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最弱と最強の頂点―アルトヘヴン―  作者: フリーの傭兵
STAGE1――幻の黒龍
9/10

岩石地帯の怪物

 東の門を越えてまずあるのが言わずと知れた草原地帯であるが、ずっと草原が続くわけではない。奥に行けば危険度は上がり、地形もまた変わる。

 リュウガ達の現在位置は方角にして東北東へと進んだ先にある岩石地帯、その入り口であった。

 後ろには気持ちよさそうな草原があるというのに、前を見ると生命を感じさせない、ゴツゴツした岩と砂利しかない陸地が広がっている。

 その境目は空間的に隔絶されているかのように思えた。

 なぜ入り口で止まっているのか。

 それは、「そういえば極限技って結局どんなの?」とリュウガが岩石地帯に入る直前に言い出したからだ。

「ああ……忘れていた、悪かったな」

 キロと外に出たときは頑なに教えてくれなかったことだが、蒼太はあっさりと教えてくれる気になった。

 あのときはキロを警戒して、教えなかったらしい。キロに襲われたことは確かなのだから、蒼太の判断は正しく、それを責めることは出来ない。

 逆に、今教えてくれるということは、ミキのことを信用してくれているということでもあった。

「んー」と蒼太は考えるような声を上げて、言った。

「ちょうどいい。新武器のお披露目といこうか」

「新武器?」

 リュウガがそう言うと同時に、左腰の周辺にキューブが生まれた。それが急速に集まり、形を取った。

 色が塗られ、既視感のある刀がそこに存在していた。

 その間、0・05秒。

「これはおっさんの刀!?」

(いったい、いつの間に?)

