、ファ~~ラア~~!」
彼女は狂信的嵐――祝福された武器を狂った精度で振り回し、古代語の祈りを叫び、亡霊を苦しませる。
だがオルフェミは?
オルフェミも依然として一歩も引かなかった。
一度も。
彼は火の中で生まれたかのように彼女と並んで戦った。派手さも、見せつけもない。ただ純粋な力だ。
彼の後ろで怯える少女のための肉の盾。
そして私――オーストリンド公爵家の一人娘ヴィオレッタ、貴族的で致命的な蹴り技を持つ反逆の令嬢、シスターと同じくハイヒール靴を履いた悪名高い『殺戮の魔女』と『人殺しの悪白女』――、は今、ただ見ているだけしかなかった。
幽霊に対する無意識な原始的な恐怖のあまり、身動きが取れなかったのだ!
そして私はそれを憎んだ。
怖がっているからではない。
彼と並んで立っていられなかったからだ――!
後刻、亡霊が灰となって消えた後、私はヴェレーナがオルフェミを眺めているのを目にした。彼が血まみれの包帯を拳に巻いているところを。
そして、彼女は一瞬私の方を振り向いて笑っていたのをはっきりと見れた!
ゆっくりとした、危険な笑み。
雌ライバルを品定めする雌ライオンのように。
「気に入ったわ、オルフェ~!」
声を低くして言った。
「折れた翼の天使みたいに打つんだもの」
彼は「ありがとな」とだけ言った。
「スパーリングパートナーが欲しくなったら……」
彼女の目が輝く。
「修道院追放中のルームメイトでも……いつでもどうぞ?くすくす~!」
エレインは瞬きした。
彼女でさえ気づいた。
そして私は?
「あ~ははは...」
私も何となくですけれど、乾いた笑いだけは自然と口元からこぼれた。
作り笑いで、
硬い笑みで。
これはややこしくなる。
それになんで今「オルフェ」って呼んだの!? あの女、私より先に愛称で呼ぶなんて!
図々しいにも程があるわね!
そして今、最も情けないのは、彼らが親密になっていくのを、まだ幽霊の無音の叫びで視界が真っ白になり、膝が砕けそうで、頭蓋骨の中で百万本のガラスの破片が脳を切り刻むような状態で震えながら、ただ見ているだけしかできない私なのだわー!
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