第18話: 血祭りの大聖堂
ヴィオレッタの視点に戻る:
私たちの間に落ちた重い沈黙は、まるで無言の挑戦のように胸にのしかかっていた。
私はあの二人を目撃した――広間で、近づき過ぎるほどに寄り添うように立っていた。オルフェミとヴェレーナ。
彼女の眼には、単なる仲間以上の意図が潜んでいた。触れた手は、必要以上に長く彼に留まり、そして彼――彼はそれを感じ取っていた。
硬直した肩、揺るがないはずの冷静さに一瞬浮かんだ躊躇。それらがすべてを物語っていた。
胸が締めつけられるが、弱さを見せるつもりはない。これは駆け引きなのだ。
私はかつて、このゲームを支配した。
私こそが、ゲームそのものだった。
だが今、場に新たなプレイヤーが現れた。予想外の存在――、シスターヴェレーナ。
私と同じく青白くて、高潔で、冷たいあの修道女が、オルフェミの思考に侵入し始めていた。
まるで物理的な距離と同じように。認めたくはないが、この苛立ちはかつてない程だ。
それでも、彼女にはどこか……惹かれるものがある。
語る時にきらめく瞳、計算された動作――「彼を守れるのはわたし」と宣言するような......
...しかし、彼は私のもの!
誰にも奪わせしない。
奪わせるわけにはいかないの!
私は広間を歩き回り、次の一手に備えて思考を巡らせた。
ヴェレーナが大胆になり、オルフェミが彼女の中に――私からずっと目を背けていた何かを見出す前に、迅速に動かねばならない。
かー、かー、かー!
そう決めた私は、『とある準備』を整うために倉庫へ物を取りに行ってみた。ドアを開ける最中に扉がきしみ、開いた。
人の気配がしたので、一瞬身構えると――、
現れたのは、ソーンブライアーだった。
まるで図書館の洞穴から這い出し、インク瓶にでも転がり込んだような姿の毒使いの老人、ソーンブライアー。
ローブは染みだらけ、継ぎ接ぎだらけで裾はほつれ、片方のブーツは歩くたびにきしんでいた。
「今宵も...」
彼はぶつぶつ言いながら鞄をテーブルに放り投げ、うめき声を上げつつ腰を下ろした。
「ヴィオレッタ嬢、煙と燃え盛る怒りの匂いは顕著だが何かあったか?」
「...何もありませんわ」
彼は鞄を開け、中身をぶちまけた。巻物、地図、帳簿、そして濁った何かが入った禁断の瓶。
「これは?」
私が問う。
「証拠だ」
彼は言った。
「貴女が潰した貴族共? 奴らは巨大な車輪の一本の輻に過ぎぬ。債務奴隷の闇取引は、公爵令嬢である貴女の想像以上に深い。聖職者、学者、王族――みんなこっそり子供を買いあさってる。...で、この報告を元に、貴女は…彼らを全部止めるつもり?」
私は彼を見た。そしてー
「ええ」
きっぱりと、そう宣言した。
「燃やし尽くしてあげますわ」
ソーンブライアーが歯を見せて笑った。
「派手にやって下さい。我も奴隷が嫌いだからな」
そう言うと、彼はもう一瓶を取り出した。
「ちょうど包帯の在庫を補充したばかりなんだし…」
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明日の夜の、メイン領地とは別に持ってるアウステルリンド邸宅のある王都『カラミス』より数キロ離れた『クロムウェルの町』にある、王国内における第2番目大きな大聖道にて:
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月光に照らされた大聖堂は、どこか冒涜的な輝きを放っていた。
まるで、我々に「聖なるものだと信じろ」と嘯いているかのように。
白い石壁。塔を飾る金の細工。存在すら疑わしい聖人たちを描いたステンドグラス。香木と腐敗が混ざり合う匂いが漂う。
オルフェミ、ヴェレーナ、ソーンブライアー、そして私――四人は向かいの屋根の上に身を潜めていた。
エレインは私とオルフェミの間に座り、大きすぎるコートに包まれながら、必死に勇敢なふりをしていた。
「静かに潜入する」
老いた毒使いのソーンブライアーがひび割れた眼鏡を調整しながら囁いた。
「偽の聖職者、武装兵、祭壇下の脱出路がある。孤児を売り捌く施設の標準装備だ」
「一時間も経たずに、壁は血で染まるわ」
私は言った。
オルフェミが鼻から煙を吐いた。
「そして奴らの口には血飛沫が噴き出すことになる」
ヴェレーナが歯を見せて笑った。
「神がお許しになるでしょうよ、くすくす...」
「ひ~!...」
エレインが震えた。
私は彼女の肩に手を伸ばしたが、身を引かれた。
代わりに、オルフェミに寄り添う。
彼の大きな革手袋の手が、優しく彼女の頭を撫でた。
「大丈夫か、エレイン?」
彼女は潤んだ目で頷いた。