「キロとフレンド登録したときにもらったんだ。そういえば、フレンド登録のことは言ってなかったな」

 リュウガが気絶していたときのことだ。

 キロからフレンド申請メールが来た。何の脈絡もなく、突然だった。

 蒼太がそれが受諾するか悩んでいると、キロが喋り始めた。

「俺は商人になろうと思う」

 繋がっていないプレイヤーとキャラクターの間に会話は成立しない。その場にはミキもいたが、キロが語りかけたのは、間違いなくリュウガ――ひいては蒼太――だった。

 リュウガは気絶している。キロの独り言であった。

「商人ね。まっ、意味は大体わかるが……」

「それでな……そういう形で初心者支援、実現しようと思っている」

「ご立派なことだな」

 蒼太も独り言で返事をすると、キロも独り言を続けた。まるで会話をしているかのようだった。

 キロは初心者狩りをした。初心者支援によってキロは償うつもりなのだ。

 ここまではリュウガも知っていたことだ。

 そして、刀のやり取りはこの後だった。

「俺の武器、〈狼牙〉はお前らに譲ろうと思う。フレンド申請メールを送ったのはそういうことだな」

 何がそういうことなのだろうか。フレンドなら武器を渡せると言うのか。

 蒼太がフレンドというシステムについて十全に理解しているものだとして、キロは話しているようだった。

「ああ、別に売ってもいいぞ。それは馬鹿な俺を助けてくれたお礼なんだからな」

 何を心配していたのか、キロは付け加えるようにそう言った。

「…………」

 蒼太は無言でフレンド申請を受諾した。リスクはあったが、キロの発言が罠の可能性を極端に減らしたからだ。

「俺が寝てる間にそんなことが……」

 その後はあまりに静かだったために、ミキもフレンド登録したかどうかまでは判別がつかなかったらしい。

「あの生意気な黒騎士様をボコボコにしたら、会いに行こうじゃないか」

「……そうだな!」

 リュウガは刀を引き抜いた。

 普段はガッチリと鞘に収まっている剣は柄を掴むと、少しだけ鞘から抜ける。そうして、片手だけでも剣を抜くことが出来るようになっていた。刀も同じだった。

「さぁて、切り札となるお前の極限技はどんな技かなっ、と!」

 蒼太がついに極限技のコマンドを入力した。

 訪れる、反射的に動いているような感覚。

 足が開かれ、両手が口の前で交差される。

 それはまるでヒーローの変身シーンのようであった。

 右足が一歩前へ踏み出され、力の中心が前へと進む。

 その勢いのままに交差された腕が放たれ、剣と刀が綺麗なX字を描く。

「あれ?」

 それで終わりだった。

 剣が光ることもなく、派手な爆発が起こることもない。斬るだけという極限まで地味な技であった。

「なんか地味だな」

「う~む……これは、まさか」

 リュウガがその地味さにげんなりしているとき、蒼太は別のことで悩んでいたようだ。

「リュウガ、刀を置いてみろ」

「ん? わかった」

 リュウガは言われたとおりに、刀を突き刺す。刀は生える草を抜きとり、ゴボッと土を盛り返した。

「やはりな」

「何が?」

 蒼太のしていることがまったく理解できずにリュウガは問う。

「今な、極限技のコマンドを入力したんだ。だけど、発動しなかった」

「うん」

「わかってないな。これは二刀流じゃなきゃ使えなかったんだ。発動できたのは刀をもらったから」

 少し間が空いた。

「つまり、偶然だ」

「それはよかったな」

「そう簡単に見るなよ。この偶然がなければ俺達は極限技を使うことすらも出来なかったんだ」

 リュウガはゆらゆらと落ち着きなく動きながら剣と、地面に刺さった刀を鞘におさめた。

「まぁ、いいじゃん。弱い方がいいんだろ?」

「よくねぇよ」

 リュウガの体は細かに震えたあと、止まった。

「俺が設けた制限はレベル1というだけだ。それ以外は何でも利用する。それに、使えないのと使わないのは大きな違いが出る。お前は一度きりだ。あまりそういうことはしたくない」

「ふーん」

(だったら制限を付けないでくれ〉

 そんな文句を頭の中に浮かべていると、ミキが口を開いた。

「極限技の発動条件がわからないというのはよくあることですよ」

「そうなんだ」

 リュウガは顔を小さく上下に動かした。

「極限技についてわかるのは名前と必要なコマンドだけ。全てを知るためには、最低でもランク7のサーチテトラが必要となるんです」

「ランク7がどのぐらいすごいのかわからないんだが……」

 蒼太が小声で呟いた。ミキには伝わらないため、この疑問に答える声はなかった。

 それを聞いていたリュウガが代わりに質問した。

「ランク7ってどれぐらいすごいんだ?」

「ランクは1から10まであり、ランク4までなら大抵の道具はお店で安く買えますよ。市場でしか買えないランク7となりますと……900gでしょうか」

「きゅ、きゅうひゃく……」

「ふぅん、そんなものか」

 2g稼ぐだけでも大変だったのが900gだ。リュウガにはまるで買える気がしなかった。

 しかし、蒼太にはそう思えないようで、その反応は薄いものだった。

「おいおいおいおい! 900だぞ!? 900!」

「今はそう思えるけどな……金の入りはこのままってわけじゃないんだ。下手したら楽して稼ぐ裏技なんてあるかもしれないんだからな」

「そ、それはまさか……! ギャンブ……」

 言いかけたリュウガに割り込むように蒼太は言った。

「んなことするか……まぁ、期待値が高ければやるけどよ」

(場合によってはやるのか……)

 リュウガは、どれだけ儲けを期待できるか、という意味で期待値を解釈した。

 もし、〈そのとき〉が来たら全力で止めよう、とリュウガは心に誓った。




 極限技の試用を終えたリュウガ達は境界をあっさりと越えて、岩石地帯をズンズンと突き進んだ。もちろん、STを十分に回復してからのことだった。

 一歩進むたびにジャリッと小石が鳴った。二人で止まらずに歩くとそれはもう、うるさかった。 

 何歩歩いても、ビーストは現れなかった。いつまで経っても、砂利を鳴らすのはリュウガ達だけだった。

 あまりの静けさに、リュウガも少しだけ気を緩ませて風景を楽しんだ。

 岩石地帯には一つとして同じ岩はなかった。もしかしたら、細かな砂を纏った小石一つ一つも違う形なのかもしれなかった。しかし、もしそうだとしても、リュウガにはどうでもいいことだった。

