(437)侵攻
王は誰が何を話すのかは一切口にしないが間違いなく自分に言っていると判断した王女は、目の前の綺麗な女性に対して母からの言葉を違えるような行動をしてしまう事に申し訳ない気持ちになりながらも行動する事を促すかのように緩んだ鎖の分だけダイヤクィーンに近接する。
「貴方が説明して頂けるのでしょうか?随分と・・・事情がありそうですね?」
これだけ近接すれば間違いなく大気中の魔力だけではなくダイヤクィーンの魔力も吸収している事は確実なので、その事を言っているのだと判断して事前に言われた通りの事を話し出す王女。
「実は地上の技術に非常に興味を持ちまして、何でも道具が重要で重宝していると聞いています。その辺りに関して少々説明頂けると助かるのですが」
嘘ではないので道具についての情報を得られればそれで良いし、説明の間に脅威となり得るダイヤクィーンが弱ったそぶりを見せるか驚異的な何かを感じないようになれば道具は間違いなく使用不可の状況に陥っていると判断できるので、自分達の動きが阻害されていようが不思議な道具を手中に収める事が出来ると判断していた王と使者。
正に作戦通りに王女の問いかけに対して何やら理解しがたい説明を始めているので、その間に少しでも地上の魔力に順応する為に意識を集中し始める。
使者に至ってはある程度の期間この場に停滞して順応しようと試行錯誤した経験があるので他と比べると現時点でも動きの阻害に関してはそれほど大きな影響を受けておらず、継続して王女やダイヤクィーンに意識を割く事が出来ている。
作戦では動きがあれば差し当たり使者が動く事になっているので全ての意識を魔力順応に持って行けない事情もあるのだが、今のところは順調に事が進んでいると安堵している。
やはり心のどこかでダイヤクィーンに対する恐怖が残っている状態になっているので、その心配がなくなりそうなことに安堵すると欲望が顔を覗かせる。
「待てよ?仮に自分しか動けないとすると、自分が道具を手に入れれば王すらこの場で対処する事が出来るのではないか?王女がこのままあの女を弱らせる事を期待しよう」
王を含む他の面々は魔力順応に全意識を持って行っている事を把握しているからこそ小声ながらも本音を呟けるのだが、この小声がある程度距離の離れている場所で王女に対して色々と説明しているダイヤクィーンに把握されている事は分からない。
慎重にダイヤクィーンを観察しているのだが、今の所は何かしらの異常を示す行動はないし得体の知れない何かが消え去る事も無い。
それどころか何故か突如として不穏な気配が一気に増えた事から思わず周囲をきょろきょろと見まわしてしまう使者と、流石にこれだけの力を強制的に感じ取ってしまえば魔力順応に意識を持っていった王を始めとした面々も周囲に意識が集中する。
そんな中で使者の呟きからある程度の事情を把握したダイヤクィーンの姿勢に変化はないが、何故か敢えて自ら王女に近接している。
「貴方は王女様なのですね。随分と事情がありそうですので道具の話しは一先ず後で説明させて頂くとして、今度は貴方の事情をお話しいただけませんか?」
ダイヤクィーンも鑑定は使用する事が出来るので無意識で周囲の魔力を吸収してしまう特殊体質である事は把握しており、使者の言葉を理解した今では自分自身を弱らせようとしていた意図も把握できてしまう。
だからと言って元凶とも言える目の前の王女に責があるとも思えないので、怪しいそぶりを見せない限りは一応優しく対応する旨カードを通して全員に伝えられている。
少し前に緊急事態故に就寝中のロイを起こしてしまったのだが、この程度であれば事後報告で良いと判断しているダイヤキングからロイの意思に違わない可能性が高いと太鼓判を押されている。
「事情・・・ですか?」
問われた王女はこの展開は事前に指示された状況ではないので戸惑っており、仮に本音を曝け出してしまった場合には多少動きが阻害されていようが背後にいる父を含めた面々が一気に目の前の優しい女性・・・ダイヤクィーンに襲い掛かる可能性が高いと思っている。
記憶では母だけがこれだけ近くに来て優しく話しをしてくれたので、もう少し話してみたい気持ちはあるが・・・ここまで優しい人に自分では防ぎようのない悪影響を受け続けさせるもの違うと思っている。
色々と葛藤しているのか暫く黙ってしまうのだが、それさえも優しく見守ってくれているダイヤクィーンの姿に何かを決心した表情になる王女。
背後からは異変を感知して臨戦体制に移行した気配を感じており、対面にいるダイヤクィーンは直接その姿を見ているはずなのだが一切態度に変化がない。
「あの・・・実は、私は・・・」
全てを曝け出してしまおうと思っているのだが、それが原因で目の前の女性が命を失う可能性に思い至ってしまい言いたいが言えない状況に陥っている。
「大丈夫ですよ。何か言いたい事が有っても言えない事は理解していますから、少々状況を変化させてみましょう」
その言葉の直後に背後から驚きの声が上がっている。
「な?おい!お前は脅威になる存在が複数いるとは言っていなかったな?」
道具の情報を聞きに来たと告げた王女の言葉を否定する様に思わず本音が出てしまう王と、一方で問われた使者も何故!と言う思いが捨てきれずに驚愕している。
「初めまして。私達は御覧の通りに親戚になります。そっくりでしょう?もう一人余計な親戚までついてきていますから紹介しましょうか?」
「ふははは。紹介されたジャッ君と言う。ところでそっちの有象無象は・・・地下から敢えて地上に来た所で異なる魔力の影響を受けて行動し辛くなっているようだな。全く、この程度で阻害されるなど情けない」
ジャッ君として行動する事を指針としているので尊大な態度であるが、言っている事は本当に思っている事を口にしている。
同時にダイヤクィーンだけは地下から来た面々の意識が目の前の王女から外れた事を確認すると、そっとこの場から離脱して距離をとる。




