(447)商人
緊張しながらも初めて個人を識別する名前を得た事が嬉しいのか、はにかむような笑顔で挨拶している為に不安は相当解消された様に見えている。
そもそもの環境が劣悪だった事から、それ以下はないだろうと直に割り切れた事もある。
「では、この私タッシュがアテネさんの保護者となります。宜しくお願いしますよ?」
今のタッシュであれば信頼に値するので誰からも反対の意見が出る訳も無いが、そもそも地上の環境に慣れさせることが重要であるとの共通認識である事から突然学園の生徒として生活させる事はない。
先ずは地上の常識と指輪をしている限り生活には全く問題がない事を認識させることから始めているのだが、これまでと環境が大きく異なるのでそう簡単に馴染めるわけも無い。
焦るまでも無く日々生活をしているのだが、アテネによって大きな騒動が勃発する事になる。
「ゼシューよ。タッシュの所で庇っている女がいるな?」
「はい、父う・・・陛下。どうやら異国から来た王族の様で、指輪を常に装備している状況です。恐らくですが、あの指輪は忌々しい魔力生成の道具と同じ機能を持つと判断しております」
アテネに関しては特段秘匿しているわけではないので登校しているゼシューやその一派の目に留まる事が多々あり、指輪が市場に出回っている魔力生成の道具と同じ機能を持つ事はある程度魔力や錬金に関して知識があれば把握する事が出来る。
もちろんゼシューが判断したわけではなくお付きの者の更にお付きの者が判断しているのだが、故に正しい情報だと国王ステヴァンも理解できている。
「魔力を常に供給されている状況なのか?過剰に供給され続けては・・・いや、あの忌々しい道具は供給量も適切になるのだったな。だが、魔力を使用して何らかの能力を使用しない限り、常に供給の体制を整えておくこと自体が異常ではないか?」
何故ここまでアテネに関して注目しているのかと言えばミルバ一派に突如として現れた存在である事から懐柔できる可能性があると踏んでいる為で、何でも良いので情報を収集している所だ。
正直に言えば正確な情報を得た国王やゼシューであっても何かをする事は出来ないが、強大な力に引き寄せられるかのように似たような存在が介入する事になる。
「陛下。お目通りの許可を頂きましてありがとうございます。当商会と致しましては是非とも貴国と共に発展したいと考えておりまして、ご挨拶の品として当商会で取り扱っております品の一部を献上させて頂きます」
ここは王城の謁見の間で、学校から帰宅途中のゼシューと接触した商人を名乗る人物が豪華な装飾品を開示しながら国王ステヴァンに挨拶している。
商人は他国を拠点に活動しているのだが優秀な商人であればこれから商売を行おうとする相手の状況は当然のように下調べをするので、基本的に国は安定の範囲内に入っている事に加えて練成された道具が非常に多く活用され、且つ品質も高い事を理解している。
自国や他国と比較してもこのミューゼ王国の道具は頭一つどころか破格の性能を持っている事から、宝飾品を対象とした交易を行いたいと考えている。
残念ながらダイヤジャックを中心に引き起こされている騒動に関しては情報を掴んでいないので、一先ず王太子として認識しているゼシューと接触して直に国王と謁見できた事から商いは上手くいくと考えていた。
「フム。中々の品だな。で、我が国からは何を得たいのだ?」
「は。それはもちろん素晴らしい技術によって作成されている各種道具になります。例えばこの謁見の間ですが、非常に快適です。間違いなく温調の道具が使われていると思いますが如何でしょうか?」
「その通りだな。この程度であれば基礎中の基礎の技術範囲と言える」
「そこでございます。この技術を基礎と言い切れるのは私の知る限りではミューゼ王国のみ。実は同じような道具を私共の国でも使用しているのですが、効率が悪い上に故障も多く、そして値段も高いのです」
相手を過剰に持ち上げるのは商売の基本であるがこの件に限って言えば事実を告げており、実はそれほどこのミューゼ王国の錬金に関する技術は高い。
単にタッシュの功績と言えるのだが、残念ながら国王側がタッシュと敵対関係になった事を含めてその辺りの情報は掴んでいない商人。
かなりやり手の為に目の前の存在を褒める以外で第三者の個人名を出してしまうと表向きでは協力関係にあっても内心で敵対している事もままある為に、そこにも注意を払って話しをしている事からタッシュの名前を知ってはいるがこの場で出てくることはない。
「それは難儀しているな。我が国からは道具を、そちらからは宝飾品になるのか?」
「基本は宝飾品を考えております。これだけ道具が素晴らしいと生活必需品に関しては不要かと考えておりますが、それ以外の品もご要望に応じて準備させて頂く事は出来ると思います」
国王ステヴァンとしてはダイヤジャックのせいで威厳も無くなり始めているし、赤字にはなっていないが魔力保管・供給の道具に関しては最早ゴミと化しているので何もかもが上手くいかないと機嫌が悪くなっていた。
そこに外国から商人が来たとゼシューから告げられたので、何となく気晴らしを兼ねて面会したのだが思わぬ収穫が有ったと気分が上昇している。
一国の主と突然面会しても普通に対応できる個の商人・・・実際に裏がある訳ではなく本当に商人なのだが、大商会の会長で自国でも国王に匹敵する力を持つと言われている人物だったりする。
そのような存在が何故ミューゼ王国に自ら足を運んだのかと言えば・・・各国から商売に関する情報を常に収集している中で、自ら口にしていた通りに道具に関して非常に優れた技術を持つこの国にある意味縋る気持ちで訪問している。
「ふー。一先ず何とかなったか。これで道具の中に魔力を調整する品があれば・・・いや、もう少し協力関係が強固になれば作成して頂く事も可能かもしれない」
アテネとは逆に体内の過剰な魔力によって真面に生活できなくなっている娘の為に。