「全然ビーストがいないな」

「ええ、私もそう思ってました」

 順調すぎたからかもしれない。

 進みすぎて、リュウガは帰りに不安を覚えていた。

 少しでも岩石地帯のサイクルを知っている者なら、小型ビーストとエンカウントしない時点ですぐに引き返す。

 しかし、リュウガもミキもプレイヤーも、誰もが知らない者であった。嫌な予感がする程度の反応しか出来なかった。

 岩石地帯には怪物達が一斉に食事をする時間が存在していた。その時間は多数の大型ビーストが活発になり、小型ビーストがほとんど消える時間でもあった。

 大型ビーストは岩石地帯全体を徘徊するのが常だが、その時間ばかりは奥に引っ込んで大量の小型ビーストを喰い荒らす。つまり、入り口付近は安全なのである。

 それが岩石地帯の罠だった。

 リュウガ達は既に、怪物達が縄張り争いをする岩石地帯の奥地にまで足を踏み入れてしまっていた。

 そして今、捕食シーンという少々ショッキングな光景を二人――プレイヤーを合わせれば四人――で岩陰から眺めていた。

 ダチョウによく似た生物が地面に横たわり、怪物にムシャムシャと喰われていたのだ。

 キューブのおかげでそれほどグロテスクではないが、良い光景とは決して言えなかった。

 二本足でその体重を支え、控えめな尻尾と何に使うのかわからないほど短い前足がその怪物にはあった。

 数十秒ほど眺めていれば、前足は可愛く見えた。もう少し長ければ、尻尾も可愛く見えるかもしれない。しかし、少し視線をずらすとどんなに長く眺めても可愛さなんて欠片も見出せない怪物の顔。

 これを見た後では、可愛く見えたはずの前足も怪物の前足にしか見えなかった。

(嫌になってくるな)

 それはティラノサウルスという最も有名な恐竜であった。

「えっと、まさかとは思うけど、あれと戦うのか?」

 骨まで噛み砕くティラノサウルスは見る者の背筋を凍らせるほどの威容を放っていた。戦う気がますます失せた。

「当然だ。相手に取って不足はないな」

「おお! なんか、かっこいいな、それ」

(意味はわからないけど)

「戦う相手としてふさわしいってことだ」

「なるほど」

「やっぱり……」と蒼太は言った。

「意味わかってなかったか」

「いやぁ、ははは」

「たくっ……」

 蒼太はやれやれといった様子で言った。

「少しはやる気が出たか?」

「少しはな」

 なくなったとは言えない。だが、蒼太と話して少しだけ緊張感は薄れていた。

「ビーストって確か……階級があったよね?」

 リュウガがミキに尋ねると、品のある声が返ってきた。

「よく知ってますね。私でも知ったのは最近ですよ」

「どんなのがあるかまでは知らないよ。ビーストには階級があるってキロが言ってたからさ。よければ、教えてくれないか?」

「そうですね……」

 ミキはティラノサウルスから目を離さずに言った。

「フライ級、ライト級、ミドル級、ヘビー級……と私が知ってるのはここまでです」

「ふーん」

 リュウガはティラノサウルスに指を差した。

「あれは?」

「おそらく、ミドル級ビーストですね」

「ミドル級? それって確かリュウキが……」

「ああ、お前の弟が倒していたトリケラトプスと同じ階級だな。ティラノサウルスはそいつを捕食していた怪物だ」

「あれより、強いってのか!?」

「まあな。このゲームで強さをどう調整してるかは知らんが。それと……」

 ティラノサウルスが食事を終えて、ヌゥッと首を動かした。

「声が大きいぞ」

 満ち足りない、そんな表情でティラノサウルスはリュウガ達を見下ろしていた。

「うわー。これでもミドル級ビーストなんだよなー」

 これでミドル級ならば、ヘビー級ビーストはどれだけ大きいのだろうか。

 ひどく動揺して、心が伴わない声になってしまった。

 そして、蒼太の言葉も似たようなものだった。

「これでミドル級か。ヘビー級はたいしたことないな」

 意味は真逆だった。

 ティラノサウルスがドシドシという音を立ててこちらに向かってきていた。

 はた(・・)から見れば、速くはない。だが、心の準備が出来ていないリュウガには十分に速かった。

 ただし、心の準備は必要なかった。リュウガはその身を蒼太に委ねるだけで、敵を倒せる。

 リュウガは男として情けなくも感じたが、素直に安心した。

 ティラノサウルスの攻撃をスルリとかわし(・・・)、その足に斬りかかる。

 弾かれたような感覚だが、傷は入った。

 そこから右腕と左腕が交互に振られる。攻撃するたびに、傷は増えていった。

(どうして、ミキさんは攻撃しないんだ?)

