(444)無様
例の部屋から少し傾斜を無駄に上った所で先頭を進んでいるダイヤジャックが突然止まって振り返ると、突然大声を出す。
「しまった。自分とした事が!」
このくだりは事前に打ち合わせしていたので即座にハートクィーンが反応する。
「どうしましたかジャッ君?何か大切な物でも忘れたのですか?」
この内容も投げやりになっている中で考えたので雑だが、目的が達成できれば面白くなるので問題ないと考えている二人。
「その通りだ。情けないが、大切な品を休憩場所に置き忘れてしまった。おい!自称王よ!これから取りに戻るぞ!」
王としては体力が枯渇している状態で傾斜を登っていたのだが、突然罠が起動する予定の場所に戻ると言われたので本心から体力の限界だと訴える。
「全員で戻っても仕方がないだろう。正直疲労困憊なので、ここで休憩させてもらう」
「お前はバカか?自分が大切な品を取りに戻ると言っている以上、同行するのは最低限の義務だろう?その程度の考えだから何もかもが上手く行かないのだと何故気が付かない?ホレ、グズグズするな!」
収納魔法に保管してあった大きなお箸の様な品を取り出すと、強制的に王の襟首を摘まんで移動を始める。
風魔法で運搬する事も考えたのだが、それではある意味快適な旅になってしまうので敢えてこのようにしているダイヤジャック。
「ま、待て!自分で歩く。降ろせ!」
まさか崩落する現場に向かわされるとは思わなかったので、自分で時間を調整する事で最悪は崩落後に現場到着すれば良いと喚いている王だが・・・全ての事実を知っている二人が許容するわけも無い。
「遠慮するな。だがこのサービスは今回だけだ。次回以降はお前が王女にしていた事に似せて、首輪でもつけて強引に引き摺るので安心しろ」
全く安心できない内容だが王としては今そこが重要なのではなく、何とか時間稼ぎしなくてはならないので激しく動揺し始める。
「ま、いや・・・待て!逆戻りすると起動する罠があるのだ。そうだ。忘れていた!それを解除する必要があるだろう?だから降ろせ!」
実際に起こり得そうな事を言えたと内心安堵しているのだが、全く止まる様子も無ければ降ろす様子もないので藻掻き始める。
その程度で何とかなる相手ではないので無駄に体力だけが奪われた状態で、間もなく崩落する現場前に到着する。
「おい。王よ?ここまで運んでやった手間賃だ。お前が取ってこい。この位の大きさの箱だ。ホレ、遠慮なく行って潰れてこい!」
もう隠す必要も無いと感じているのかダイヤジャックはどのような結末を迎える可能性が高いのかを明確に口にしており、王としては何故?と言う考えがありながらもこのまま突入しては現実に潰れかねないので時間を稼ぐ為に何かを言おうとした所で浮遊感に襲われる。
「ホレ、そこの端に箱があるだろう?お前にも見えるな?それだ。早く持ってこないともうすぐ崩落するぞ?フハハハハ!」
部屋に投げ入れられた王は痛む体を起こして周囲を見ると確かに箱の様な模様が見えるのだが、どう考えても周囲の壁を強引にくりぬいて箱に見えるように加工しただけで実際の箱ではない事は嫌でも理解できる。
「これが箱だと?バカにしているのか!箱に見えるように細工した唯の壁だろうが!」
危機的状況の上に疲労困憊であり、且つ相当バカにされている事から感情のコントロールが出来ずに騒いでしまう王。
「そんな事はどうでも良いだろう?ホレ、早く持ってこないと天井から嫌な音が聞こえているぞ?もちろん箱を持って来なければ退室・・・いや避難になるが、それは認めない」
「お前等、何時この仕掛けに気が付いた!」
「はー。その様な事はどうでも良いでしょう?今ジャッ君が言った言葉を理解できませんか?時間がないのは分かるでしょう?その箱を早く持ち運べる状態にするのが先決ではないですか?」
壁の一部を切り出して箱の様にしているだけなので、無駄に加工されている箱に見える部分と連結している岩を切断する必要がある。
生身の体でそのような芸当が出来る訳もないので出口に向かって全力で移動するのだが、お箸で突っつかれて戻される。
「地上に向かうのは勝手だが、その際にはより一層苛烈な罰が待っているぞ?」
脅しを掛けているダイヤジャックだが、実際には箱に見える加工を施したと同時に地上に向かう側の扉に関しては完全に破壊しているのでビクともしない。
その事実には気が付けない王なので、苛烈な罰と言われてもダイヤジャックとハートクィーンは地下に続く道に取り残されるので・・・罠にはまるよりはましだと地上に向かう扉を開けようとして困惑している。
「あ、開かない!?何故だ!!」
「ふははははは。ハートクィーンの言う通りに捻りがなさすぎで面白みがないぞ?ホレ、早くしないとそろそろではないか?」
パラパラと小石が落ち始めているので崩落が迫っている事は間違いなく、生き残る道は箱に見える壁を持ち帰るほかないと必死になる。
「フギギギギィー。クッ・・・ガァアアー」
持ち上げようとしたり蹴りで分離できないか試したりするのだが、ビクともしていない。




