(441)罰
余りにも絶望的な状況である事から本来侵攻しようとしていた側が言って良いセリフではないが思わず文句を言ってしまう王に対し、ダイヤジャックが少々精神的な疲れが出てきたのか一気に極論を告げる。
「ハートクィーンよ。本当にこんな奴から知識を得る必要があるのか疑問なのだが。そもそもあの道を完全に塞いでしまえばお終いなのではないか?敢えて地下の世界とやらの情報を知る必要性を感じないな。仮に地下からの侵攻に対して不安が拭えないのであれば、自分が行ってさっさと滅ぼしてくるのも選択肢ではないか?」
「今回に限って言えばジャッ君の意見に賛成ですね。クラブクィーンはどう思いますか?」
「難しいですね。王女の状態は・・・良さそうですから、そこを踏まえるとこの男に価値はありませんしね」
三人の言葉からは相当危険な方向に進んでいると判断せざるを得ない王は、唯一の希望として知識を得た後に地下の世界に帰すと言っていたハートクィーンを祈る気持ちで見る。
これまでの状況からダイヤジャックが単騎で乗り込み地下の世界を滅ぼすと言っているのは決して誇張ではないと理解できてしまったので、未だに何らかの道具を使用している可能性が高いと思いながらも結局は有り得ない力を持っている事には違いない為に何とか良い方向に進んで欲しいと切に願っている。
「わかっていますよ。私も本気で情報が欲しいと思って口にしたわけでは無く王女に今後どのように接するのが正解なのかを知る為に、身内であり諸悪の根源でもあるこの男を暫くこの場に留め置く事を目的としただけです」
王としては絶望的な言葉が聞こえて来るが素直に娘に対して行ってきた事を告げては碌な扱いにならない事は身を持って理解しており、どの様に答えるのが正解か必死に考えている。
カードの者達からすれば王が今何を考えているのか等知った事ではないので直ぐに質問が始まってしまい、仮に言葉に詰まろうものなら少し前にダイヤジャックが容赦なく吹き飛ばされた二の舞になりかねないとの恐怖から事実を告げてしまう。
「それでは早速質問です。王女の名前は何でしょうか?」
「地下の世界では個人に名は付けていない。自分も王と呼ばれているだけだが十分個人を識別できるので必要性がない。一般の有象無象は識別の必要すらないからな」
この期に及んで体面を気にしているのか何時もの強気ともとれる口調になっているのだが、どうやらその回答内容がカードの者達からすれば想像していなかった様でそちらに意識が向いたおかげか何かを言われる事は無かった。
「随分と珍しい世界ですね。ジャッ君?ここはやはり貴方が一度訪問してみるのが良いかもしれませんね」
突如として地下世界の存続に暗雲が立ち込めてしまったので慌てた王は、何とかダイヤジャックの強制的な訪問を排除しようとする。
「ま、待ってくれ。自分達は二度と地上には来ない。さっきの話しではここに至る通路も破壊されるのだろう?互いが全く関係の無い状態に戻るのだ。今更来られても何も良い事は無いだろう?」
必死な王を見て興味が一気に削がれたのか、ダイヤジャックはある意味助け舟を出す。
「この王とか言う奴の言う事にも一理あると思うぞ。滅ぼす為の訪問であれば吝かではないが、事実はどうか知らんが薄暗いイメージしかない地下に敢えて行きたいわけでは無いからな」
その後は過去の対応やこれまでに王女に起こった事実・・・と言っても王は娘に興味が無くなっていたのでどの様な生活をしていたか具体的には答える事が出来ず、質問していたハートクィーンはロイと元父である国王バレントの関係を思い出してしまったのか少々機嫌が悪くなっていた。
「わかりました。貴方が王としても父としても出来損ないである事を確認できただけでしたね。非常に不愉快な時間でした。さて・・・この気持ちを何処にぶつければ良いでしょうか?」
王は何故ハートクィーンが剣呑な雰囲気になっているか分からないが、他のクィーンやダイヤジャックは過去のロイの環境と重ねてしまった事は理解できるので静観していた。
「そう言えばダイヤクィーンがあの王子・・・なんでしたか、ゼシュー王子と国王ステヴァンに素晴らしい罰則を展開していましたね。この王もこのまま帰すのは癪ですから、同じ刑に処した後に戻すのは如何でしょうか?」
クラブクィーンとスペードクィーンは笑顔で頷き、ダイヤジャックもこの程度はやむを得ない判断したのか同意している。
「今回は仕方がないだろうな。コイツの行動も相当だが、やはり一番頂けないのは我が・・・友人と同じ環境に娘を追いやった事だろう」
ジャッ君として行動しているので思わず我が主と言いそうになった為に慌てて言い換えているのだが、ここでロイ君と言っても何故異大陸にいた過去を知っているのかと思われるので曖昧な表現になっている。
正直周囲にはそのような疑問を持つ可能性がある第三者の存在はない事を確認済みなのだが、ジャッ君として行動するとロイに伝えている以上はしっかりと完遂する義務がある。
その後どうなるのかと言えば・・・クラブクィーンとスペードクィーンが事は済んだと直接カードに戻ったのでこの場から瞬時に消え去り、その現象を間近で見て驚く王をそのまま強制的に例の肥溜めに連行するハートクィーンと最後まで事の成り行きを確認する為に同行しているダイヤジャック。
肥溜めは薄暗く・・・良く見ればかなりの虫が飛び回っている環境なので、誰がどう見ても真面な場所でない事だけは理解できる。
もちろん匂いも相当なので息を吸うだけで吐き気がする人もいるだろうが、カードの者たちは衣服も含めて匂いが付かない様に対処済み。
「な、なんだここは!おぇ・・・な、何をするのだ!無礼だぞ!!おぇ・・・」
王は誰しもが口にするであろう言葉を喚き続けているが、平然と打ち返される。
「相変わらず捻りが無いですね。貴方に直接伝えたわけではありませんが、一度警告をしているのに無視をした過去があるのですよ?その上に更に罪を重ねているわけですから、この程度で済んだことを幸運に思うべきではないですか?」