 ミキの方をチラリと見やると弓を構えてすらいない。

「ああ……ミキの助けは期待すんなよー」

「なんで?」

「ピンチになるまで手を出すなってメールしたから」

「マジかよ……」

 剣と刀によっていくつもの傷が作られたティラノサウルスの足が予備動作なしで蹴りだされる。

「うぐ……っっ!」

 咄嗟のガード。

 リュウガはとんでもない衝撃に体が吹っ飛ばされた。

 着地に失敗し、砂利の地面がリュウガの背中を潰した。

「いっっ、てぇ……!」

「おいおい、そこで追加ダメージかよ」

「本当に勝てるのか……?」

 苦痛に顔を歪めたリュウガが弱音を吐いた。どうにも弱気だった。

「勝てるさ」

 蒼太はハッキリと断言した。

「次はない」

 蒼太から突撃命令が下された。

 ティラノサウルスの主な攻撃は噛みつきである。それを回避してしまえば、潜り込むことは容易い。

 足元までは頭も届かなかった。しかし、そこではティラノサウルスの次なる攻撃、蹴り上げが待っていた。

 蹴り上げをどう対処するのか、とリュウガは思ったが、なんてことはなかった。

 何度か攻めてわかったことだが、潜り込んでから蹴り上げまでは短い猶予がある。しかも、その猶予は一定なのである。

 つまり、その猶予の間は攻撃し放題――せいぜい二、三撃できるかどうか――であり、蹴り上げられる前に離れればいいだけ。

(前もこんな感じだったな)

 リュウキと戦ったときと、とてもよく似ていた。

 敵の攻撃範囲外から限界まで攻撃し、素早く退く。

 蒼太お得意のヒットアンドアウェイ戦法だった。

 相手が同じ対応しかしてこなければ、蒼太も同じ操作しかしなかった。

(つまらないな)

 そんなことをリュウガは考えるようになった。そう考えられるだけの余裕が生まれていた。

 いつしか、リュウガは技をなぞるように体を動かしていた。まるで、習字において、手本の文字を上から真似るかのようだった。

 技は決められた動きを実行するだけであり、自由度は高いが限界がある。それが不自然な動きだった。

 言うなれば、四角い箱と小判状の物体の関係にあった。技だけでは絶対に埋めることは出来ない。

 しかし、今は操り人形のような不自然さはなかった。

 なぜなら、リュウガが自分で動かそうとする動作と、蒼太による操作にはずれ(・・)があったからだ。

 そのずれ(・・)がちょうど角を埋めて、自然な動きとしていた。

 体はとても軽かった。

 それでいて、リュウガの一撃は人の重みを持っていた。

 とても不思議な感覚だ。

 操作されているのに、自分で体を動かしているような錯覚。

(俺も、戦えるのか)

 気が付くと、あの恐ろしい怪物が手も足も出せずに翻弄されていた。

 蒼太という相方の支援によって、リュウガは今、ティラノサウルスを圧倒していた。

(勝てる!)

