(446)王女の対応
「ここまでの屈辱を与えるとは・・・今に見ていろ!」
王の怒りの言葉は誰にも聞かれずにいる中で朝になりロイに全ての報告が行われ、ロイとしても自分と同じ環境でありながらも新たな身内・・・ロイの場合はハイス子爵一家が該当するが、心の傷を癒してくれる存在が現時点で地上には存在しない事を気に病んでいる。
「そっか。それにその体質って周囲に対しては害しかないよね?改善は出来ないの?」
「ハートキング殿やジョーカー殿の聖魔法であれば改善自体は可能ですが、もう少し詳細に鑑定して対策を考える必要があると思います。一気にあの体質を変える事で出てしまうその後の影響について考慮する必要がある為です」
ダイヤキングとしても流石にこれまで経験していない現象である事から、事は慎重に進める必要があると告げている。
現実的には強引に聖魔法で体質改善を実施し、その際に出てしまう悪影響に対しても継続して魔法を行使すれば問題が起こらない可能性が高いのだが・・・ロイが気にしている相手であれば念には念を入れる必要がある。
もう一つ慎重になっている理由があり、ロイは口ではこう言っているが先の先を見越した何かしらの考えがあると思っていた事もあった。
その理由は・・・カードの者達から見れば少し前にタッシュの功績であった魔力保管・供給の道具の権利を完全に譲渡した後に全く新たな道具として魔力生成の道具を作成させていたからで、この道具を使えば王女と呼ばれた少女も魔力生成の道具から適切な魔力を常に供給される形になるので周囲に全く影響を及ぼさなくなる。
完全に偶然だがカードの者達からすれば全て計算されている事になっているので、余計な進言をしてロイの素晴らしい作戦を阻害するわけにはいかないと自重していた。
ロイとしてはカードの力を使用すれば一気に改善できると思っていたのだが、ダイヤキング達の思惑など分からないので過去とは異なって非常に大人しい回答だった事から一気に事を進める事は難しいと理解した。
結果的に暫定の対策として例の道具の劣化しない品が作成され、指輪として王女に提供される事になる。
普通に授業を受けて何時もの通りにタッシュの私室に集合するとロイに事前連絡が有った通りに例の王女が既に指輪を装着した状態で待っており、付き添いとしてスペードクィーンがいた。
本来付き添っていたのはダイヤクィーンだがタッシュとの交渉になる場合にはスペードクィーンが最も適しているとの考えで選択されているのだが、王女は付き添いの女性が変わった事には気が付いていない。
「皆様お揃いですね。各先生方には既に事情を説明済みなのですが、改めて説明させて頂きます」
ロイやダイヤジャック、ミルバ、シェーンが授業を終えて入って来た事を確認したスペードクィーンは説明を始めており、特段何かを隠す必要はないので知っている事を全て話していた。
「・・・と言う事で、王女は地上での生活をお望みです。私としても最大限サポートさせて頂きたいと考えておりますので、皆様にも助力いただければと思います」
「女神様!このタッシュ、全力で女神様の希望を叶えて見せます!王女様?私はタッシュです。今後はあちらの部屋を自由に使って頂き、何かあれば遠慮なく言って下さい!」
やはりこの場にスペードクィーンを連れてきたのは大正解で、タッシュは女神と崇める存在の願いは何を置いても叶える気持ちが強い事から一切疑問を口にせずに行動していた。
「タッシュ先生、是非とも宜しくお願いします。私が常に付き添う訳にはいかない事情があるので、校内での安全についてもご協力をお願いしますね?」
「もちろんです、女神様。ところで・・・事情は把握しているのですが、王女様では少々呼び辛いのです。何とかなりませんでしょうか?」
タッシュは継続してスペードクィーンを女神様と呼んでおり王女様と大差ないのだが、女神は別格なので比べる考え自体が無い。
個別の名前がない世界から来たことは全員に展開されているのだが、確かにタッシュが言った通りにこれから生活をしてもらうので王女様では地上のメンバーからしてみれば何となく壁が出来てしまうように感じている。
「私としてもタッシュ先生の意見に賛成ね。良ければ私とヨーちゃんでいくつか候補を上げるので、選んでもらえないかしら?」
王女と呼ばれた存在を観察していたパーミアは相当緊張状態にある上に周囲を怯えるように見ている事から、習慣がない為に経験も無い名前に関して自分で考える事は不可能だと判断して提案している。
怯える様な姿勢に関してはダイヤジャックの姿に怯えているのか自ら望んたこととは言え突然地上の世界に置き去りにされた事に怯えているのか分からないので継続して観察した結果、多少指輪を気にするそぶりを見せている事から周囲の存在が魔力を奪われて倒れないかを気にしている可能性が高いと判断したようだ。
流石に頭の回転が早いパーミアなので正に王女と呼ばれた存在が気にして怯えている現象を正確に把握し、敢えて名前の候補について話すとともにどれだけ近接しようが接触しようが問題ない事を証明してあげようと考えていた。
正直それだけダイヤジャックが準備した道具に関しては信頼を置いているし、魔力吸収の特異体質と言った情報についても疑っていない。
少々強引に王女を引き込んで怒涛の勢いで話しかけているパーミアと、その意図を理解したのかオドオドしながらも同じように話しかけているヨーレイ。
その際に指輪の性能についてもしっかりと説明しており、装着している限り一般の人と同じ生活が出来ると言葉を変えながら何度も伝えている。
一度では長く刷り込まれた常識やこれまでの経験に基づく知識を破壊できない事は理解しているパーミアなので、根気よく説明をしながら名前の提案もしている。
他の面々はこのままパーミアに任せておけば問題ないと判断したのか介入する事は無く、やがて王女が立ち上がり緊張の面持ちで口を開いた。
「あ、ありがとうございます。これからアテネと呼んでください!」




