第13話:私の庭で血を流す者へ
すべては、風から始まった。
静かすぎる夜。鋭すぎる囁き。
私は寝室の窓から外を眺めていた。
月が静かに照らす庭は美しく、完璧で、私の領地の誇りそのものだった。
だからこそ、最初の叫びが耳に入ったとき、私はすでにヒールを履いていた。
「パパ――!」
エレインの声。
一瞬で私の中の何かが切り替わった。優雅さの仮面を脱ぎ捨て、私は怒りをヒールに込めて庭へと駆け出す。
ズシャ―――――!!
そして目にしたのは、オルフェミの剣が空中で閃き、血飛沫を描く光景。訓練場が戦場へと変わっていた。
「中へ!今すぐ!」
彼の声がエレインを礼拝堂へ導くのを見届けながら、私は闖入者の一人の背後に音もなく近づいた。
その男が私の存在に気づいた瞬間には、もう遅かった。
バキンッ。
ヒールの踵が頭蓋に突き刺さり、まるで熟れすぎた果実のように潰れる感触が足裏に伝わる。
「ふん、我が家に無断で踏み入ったツケよ」
呻く男の胸骨に、もう一度ヒールを突き刺した。
ぐちゃー!
折れる音が、まるで交響曲の一部のように心地よい。
もう一人。
バコ―――!!
跳躍してきた男を回し蹴りで叩き落とす。
黒のコートが翻り、脚線美が怒りと共に空を裂く。
彼は薔薇の茂みに突っ込んで痙攣しながら沈黙した。
私の脚に血が飛び散る。ストッキングが紅に染まる。
だが、どうでもいい。これは戦い。美と怒りの舞踏だわ~、ふふふ......
そして、そのとき現れたのが彼女――修道女ヴェレナ。
漆黒の修道服に身を包み、銀のメイスを手に。私と同じくハイヒールの足音が石畳に響き、まるで聖なる鐘の音のよう。
「私の後ろに隠れていなさい、子よ」
エレインの頭に優しく手を置き、祈りを捧げるその姿は、シスターであり戦士だった。
襲い掛かる暗殺者に対して、ヴェレナは一歩も引かない。
バキンッ。
メイスが空を切り、骨が潰れる音が響いた。
「邪悪な者に情けは不要」
淡々としたその声に、私は内心で喝采を送る。
...美しい――聖なる怒り。
オルフェミもまた、月光と血の中で刃を舞わせていた。彼の動きは詩のようで、どこか悲しみを含んでいるようにも見えた。
闘いの中で、一瞬だけ彼と目が合った。
彼の目の奥に、私と同じ怒りがあった。
…信頼できる。そう思った。
戦いの終盤、私の足元に倒れ込む最後の暗殺者が、血まみれになりながら泣き喚いた。
「た、助けて…慈悲を…!」
「ふふふふ......」
私は微笑んだ。冷たく、凍てつくように。
「間違った家を選んだわね?」
グシャッー!
血にまみれてる私のハイヒール靴の下で、命の音が止んだ。
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静寂が戻った。
死体が私の庭に散らばり、血が石畳を赤く染める。夜風がそれを運び、月は何も語らず見下ろしている。
私は踵を返し、ハイヒールが血に滑るのも構わずに歩いた。
「王子の仕業ですわよ...」
唇から怒りがこぼれる。
「奴は私たちの守りを試していましたわね。だが、ここがどこだと思っていますの?」
オルフェミが短く頷く。
「後悔させてやろうか?」
「もちろんよ、ふふふ~~」
私は楽しく笑う。
「私の庭を汚した代償は、血だけでは足りませんわ」
ヴェレナは祈るように呟く。
「女神の光は、闇に囲まれるほど輝きを増します......」
その横で、エレインが震えながらも力強く言った。
「私たちの家を…守ろうー!」
その言葉に、私の心は静かに揺れた。
そう――これは家族だ。私の家族。誰一人、奪わせはしない。
バルコニーの上で、毒使いの老人が笑っているのが見えた。
あの老獪な男、何を考えているのか。
だが――今夜は、我らの勝利。
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私の庭で血を流す者へ――それがどういう意味か、よく覚えておくことね。