「...オルフェミさんは他の人みたいに怒鳴らないね」
「怒鳴るさー」
彼は微笑んだ。
「ただし、怒った時だけな」
「今は怒ってる?」
「とてもな」
彼は言った。
「だが、お前に対してではない。...あの、どうしようもない屑な奴隷商人と奴隷売買に関わってる貴族共に対してだけだ」
「そう、なら良かったね、えへへへ~」
彼女はかすかに笑った。
その姿は、認めたくないほど私の胸を締めつけた。
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潜入は最初、外科手術のようだった。
ソーンブライアーは12秒で脇戸の錠を開けた。
ヴェレーナは聖戦の太鼓のように背中に括りつけた巨大なメイスで背後を警戒。
オルフェミは影のように静かに先導した。
私はエレインを背後に従え、マントの下に隠した刃を携えていた。
内部の長椅子は満席だった――礼拝者ではなく、仮面の男たちと外套をまとった入札者で。
競売が始まっていた。
高壇の上で、白髪の少女が声も出さず泣いている。金銭が叫ばれ、金が交換され、罪が日常と化す。
私はエレインを見た。
彼女の顔は石のように固かった。
最初に動いたのはヴェレーナだった。
彼女のメイスは神の槌のように振り下ろされ、長椅子と脊椎を同時に粉砕した。
「悔い改めよー!」
グチャア―――――――!!!
男の頭が瓜のように破裂した。
「ひゃああ――!!?何者だ―――!?」
「し、シスターがどうして我々を―――!?」
悲鳴。恐慌。入札者たちは出口へ殺到し、護衛たちは遅ればせながら剣を抜く。
オルフェミは煙のように彼らの間を縫った。
後々の戦いに備えてシミターを温存し、今は両手にダガーを構え、敵陣を舞うように進みながら腱を断ち、肺を黙らせた。
グサ―――!!グチュー!グサ―――!!
「ギャアぁ――!?」
「うぐ~っ!?」
私は前線を蹂躙し、ハイヒールが戦鼓のように響いた。
バコ――!ぐちゅー!
蹴りは肋骨を砕き、膝を折り、顎を粉砕する。
競売の巻物を持った男の喉にステッレートを突き立て、私は囁いた。
「...借りは返した」
エレインはソーンブライアーの背後に隠れていたが、その目は一切を見逃さなかった。
血。炎。正義。
彼女はもう恐れていなかった。
学んでいたのだ。
終わった後、鎖につながれた少女たちを解放した。八人。その半数は泣き止めなかった。
エレインは我々の中にいて、静かに動かなかった。
オルフェミが彼女の傍らに膝をついた。
「よくやった」
10歳の少女であるエレインは彼を見上げた。
「どうしてあたしに優しいの?」
「昔は優しくなかった......先日も、お前に対して何ひとつ良い返事ができなかった」
彼は答えた。
「だが、...優しさとは何かを教えてくれた人がいた」
ああ、きっとあの淫婦のヴェレーナなのね~!あの忌々しい外見だけシスターの泥棒猫がー
「あたしも...ずっと一緒にいてもいい?」
エレインは声を震わせながらオルフェミに聞いた。数日前に尋ねた時よりも、さらに切羽詰まった声色で......
「...本当のお父さんみたいに? あたしの...本当なのは、もういないから」
彼はエレインの要求に対して暫くの間凍りついた顔つきになった。
だけど、それも数舜だけで、直ぐに微笑んだ。
傷だらけの男には似つかわしくない、珍しく温かい笑顔だった。
「聞く必要などないよ、エレイン。...お前はもうここにいて、俺の側で一緒に生きていっていいんだ」
「~~!ぱ、パパー!」
彼女はオルフェミに抱きついた。
私は影からそれを見つめ、胸が締め付けられる思いで喉元に渦巻く嵐を飲み込んだ。
私が何して小さな子供に対して嫉妬してるのよ~!?
らしくないわ、今のは......
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それから、ヴェレーナは血と聖句にまみれながら説教壇に寄りかかっていた。
「さて」
彼女は呟いた。
「これで破門にならなければ、何したらそうなるのか見当もつかないなー」
ソーンブライアーは燃える賛美歌集でパイプに火をつけた。
「......我々はついに宣戦布告をしたばかりだ」
彼は言った。
「結構よ」
私は砕けたガラスと断ち切られた鎖の中に立ちながら答えた。
「悪魔どもを招き入れよう。本物の聖徒の姿を見せてやりますわ、あ~はははは―――!!」
悪役令嬢らしく、そこら中にある木製の長椅子の背凭れの上に足を乗せて高笑いしてみせた私だった。
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