(466)決意
元盗賊の頭領はステヴァンの背後に突然カンペが見えたのでそのまま丸読みしており、その内容はステヴァン自身が大人しくするように釘を刺す内容だった。
正直内容に関してはそもそもこの国がどこだかわからないし、躾の対象となった存在も自らを国王と名乗った事以外には何も情報がないのでどうでも良く、唯々ジョーカーからの指令を完遂する事だけに意識が向いている。
「わ、わかった。わかりました。指示に従います!」
露骨に弱った国王ステヴァンがこのように呟いていようが当然何も感じておらずに、継続して背後に突然現れたカンペを凝視している。
「・・・正直お前はいてもいなくてもどうでも良い存在に成り下がっているのだが、一応立場もあるのだろう。来ている仕事だけをしっかりとこなせ。それ以外の事は一切するな。わかったな?」
「はい」
少々長い分だったので多少棒読みの部分があるのだが、ステヴァンは頭領に視線を合わせる事も出来ない状態なので違和感を覚えずに震えている。
「最後にもう一度だけ確認だ。俺達の目は何処にでもある。そこを忘れずに命令を達成し続けろ!仮に命令以外の行動を行った場合には、それなりの覚悟をしてもらうぞ!」
「は、はい」
こうして王城内部の騒動は沈静化し、ここから指示通りにステヴァンは重鎮から振られた正直どうでも良い仕事だけを行うようになっており、余りの豹変に不信に感じている者が多数ながらも良い変化であった事から誰しもが黙認していた。
「・・・と言う事で、しっかりと調教済みでございます」
宿の一室でダイヤキングから国王ステヴァンに対する躾作戦の全貌を聞き、裸にしてさらし者にする方がまだましなのでは?と少々現実逃避していたロイは改めて頭痛がしている。
相変わらずだが今更指摘しても過去は無かった事にはできないし、そろそろミューゼ王国に滞在し続けるのも国に対して介入し始める状況になってしまった事から潮時だと考えている。
「わかったよ。色々あるけど、取り敢えずそれ以上は無しで。ところでさ?俺がこの国を去るとして、ミルバ君やシェーンさん、他の生徒や先生達の状況ってどうなると思う?」
素行はどうあれ頭脳集団のトップなので瞬時に相当な検討がなされてかなり確度の高い回答を得られると確信しているロイなので、仮に自分が出国した後に多少問題がありそうであればもう少し残るつもりでいる。
「最も問題を起こす可能性が高かった存在は調教済みですし次点の男は地下の国から出られないので、現状であれば特に問題は起きないでしょう。多少のいざこざが起こる可能性は否定しませんが、そこまで我が主が介入しては困難を乗り越える機会が全くなくなる為に成長が見込まれません」
本当に珍しく先を見据えた良い事を言っていると感じているロイなので、ダイヤキングのこの一言で滞在期間はそう長くないが濃密な経験をしたミューゼ王国を去る事にした。
「どうせソシケ王国に戻る際にはこの国を経由する必要があるしね?その時に少し様子を確認する事も出来るよね?」
「我が主。可能ではありますが、今回躾の為にジョーカー殿が使役している盗賊を呼び寄せる為に新たな道具を作成しております。その道具を使用すれば特段ミューゼ王国に来なくても戻る事ができますし、単純に状況を確認するのであればタッシュ先生が持っている像から情報を得る事も可能です」
正に規格外の道具なのだが異大陸に対となる道具を設置している必要があるので、そこはソシケ王国に存在しているダイヤ部隊が作成している。
「そ、そう?情報に関してはその通りだけど、何時の間に移動の道具を作ったんだ。凄いね。まぁわかったよ。俺は学校の生徒だから、一応きりが良い時までは通うけどね。もう少しでお別れかな」
その後の学校やミューゼ王国は平和そのもので、こうなると異常に大人しくなっているステヴァンを早く引退させてミルバを正式な国主にと望む声が貴族達から上がり始める。
「ロイ君の考えを聞かせて欲しいな」
何時ものタッシュの私室でミルバから意見を求められているロイなので、丁度良い機会だと去る事も伝えるついでに私見を述べる。
「俺としては望まれているミルバ君が地位を得る事が良いと思うけど、ミルバ君本人の意思はどうなの?」
「正直に言って、貴族からこれだけ推薦を貰えるとは思っていなかったので面食らっているよ。私としては仮に王位を継いでも貴族達からの反感を抑えるところから始める必要があると思っていたので正直二の足を踏んでいたけど、今ならば・・・って思っているよ。でもね?前にも言ったけど、その分学校に通える頻度は少なくなるんだ」
「そっか。でもそれも仕方がないよね。永遠にこのままではいけないのは分かるでしょ?丁度良い機会だから皆にも聞いて欲しいけど、俺もそろそろ次の国に向けて旅立とうと思っているんだ」
ダイヤジャックを除く周囲の面々からすればロイのこの一言は爆弾発言に聞こえるのだが、そもそもこの国に来たのは見聞を広める為と言う事をハルバンから聞かされていたので残念に思っているし寂しい気持ちもあるが止める事はしない。
誰しもが口々に残念ではあるが無事に旅を続けてほしい旨を伝えており、同時にダイヤジャックもロイとの関係性を疑われないようにする事とミルバが王位を無事に継承する事を確認する為に時間差で去る事を告げる。
「ふははは。ロイ君が去るのか。実は自分もそろそろ潮時かと思っていたところだぞ?だが、ミルバ君の意思を聞いた今!しっかりと王位を継承するところまでは見届けたいと思う。ロイ君の無事を祈っているぞ?」
その後は送別会が開催されて少しむず痒い気持ちになったロイは、後に合流するダイヤジャックを含む何時ものメンバーの見送りを受けて出国している。
「ふぁー。随分と色々あったなぁ。次は何処に行こうかな?」




