(458)実力が・・・
ゼシューから寝返るように言われているタッシュは魔力の影響を受けてしまい真面に動けない状態ながらも、明確に首を横に振って拒否の姿勢を貫いている。
「タッシュ。お前のその根性だけは認めてやるが・・・仮に今余がお前程度の存在を処理するのは容易である事、理解しているだろうな?」
交渉と言う形でタッシュに選択権を与えるような聞き方だったのだが完全に拒否されてしまったので、正直練成など真面に出来ない可能性が高い事実を思い出したのか脅しに変化している。
一応牢の中と外なので今の立ち位置ではタッシュに手が届かない事は理解しているが、王に進言すればどのようにでも調整可能であると言う意識はある。
一方のタッシュは何をどう言われても女神を裏切る事は絶対にないので、脅されようが餌をぶら下げようが首を縦に振る事は無いだろう。
最早首を動かすほどの体力も残っていないのか静かに目をつぶっており少しでも体力を温存する為に本能的にこのような行動をとったタッシュなのだが、ゼシューとしては回答すら拒否する姿勢を示して見せたように見えている。
「タッシュ、貴様!良く分かった。貴様はこの地下の国で息絶える事が今この瞬間決定した。それも長く苦痛を味わいながらだ!二度と地上に出られると思うなよ?」
暴言を吐いてこの場から消えて行くゼシューと・・・一方で話しの内容は理解しながらも全く反応する事なく横たわっているタッシュは、無意識の内に懐に大切に抱えている女神像に手を触れている。
「め、女神様。タッシュはここまでかもしれません。女神様への永遠の信仰は変わりません!また来世で・・・」
その後に意識を飛ばしてしまうのだが・・・この時地上ではダイヤジャックが周囲を調査してタッシュの気配がないとカード状態のダイヤキングに報告がなされていたので、情報入手の観点でダイヤクィーンがこの像との通信状態を確認していた。
つまり・・・この一言がカードの者達に拾われているので、地下の国の情報を持っている事から直にロイに話しが行く。
ロイとしては過剰な介入は避けたい所は変わらないが素晴らしい知識を与えてくれるタッシュを見殺しにする事も出来ないので、ダイヤキングに相談して新たな案を発動する。
「えっと・・・ロロニアドさんの道具の作成の為にクリエ鉱が必要だったよね?それってジャッ君が仕入れる事になっているけど、もう一つのパンゲル草も直ぐに動いて少しでも早くパールさんだっけ?ロロニアドさんの娘さんを改善してあげたいよ」
正直タッシュ失踪の話しになっていた所で脈絡も無くこのようなことを言わざるを得ないので何とも言えない微妙な空気が流れるし、ロイとしてもあり得ない流れだと分かっているのだが別の案が思い浮かばなかったので強行している。
ロイがなんだかんだ言いながらも仲間を大切にする人物である事はこの場の面々は知っているので、突然このような事を言うのには理由があるのだろうと判断したのか違和感には蓋をして会話に乗っていた。
パーミアに至ってはこの流れに乗る事がタッシュ発見・・・正直に言えば最早救出の域に達しているのかもしれないが、その結果に結びつく可能性が高いと理解できている。
もちろんダイヤジャックも全てを理解しているので、直に動く事を宣言する。
「ふははは。流石はロイ君だな。わかった。自分は直にクリエ鉱入手の手配をしよう。それと獣人国家に関してはクィーンズの一部が協力してくれるように要請するので、直にこの場に来るだろう」
獣人国家に関してはミルバとダイヤクィーンが対処し、地下の国に対してはダイヤジャックとスペードクィーンが対処する事になった。
ロイとしては地下の国はタッシュを拉致監禁している可能性が極めて高い状況にある上、前回脅しを掛けておいた結果の行動でもある事から非常に凄惨な状況になる可能性が高く自らも同行したい気持ちが有ったのだが、ロイに何かあってしまうとカード全ての行動が停止・・・つまりはハイス子爵家や神ロイ商会にも影響を及ぼす事から却下されている。
地上では着々と準備が進められている頃・・・地下の国でも王の号令でゼシューが指示した素材に関しての調査と採取が実施されている。
流石に地上侵攻の為に必要だと言われては誰しもが全力を出すので、品質はさておき素材は必要以上に準備する事が出来ていた。
「ゼシューよ、お前が希望した品々を入手しておいたぞ」
寛いでいる部屋に突然王が入ってこのように告げるので想像以上の速さだと驚くと同時に、練成から逃げられない状況になったと今更ながら多少焦っている。
「・・・いや、大丈夫だ。あの程度であれば何も問題はない」
今では錬金分野の基礎の基礎として行われる練成実験で近似した道具を作成する事になるのだが、学校の雰囲気が一変してからはこれまで以上に授業を真面に受けていないので経験がないままのゼシューは自らを過剰に鼓舞している。
王に先導されるまま追随して一室に入ると確かに指示した素材が大量に置いてあるが、状態があまり良くないので差し当たり言い訳が出来ると内心喜んでいる。
「確かに指定した品ではあるが・・・品質に多少問題があるな。練成を試しはするが、希望する性能にならない可能性も有る。こればかりは素材由来なので余でも対処する事は不可能だぞ?」
このように即告げてしまう所がゼシューの残念なところで、これだけの量を集められると言う事は未だ自生している素材がある事から次は慎重に素材を入手して運び込まれる可能性には思い至れない。
実際に王が新たに素材を入手すると宣言する間もなくゼシューは実践すると告げたので、道具練成をその目で見たい気持ちが強い王は言葉を飲み込んでいる。
ゼシューは素材を必要分量だけ別の場所に移動すると、緻密な構造で練成する必要がある小型化などできないので事前に予防線を張った上で魔力を練って素材を練成し始める。
「とりあえずやって見せよう。先ずは強化系統の道具になるが・・・正直タッシュが身に着けた道具よりも少々大きくなる可能性がある」