 リュウガがそう確信した瞬間、体から無色透明の何かが噴き出す。

 ミキも蒼太も、ティラノサウルスもそれを見ていた。リュウガだけがその変化を捉えられていなかった。

「グルゥゥ…………」

 ティラノサウルスが身を引いた。気のせいではなく、足をずらした跡があった。

 恐竜としての矜持を守ろうとするかのように、ティラノサウルスは攻撃へと移った。それはヤケクソのようにも感じられた。

 そんな噛みつき攻撃をあっさりと回避して、相手の懐へと潜り込む。

 リュウガは攻撃せずに、通り抜けた。ティラノサウルスは足元まで目で追えるがその後ろまでは回らなかった。

 ゆえに、ティラノサウルスは体を反転させた。だが、リュウガの姿は見えない。

 そのときにはもう、岩を土台にして飛び上がり、真上にいた。

 その無防備な背へと刃が向けられる。

「いくぞ……!」

 蒼太の掛け声に合わせて、リュウガは剣を振るった。蒼太もコマンドを入力した。

 蒼太の操作と、リュウガの動作が、一致した瞬間であった。

 それは完成していない小判状の動きではあったが、とても大切な意味を持っていた。

「うおらぁあああああ!!!」

 気合を込めた一撃にダメージ変化はあるのだろうか。

 剣が肉に食い込み、四角い血を搾り出す。

 ティラノサウルス、最初は抵抗するも、徐々にその力は弱くなっていく。

 やがて、断末魔を上げてズズンッと倒れ伏すティラノサウルス。

 リュウガは剣を引き抜いた。残っていた血がほんの少しだけ溢れ出ていた。 

「はぁ、はぁ……ふぅ」

 少しだけ乱れた呼吸はすぐに平常になった。しかし、胸の高鳴りは治まらなかった。

(なんだろう、この感じは?)

 リュウガは自問自答した。答えが出ないのは自分が馬鹿であることとは関係ないような気がした。

 死体となったティラノサウルスを見下ろしながら、リュウガは言った。

「俺が、倒したのか」

「す、すごいことですよ! あのミドル級ビーストを一方的に……しかも、一人で倒してしまうなんて!」

 ミキに褒めちぎられ、リュウガは照れてしまいそうになった。しかし、実際には照れなかった。

 今は怪物を倒したことによる充足感でいっぱいだった。

「よし、もっと奥へ行こう」

「おい、リュウガ。さすがに……」

 蒼太の制止の声にリュウガは重ねた。

「もう少し。もう少しで掴めそうなんだ。俺のわがままにもう少しだけ付き合ってくれ」

 蒼太は何も言わなくなった。カメラの奥でどんな表情をしているのかはわからないが、黙っていることは事実だった。

 リュウガはふと、後ろを見た。

 後ろにはミキの可愛らしい顔があるだけのはずだが、その間に何かがあるような気がした。

 陽炎のようにグニャリと曲がった空間。その歪みから何かが現れるとこはない。炎のようにゆらゆらと揺らめくだけだ。

 ただ、その奥にはリュウキの黒龍に似た何かが隠れていた。

 帰り道にそれはない。あるのはこの先だ。

 リュウガは前を見た。

 誘われるように、一体の怪物が姿を現していた。

「グギギギギッ!」

 獲物を見つけて喜んでいるかのような鳴き声だった。

 まず、目に飛び込んでくるのはギチギチと噛み合わせている二つの鋏。

 細長い鋭角的なフォルムは獲物を掴むための物ではなく、身をバラバラに引き裂く刃物、まさに人間が用いるはさみ(・・・)のようであった。

 次に目に付くのは巨大な尾だ。

 尾の先端には、なんとか視認できる程度の小さな穴があった。

 その穴から何が出てくるかはわからないが、いい予感はしない。

 そう感じたのは、怪物の形状がサソリに似ていたからだ。

 ただし、サソリというのは頭胸部に一対の中眼と何対かの側眼が付いているものなのだが、このビーストには側眼がなく、中眼も本来の位置から前へ移動していた。

 その上、全身に纏った鋼鉄が生物らしさを完全に隠し、機械のような赤い目がこちらを見下ろしているのだから、サソリそのものであると言い張るのは厳しかった。

 だが、間違いなく、このビーストのベースはサソリだった。

 リュウガも図鑑でしか見たことのないサソリ。その数倍は大きく、かっこよく、そして、

「こ、れは……ヘビー級、ビースト……!?」

 強い。

「ははっ!」

 リュウガは自然と笑う。強大な敵と戦う未来を幻視して。

「相手に取って……」

 背中から剣を。腰から刀を。同時に抜き放ち、十字に構える。

 リュウガが戦闘態勢になったことに反応してか、サソリは鋏を大きく打ち鳴らし、思わず嫌悪感を抱いてしまうような奇怪な鳴き声を撒き散らす。

「グギ、ギギ…………ギイイイイイィィィィィッッッッ!!」

「……不足はない!!」

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