(469)到着
「・・・と言う事で、今回の件に関しましてはタッシュ先生とミルバ様に対する書状と共に食料も渡しております、ご主人様」
まどろみの世界から戻ったロイに状況を説明しているスペードクィーンと、実行した内容を聞いて漸く自分の無駄な気苦労が減少してきたと感動しているロイ。
異大陸、ミューゼ王国に来てから過剰な行動を慎むように指示をした成果が出たと思っているのだが、環境が変われば行動も大きく変わるのでこのまま維持できる保証はどこにもない。
「凄いよ!そうだよ、それだよ!助けながらも自立を促し、その上でミルバ君やタッシュ先生の助けにもなる。過剰な援助をしないでそこまで到達できるなんて、本当に凄いと思うよ!有難う!」
「!?・・・もったいないお言葉です。ありがとうございます、ご主人様!」
これまで直接的に褒められた事は皆無なので感動しているスペードクィーンと、正直少々羨ましい気持ちになっている他のクィーンズ。
ロイは盗賊モドキを見つけて処理をしたと聞いた瞬間にどの様な恐ろしい行動をしでかしたのか・・・一応命を奪う事は厳禁と伝えているのでそれ以外となると最近のお気に入りになっている肥溜め関連かと無意識に胃の当たりに手を持って行ったのだが、事前予想に反して素晴らしい対応だったので興奮している。
絶え間ない称賛に本当に嬉しそうな笑顔になっているスペードクィーンだが、永遠にこの場所で停滞するわけにはいかない。
「ご主人様。移動を始めながらお話しさせて頂いても宜しいでしょうか?少々進みますと街道は二つに分岐するようです。片方がハルカ様のいらっしゃる獣人国家になりますので、必然的にもう一方の街道を選ばれる事になると思います。如何でしょうか?」
「あ、そうだね。ごめんね。嬉しすぎて移動の事を忘れていたよ。それと他の皆もマッサージ有難う!凄く気持ちよかったよ!」
どれほど興奮していようが感謝の気持ちをしっかりと伝える事が出来るロイなので、少々羨ましい気持ちに溢れていた他のクィーンズも一瞬で笑顔になる。
「それにしても街道の移動中って、結構治安が悪いんだね?」
「残念ながらその様です。異大陸でも同じ状況なのですね。宜しければその辺り、改善致しましょうか?」
折角常識の範囲内で行動できるようになっていると感じているので、ここで肯定の意を示してしまうとどの様な行動を起こすのか考えるのも恐ろしいのでやんわりと否定する。
「・・・止めておこうか。ある意味風物詩とも言えるかもしれないし、対策として護衛を雇っている人もいるでしょ?その人たちの仕事を奪う事にもなっちゃうからね」
「流石はご主人様です。深いお考え、感動致しました!」
お世辞ではなく本心から言っている事は分かるのだが、少々恥ずかしくなるので思わずこう口走ってしまう。
「そこまでじゃないよ。仮に対策をお願いした場合、何をしようとしたの?」
よせば良いのに好奇心か過剰な賞賛を防ぐための防御策かは不明だが、思わず具体的な内容を問いかけてしまったロイ。
「そうですね。いくつか案は有るのですが、最も簡単なのがそもそも街道の移動を無くすことです。今回ジョーカー殿がソシケ王国から使役している存在を搬入する為に作成した二カ所を直接繋げる道具。アレを主要な町に設置するのが最も有用だと思いました」
確かに有用ではあるがのっけから常識を超えた機能を持つ道具を使うあたり、一般常識が身に着いたと思ったのは間違いだと認識を改める事になったロイ。
いくつかの案と言っているので他がある事は間違いないが、最初に出てきた案がこれでは他の案は街道周辺を全て見通しの良い更地にすると言い出しかねないと思ったのでそれ以上聞く事はなかった。
「そ、それで例の人達だけどさ?どの程度でミューゼ王国に到着しそうなの?」
「数日のうちに到着する事を想定しております。ダイヤジャックには事前に情報を入れておりますので、到着時にはそこから即情報が来る事になっておりますのでご報告いたします。目的地の宿に到着した際に直接確認できる様に、移動の道具を設置しておく予定です」
何とか話題を戻せたと思っているロイはその後平穏に街道を進んでおり、次に向かう国でも楽しく過ごしたいと考えているが事前に何か情報を仕入れる様な指示は出さない。
この大陸に来てから決めていた過剰に力を使わない事を守っているのだが、逆にこの行動が事前準備や対策の出来る時間を無駄にしてしまう結果に繋がる事も否定できない。
「ほわぁー、何だか随分と・・・何て言ったら良いんだろう。似たような外壁を見た事は有るけど、これは過去一だよね?」
クィーンズを全員顕現させては過剰に人目についてしまうので、今はハートクィーンだけが顕現している状態になっている。
「本当ですね、ご主人様。これだけ高く重厚な防壁・・・そして門。ここに至るまで何も感じませんでしたが、それほどの脅威が周囲にあるのでしょうか?」
移動中にこちらを窺っている獣がいた事は把握しているのだが脅威にはなり得ずに放置しており、自分達が来た街道ではなく他の街道付近にこれだけの防壁を必要とする存在がいるのかもしれないと思っているハートクィーン。
とは言え癒しの力に長けたハートクィーンであってもあの程度の防壁を崩す事は容易なので周囲の危険と言っても取るに足らないと確信しているのだが、実際にはこれは内部の影響を外に漏らさないようにする為だ。
これこそが事前調査があれば多少なりとも対策が取れていたのだが、全く情報がないままに入国審査を受けている二人。
やはりハートクィーンに相当視線と意識を持っていかれている周囲の人々なのだが、審査だけは通常通りに行われている。
基本的には魔力の量を計測しているようで、それ以外には手荷物に危険な品がないかや入国の目的を聞かれる程度でロイとしては少々緩いと感じたほどだった。




