第17話:メイスの女とシミターの男
数日後のシスターヴェレーナの視点:
煌々と揺れる炎が、広間の豪華なタペストリーに長い影を落としていた。
わたしは入り口に立ち、彼を観察していた。オルフェミだ。
彼はわたしがいることに気づいていない――その集中は全て、手にした剣へと注がれていた。黒曜石のような刃は、薄暗い光の中でもきらめいている。
彼の姿勢は完璧で、動きは滑らかだが、どこか落ち着きがない。何かが……変わっていた。
それは彼がヴィオレッタさんを見つめる時の眼差しにも表れていた。微妙な変化だが、わたしは愚か者ではない。その意味は分かっていた。
......変化だ。
彼の心の奥深くで火花が散り、それは単に彼女の命令によるものだけではない。何かもっと深いものが――
「......」
そして、わたしはそれを見逃すつもりはなかった。
カー、カー、カー!
部屋に一歩踏み込むと、わたしの黒タイツに包まれているハイヒール靴が石の床を撫でるかすかな音がした。
彼はその音に身体を硬直させ、素早く顔を上げてわたしを見た。
「ヴェレーナ...」
彼は声にわずかな驚きを滲ませて言った。
「......何かあったのか?」
「何も問題ないわ、オルフェミ」
わたしは思ったより柔らかい声で答えた。
「ただ、気づかずにはいられなかったの……あなた、最近みんなから遠ざかっているような、引き気味な態度ばかりだったでしょう?」
「.......」
彼はすぐには答えなかった。
まるでわたしの言葉の重みがまだ完全に理解できていないかのようだ。
その鮮やかな紫色の瞳はわたしを探り、頭の中で思考が回転する音が聞こえてきそうだった――わたしの言葉がどこの終着点に向かおうとしているのか、必死に推測している。
「あなたは……集中しているのね」
わたしはさらに一歩近づき、続けた。
「でも、その対象はわたし...ではなさそうね...?」
言葉はわたしたちの間に重く浮かび、語られていない意味を宿していた。
ぎゅ~!
彼はわずかに体勢を変え、剣の柄を握る手に力が込められた。
彼の顔には内面の葛藤が浮かんでいたが、わたしは辛抱強く待った。
待つことだけなら、それは既に心得ていたことだわ。
「あなた、わたしがただ役割を演じているだけだと思っているのでしょう?」
わたしはさらに近づき、優しく囁いた。
「でも、わたしはこのメイス以上の存在よ、オルフェミ。...誓約以上の何かを持っているわ」
わたしは腰に下げた重い武器の磨かれた頭部に指を滑らせ、炎の光を反射させた。
「そして、もしあなたがよく見てくれるなら……わたしはただの女神様の修道女ではないことが分かるはず」
「-!」
彼は喉を鳴らし、視線が一瞬、下へと逃げた。
「そんなつもりでは――」
彼は言いかけたが、わたしは遮った。
手を伸ばし、彼の腕に触れる。
シャツの生地越しにも伝わる彼の漆黒肌の熱。
......わたしの触れた部分の筋肉が緊張し、内心、笑みが浮かんだ。今、彼はわたしを意識している。
そして、その意識をさらに大きくしてやるつもりだわ。
「オルフェミ......」
わたしは優しく顎を上げ、彼の目を見つめて言った。
「あなたは彼女の奴隷である必要はない。彼女に跪く必要もない。あなたは……わたしと共に、堂々と立てて行動できるのよ?」
その言葉はわたしの舌の上で異質に感じられたが、それでも真実味を帯びていた。
わたしは長い間、この感情と戦ってきた。...だが今、彼の心が揺らいでいるのを見て、行動を起こすしかないと悟ったのだ。
彼はわたしを見つめ、引き裂かれるようにしていた。
わたしの言葉と存在が、彼を二つの方向へと引っ張っているかのようだった。
瞳が一瞬、ヴィオレッタが最後に通った扉へと向かい――、その瞬間、わたしはそれを見た。
憧れ。
引き寄せられる感覚。
そして、知らずのうちにわたしは静かな怒りを覚えた。
あの女は彼の注意を引きつけ最奥まで存在感を蝕ませ、そして彼は進んで自分の自尊心と自由を差し出していた。
......彼はまだわたしのものではない――だが、いずれわたしに振り向かせてやる。感じさせてやる。
「......ん~」
わたしはさらに近づき、わたし達二人の距離はほとんどなくなった。
声は吐息のように低くなり、言葉に艶めいた響きを乗せた。
「ヴィオレッタさんの何に惹かれるか、分かっているわ」
わたしは頬に温かな息をかけながら囁いた。
「でも、本当の戦いが来た時、彼女はあなたを守らない。嵐からあなたを庇ったりしない...」
わたしの手は彼の腕から胸へと移り、鎖骨の輪郭をなぞった。
彼はかすかに震えた。
「わたしならそうする。そして、あなたが誰かを必要になった時……わたしは絶対にそこにいると誓うわ」
「ごっく...」
彼は鋭く息を吸い込み、わたしの触れる胸の下で心臓が激しく鼓動していた。
瞳には葛藤が浮かび、ヴィオレッタさんへの忠誠心が――ほんの一瞬、ほんの少しだけ――揺らいだ。
それで十分だった。
「隠す必要はないわ」
わたしは優しく、ほとんど慈愛に満ちた声で言った。
「わたしは見ているのよ。あなたを……いつまでも見ているの。...あなたの価値を証明するために、彼女に跪く必要はないわ。あなたはそれ以上の人間よー」
彼の唇が開き、初めて、その眼差しに何かが灯った――疑問が。
わたしはさらに一歩近づき、体をわずかに彼に預ける。薄い生地の向こうで、彼の鼓動が強く、確かに伝わってくる。
「自分の中にあるものを恐れないで...」
わたしは声をさらに撫でるようにして囁いた。
「わたしが答えを探す手伝いをさせてー?本当のあなたになれるように……手伝わせてー」
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長い瞬間、炎の爆ぜる音以外は何も聞こえなかった。わたしたち二人だけが、張り詰めた空気と語られていない可能性の中に浮かんでいた。
そして、オルフェミはわたしの予期しない行動を取った。
「...」
彼は一歩下がったのだ。
息は浅かったが、彼は自分を落ち着かせ、暗い瞳でわたしを見つめた。まるで、静かな決意に至ったかのように。
「俺は……」
彼の声はかすかに震えた。
「……こんな風には、できない。ヴェレーナ......」
わたしは一瞬黙り、ゆっくりと計算高い笑みを浮かべた。
「くすくす、いつかわかると思うわ」
わたしは柔らかく、しかし揺るぎない声で言った。
「あなたは……必ず、わかるようになると信じてるから......たとえどんな時間を有していても...」
そう言い残し、わたしは踵を返した。
かー、かー、かー!
彼はまだ部屋の中央に立ち、わたしがかき立てた感情と格闘している様子だ。
部屋を出ながら、わたしは思った――これはまだ始まりに過ぎない。
...本当のゲームは、これからなのだと...
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