(448)商人と接触
自分を信用させるためにある程度の品を献上した商人・・・ロロニアドは、自国ハロゲン連邦の自宅で待っている娘パールから貰った手作りのお守りを握りしめている。
彼女は常に周囲の魔力を吸収してしまうアテネとは真逆で、体内の過剰な魔力を制御できずに普通の生活もままならなくなっている事から何とか対策したいと父である豪商ロロニアドが日々活動している。
良い薬があると聞けば交渉し、良い道具があると聞けば購入し、挙句の果てには癒しの魔法を使えると豪語していた人物に大枚叩いて依頼した過去もある。
妻の忘れ形見とも言える最後の家族なので何を置いても・・・と言う気持ちで活動しているのだが、商売は上手くいって日々拡張しているが本来の目的は未だに達成できていない。
辛うじて現状維持できる状況になれたのは僥倖だがロロニアドの目的は改善する事なので、行動が変わる事も無い。
「目的が達成できれば、商会長の座などに未練はないのだ!」
本心からこのように呟きながら宿に移動し、非常に高価な献上品と引き換えに貰った回復薬を吟味している。
回復薬も練成の技術が必要になるので錬金分野の教育を重要視しているこの国の品であればあるいは・・・と言う気持ちがあり、自らの手を少し傷つけて回復薬を若干垂らす。
徐々に傷が癒えて完全に修復されるのである程度の品質がある事は理解できるのだが、正直に言えばこのレベルであれば過去に試して効果がなかった事から残りの薬品の入った瓶を放り投げる。
冒険者が見れば暴挙に見えるのだが、ロロニアドの感覚ではこの程度の回復薬は多少恩恵があるかもしれない・・・レベルの品なので興味はない。
「聖国ロナ・・・いや、聖主は何を献上しても国外に赴く事はないし、ましてや海を越えてここまで来る事など絶対にないだろう。パールは向こうに行ける程の体力がない。やはりこの大陸で改善策を探すほかないのか」
流石は豪商で異大陸にある聖国ロナの情報まで掴んでおり、残念ながら聖主ロマニューレが聖魔法を行使できる僅かな可能性に賭ける他ないかと考えているが・・・実際には全く行使できない所までは情報を得ていなかった。
とは言え一国の国主でさえ異大陸について知識がないのが殆どの中でこれだけの情報を持ち得ているので、どれだけの力があるのかは容易に理解できる。
「ゼシューよ。久しぶりにお前は良い仕事をしたな。この宝飾品は見事としか言いようがない。そもそもこのデザインが素晴らしい。我が国では練成は得意だが物理的な装飾は劣っていると言わざるを得ないのだな」
「お褒めの言葉を頂きありがとうございます、陛下。その御威光に相応しい品だと確信しております」
二人揃って肥溜め浸漬の刑に処されて使用人達からも避けられた過去を持つので威光も何もあったものではないが、宝飾品が素晴らしい事だけは間違いないので何故か気分が良くなっている。
淀んだ魔力を持つゼシューは地下の国で力を付けていたのだが、その状態での刑執行であった事から個人で抗うよりも国家の庇護下にいた方が良いと判断したのか再び王に対してしっかりと従順な姿勢で対応している。
「これはお前が着けていると良いだろう。王族としての権威をしっかりと主張しておけ」
比較的小さな宝飾品を与えるところが非常に器の小ささが垣間見えるのだがゼシューとしては自らの立ち位置が盤石になった可能性が高いと感じているので文句など無く、与えられた宝飾品を胸に着けると一礼して退室する。
その日の夕方・・・既に宿の部屋で休憩したロロニアドは食堂に向かい食事を注文すると、周囲を観察しながら今後の動きについて検討している。
「・・・突然道具作成、薬品に関しては期待薄だけど直に依頼をしては足元を見られる可能性があるし、それだけで済めば良いが敢えて長引かせて益だけ得ようとする輩もいる。調整が難しいな」
これまでの経験から自らが欲して止まない品を把握されてしまえば相手は傲慢になる可能性が高いと思っているので、そこを秘匿しながらもなるべく早く目的が達成できるか判断したいので気持ちは逸っている。
「へー。ここがロイ君の泊っている場所なんだ。食事が美味しそうだよね?」
「でしょ?時々ジャッ君も寄ってから帰っているよ、ミルバ君。さっ、食べようよ?」
そこに楽しそうな声が聞こえたので思わず視線が向いてしまうと、ミルバとロイが笑顔で食事をしている。
「最近アテネちゃんも凄く落ち着いているし、授業は楽しいし・・・これでゼシューが少しでも大人しくなってくれれば言う事はないんだけど」
「だね。でも全てが一気に改善するのは難しいから、一つずつだよ!学校でも魔力、知能、錬金が融合・・・完全ではないけどさ?全ての学問を学べる環境になるなんて、少し前では想像もできなかったでしょ?ミルバ君?」
何となく聞いている会話でもそこから情報を掴む能力は長けているので、ミルバと呼ばれている存在がゼシュー王子・・・豪商ロロニアドとしては王太子であると確信している存在を呼捨てにした事から同等の立ち位置の存在であると瞬時に把握しているので、意識の大半がそちらに向いている。
「そうだよね。私としても国全体が良い方向に向かってくれるに越したことはないし、事実魔力生成の道具が市場に出回ったことで、陛下の愚行に対する補填にもなっているからね」
暴利を貪ろうとしたが故に民の生活に支障を及ぼしていたのだが、今では魔力生成の道具が相当安価で販売されている為に逆に生活の質は向上している。
ロロニアドはこの時点でしっかりと魔力生成の道具に関しては把握・入手しており、実際に道具に取り付けられている小さな球状の道具がその品である事も理解している。
「そうだよね。三人の先生にも感謝しないと。授業も楽しいし、何と言っても実際に市場に出ている重要な品の練成が教材になっているからやる気も違うよね?」
二人の会話を把握すると、ロロニアドは注文していたデザートを持って立ち上がる。




