第42話 誕生日の誓い
極甘な同居生活が続く、八月のある日。
この日は、穂波の誕生日だった。
日中の製粉作業と配達を終え、クタクタになった穂波が離れの扉を開けると、中は真っ暗だった。
「あれ? みんな、まだお店かな……」
不思議に思いながら電気のスイッチを探そうとした瞬間、パァッと部屋の明かりが灯った。
「「「誕生日おめでとう、穂波(ん/さん)!」」」
パーン!というクラッカーの音と共に現れたのは、それぞれバシッと決めた私服姿の湊、凱、涼真の三人だった。
そして、部屋の中央に置かれたテーブルを見て、穂波は思わず息を呑んだ。
そこには、まるで高級レストランのように完璧にセッティングされたテーブルと、極上の香りを放つ料理の数々が並んでいたのだ。
「えっ……これ、みんなが用意してくれたの!?」
「おせぇぞ、主役。ほら、今日は俺たちが全部エスコートしてやるから、特等席に座りやがれ」
凱が少し照れくさそうに鼻の頭を擦りながら、椅子の背を引いた。
「普段は己の料理の至高を競い合う我々だが……今日という特別な日は別だ。君をこの世界で一番喜ばせるため、三人の技術を完全に結集させた『究極のコラボ・フルコース』を構築した」
涼真が優雅な手つきで、テーブルの上の料理を示す。
「いつも頑張ってる穂波んに、僕たちからの最高のご褒美だよ。さあ、食べて」
湊が極上のオカンスマイルを浮かべ、穂波を席へと促した。
席に着いた穂波の前に、まずは涼真が前菜のプレートをサーブする。
「絵神原産フルーツトマトと、黄金雪を配合した冷製カペッリーニだ。私の乳化技術で素材の甘みを極限まで引き出し、君の胃袋を優しく目覚めさせるための計算を施してある」
一口食べた瞬間、トマトの爽やかな酸味と小麦の香りが口いっぱいに広がり、穂波の目が丸くなった。
「美味しい……! すごくさっぱりしてるのに、粉の旨味がしっかり生きてる!」
間髪入れずに、凱がメインの肉料理をドンッと置く。
「前菜で胃が動いたなら、次はスタミナだ。俺の極濃豚骨スープで三日三晩煮込んだ、特製・豚角煮のパイ包み焼きだ。パイ生地はもちろん黄金雪だぜ。俺の野性的なコクと、小麦の香ばしさの最強マリアージュだ」
ナイフを入れると、サクッという音と共に、ホロホロに崩れる柔らかなお肉が顔を出す。
「んんっ……お肉が口の中で溶ける! 濃厚なスープの旨味を、パイ生地が全部吸ってて……最高!」
そして最後に、湊が湯気を立てる小さなお椀をそっと差し出した。
「締めは、僕のうどんだよ。凱の濃厚な料理の後に君の胃を優しく労るために、黄金雪を極細に打って、一番出汁だけでシンプルに仕上げたんだ。スッと入るでしょ?」
「湊……すごく優しい味。お肉の後なのに、お出汁の香りでいくらでも食べられそう……っ」
和洋中の最強職人たちが、己のプライドを「穂波を喜ばせること」ただ一点に向けて融合させた奇跡のフルコース。穂波は感動のあまり言葉を失いながら、次々と極上の料理を平らげていった。
食事が終わり、黄金雪の粉で焼かれた特製のバースデーケーキに立てられたロウソクの火を吹き消した時。
三人の男たちは、真剣な眼差しで穂波を見つめた。
「穂波。来年も、再来年も、お前がシワシワのババアになっても……俺たちがこうして世界一の飯を作って祝ってやるよ。覚悟しとけ」
凱が、真っ直ぐな独占欲を隠すことなく告げる。
「君が歳を重ねるごとに、私の愛の数式はより深く、洗練されていく。永遠に君の人生をエスコートしよう、私のプリンセス」
涼真が、艶のある声で甘く囁く。
「穂波んが生まれてきてくれたことに、心から感謝してる。一生、僕たち三人で君を甘やかして守り抜くからね」
湊が、大きな手で穂波の頭を優しく撫でる。
三者三様の、重すぎるけれど最高に温かい愛の言葉。実質的な「永遠の誓い」を突きつけられ、穂波の瞳からは堪えきれずに大粒の涙がポロポロとこぼれ落ちた。
「みんな……っ。ありがとう。私、世界一幸せ者だよ……!」
涙でぐしゃぐしゃになりながらも、太陽のような満面の笑みを咲かせる穂波。その笑顔を守り抜くことこそが、彼ら三人の人生のすべてだった。
熱く甘い同居生活の夜は、この上ない幸福感に包まれながら更けていくのだった。




