(465)調教
まさかダイヤキングの対策がチンピラを使った強制的な脅しに加えて物理的な攻撃とは想像もしていないロイなので、結果報告を受けた際には久しぶりに頭痛がする事だろう。
ロイの感覚としてはダイヤ部隊らしく何らかの道具を強制的に装備させて行動を制限させるのかと考えていたのだが、全く思いもよらない行動をされる事になる。
作戦実行部隊として動き始めているチンピラの一団はミューゼ王国のとある一室に集合しており、命令を遂行する為に待機中なのだが直立不動の姿勢を維持している。
「それでは改めてその扉を潜ってください」
任務以外には意識が向かないように調教済みの為に余計な事を考える事なく、全員が並んで扉を開けて中に侵入する。
今回は国王ステヴァンの執務室に直前に配置した扉に繋げているので、ステヴァンからすれば突然ゾロゾロと得体の知れない存在が多数不思議な扉から出てきているのを目撃している状態になっている。
余りにも想定外の出来事が起こると体が固まってしまう様でその姿を唖然と見ているのだが、どう考えても真面な人種とは思えない風貌をしている人物が多数出続けている事から身の危険を感じ始めている。
護衛に関してはカードの者達が対処済みの為に幾ら喚こうが誰も助けに入れる状況ではないし、臣下である貴族達も最近はすっかりステヴァンに嫌気がさしているので邪魔しかしない存在に対して仕事に係わらせないようにする為か・・・どうでも良い仕事だけをステヴァンに振る様な体制を確立していたのでこの場に訪問する事も無い。
「な・・・なんだ貴様達は!ここは国王である余の執務室だぞ!護衛!衛兵!直に参れ!侵入者だ!直に排除しろ!」
当然の様に騒ぎ始めて護衛を呼んでいるのだが現状に変化がある訳も無く、一方でチンピラ一行もたとえ護衛が侵入したとしても作戦を実行する以外に選択肢はないので一切動揺せずに王を囲むように移動を始めている。
流石に数度大声を出しても護衛が全く侵入してこない事から理由は不明ながらも助けは来ないと判断したのか、怯えながらも何とかこの場を乗り切ろうとするステヴァン。
「ど、どの様な道具を使用したのかは分からんが、余の執務室にまで直接侵入するとは恐れ入った。だが余は国王。このミューゼ王国を統べる者ぞ!お前達の姿を見るに金に困って完遂不可能な依頼を受けたのだろう?余としては民に対する温情を持っているのでな。お前達が約束されている報酬の倍額を出してやろう。どうだ?」
確かにジョーカーから命令を受けて依頼を実行しようとしているのだが金銭の報酬など受け取っている訳も無く、そこが理解できない王としては一般的な考えから買収可能ではないかと思い交渉している。
「愚王に次ぐ。我らが偉大な主の命を受け貴様を躾ける事になった。何をしても良いとありがたいお言葉を頂いているので、覚悟してもらおうか!」
まるで話しが通じずに恐ろしい事を平然と口にしているので、ステヴァンは肥溜め浸漬の刑に処された時と似たような恐怖を覚えている。
「ま、待て!余の話しを聞いていなかったのか!仮に余に手を出してみろ!一族郎党ミューゼ王国で一切生活が出来なくなるばかりか、良くて奴隷落ちだぞ!」
「お前こそ俺の話しを聞いていないのか?偉大な主の命は貴様を躾ける事だ。まるで状況を理解せずに偉そうな事を口にする時点で躾が必要な事は明白だな」
一団は既に武器を手に持って露骨に脅しているので王も相当怯えているのだが、だからと言ってここで終わりにしては心身共に圧力をかける命令が完了できていないのでこれ以上の会話は無意味と判断される。
ステヴァンが何かを言いそうになったのを敢えて大声で遮る。
「偉そうなお前が何かを言う権利はない。覚悟しろ!」
正直少々超えているステヴァンがジョーカーにより強制的に鍛えられている元盗賊の攻撃を往なせるわけもないし、そもそも人数的にも多対一である事から意識が飛ばない程度に調整されつつ四方八方から攻撃される。
「う・・・何故余が・・・この様な・・・」
時間が経過すると嫌でも意識がもうろうとしてくるので、正直国王としても漸く痛みから解放されるのかと思った所で理解できない言葉が聞こえる。
「第一回目の躾は終了する。直ぐにコイツを元に戻して第二回目の躾を開始するのは分かっているな?我が主の命は攻撃時の訓練も兼ねろと仰せだ。動く的として活用するので各自がしっかりと動け!」
直後に何故か体が異常に軽くなって意識もはっきりしてしまうので驚いて自らの状態を確認すると、元盗賊の一人がステヴァンの頭をムンズと掴んで視線を強制的に合わせる。
「俺の言葉は理解しているはずだな?その辺りは調整してくださるとの話しだったので聞こえていないわけがない。お前は再び俺達の攻撃の的になる。せいぜい無様に逃げ回って良い練習の的になれ!」
「ま、待ってくれ。待って下さい!何故余がこのような非道な攻撃を受けねばならんのだ!」
多少遜り始めた所で理不尽な行いに納得できない部分が顔を覗かせてしまい一瞬でこれまで通りの話し方になってしまうステヴァンだが、口調云々ではなくそもそも交渉の余地がない返しをされてしまう。
「そんな事を俺が知る訳がないだろう?だが、貴様が我が主の機嫌を害した事だけは確実だ。それが全てだ!諦めろ!」
正に心底思っている事を口にしており、彼等はジョーカーの言葉が全てである事からこれ以外に説明のしようがない。
更に文句を言おうとするステヴァンを完全に無視して事前に口にしていた通りに連携での攻撃や新たな武器を使用した攻撃など、正に実戦練習と言わんばかりの状況で的にされている。
このような状況が十回ほど繰り返された時・・・体を完全に回復させたステヴァンが涙を流し始めた事から攻撃の手を一旦止める元盗賊。
「おい。お前は今後一切余計な事をするな。俺達の目は何処にでもある事を忘れるな」




