(436)侵攻
投げられた食事と飲み物を飲むと、再び視界の先で楽しそうにしている国民を眺めている王女は・・・いつもの癖で悲しさを紛らわす様に服の上からネックレスに触れている。
一応幽閉されていたと言っても食材と水は指定の場所に定期的に置かれていたので自炊して洗濯も出来ている為に薄汚れてはいなかったしある程度体力も維持できていたのだが、流石に強行軍の為に少々汚れているし疲れていた。
食事と水を得る事は出来たがそれ以外に関してはまるでいない者として扱われるのも何時もの事なので、早く地上に到達して新しい世界を見てみたいと思っている。
もちろん自分の特異体質を理解しているので楽しい未来など妄想に過ぎないと分かっているが、どうしても淡い希望を捨てきれないのは仕方がないだろう。
「もう行くぞ!お前のせいで相当遅れが出ている。この時間で地上の連中に対策されては作戦が台無しだ!」
直に王の言葉で現実に引き戻されると同時に強引に鎖を引っ張られて転倒するのだが、黙っていても扱いは悪くなる一方なので直に立ち上がり指定されている方に向かって歩き指示通りに行動し・・・相当体がきつくなった頃に漸く目的地に到達する事が出来た。
背中からは少々動き辛いと言った声が相当聞こえるのだが、地下の国の住民の行動を阻害する魔力は王女には効果が無く・・・効果を表す前に吸収してしまうのでその影響はないのだが、相当疲れている事から座り込んでしまう。
「おい・・・まさかアイツでも対処できない魔力なのか?」
誰かが王女が座り込んでしまった理由が魔力によるものだと勘違いしたのかこのように呟いているのだが、こればかりは本人に確認しない限りわからないので使者が大声で問いかける。
「お前は何故座り込んでいる。動きに何かしら制約がかかったのか?」
誰しもが王女の言葉を聞き逃さないようにしており、特異体質の王女でも対応出来なければこの作戦は瓦解するので直ぐに地下に戻らなくてはならないからだ。
「今までの行動で疲れてしまっただけです」
「「「「「はっ??」」」」」
思わず何を言っているのだ?と言う反応を示してしまう大半の面々だが、王女は問いかけられた事に対して真実を告げているだけなのでこれ以外の回答などできはしない。
「この程度でへばったのかよ・・・相変わらず使えねーな!」
勝手な文句があちらこちらから出てくるのが聞こえてしまうが、次の瞬間に全員の意識が別の所に向く事になる。
「あら?次は無いと警告していたはずですよね?随分と早いお帰りですね?」
ダイヤジャックを通してハルバン伯爵やタッシュにこの場所にいた不穏な存在については全く問題ないと伝えていた以上、少しだけは様子を見るようにロイから指示を受けてこの場に待機していたダイヤクィーン。
あれ程明確に脅しを掛けていたので全く問題ないと判断して継続監視などする必要はないと思っていたのだが、ロイの指示であれば積極的に実行する必要があるのでこの場に来ていた。
結果的には自分の考えが甘かったと反省すると同時に全てを見通すロイの素晴らしさを再確認できているのだが、取り敢えず即攻撃してはロイの意思に反する可能性が高いと幾つか質問する事にした。
「随分と来訪者が増えていますが・・・何か忘れ物でしょうか?仮にそうであれば私の方でもお手伝いしますが?」
慌てて帰還した事で大切な何か・・・ダイヤクィーンを含めてカードの者達が身に着けているロイから下賜されたチョーカーの様な品を探しに来たのであれば共に探す事も吝かではないと思っている。
同時にカードを通してロイに情報が行くので、ロイとしては相手が多数いるのであればダイヤクィーンだけでは危ないかもしれないと思い他のクィーンも派遣する事にした。
更にダイヤジャックにも現場に行ってもらい後で直接報告を聞くつもりで一気に対応している。
「・・・と言う事で、突然で悪いけど現地に行ってくれる?」
「承知しました、我が主。現地ではどの様な立ち位置で動けば良いでしょうか?ジャッ君として行動するのかダイヤジャックとして行動するのか・・・周囲の目は無いでしょうが地下の住民がどのような力を持っているのか不明な為、安全を見てジャッ君として行動した方が良いと思いますが」
今は夜も更けているので宿にいるロイは即顕現させたのだが、ダイヤジャックが言う通りにこの国にいる時は可能な限りジャッ君として行動した方が良いと判断する。
「その方が良いかな。一応この時間に宿から出て行くところを目撃されるのはまずいから、先行していたクィーンズと同じように暫くは存在を隠蔽して向かってくれる?」
「承知しました」
その直後ロイにはダイヤジャックを認識する事は出来なくなっているのだが、自分自身が指示した事を実行しているだけと理解しているので再び横になり眠る。
カードの者達の移動速度であれば直ぐに現場に到着するのだが、ロイがカードの者達を顕現させる時間とロイに対する現状の説明する時間が必要になっていたのでダイヤクィーンと地下に住む者達との会話は続いていた。
「探し物・・・確かに必要なものがここにあるな。そう言った意味では探し物をしていると言えなくも無い」
「随分と中途半端な・・・哲学的な回答ですね。哲学と言う言葉は御存じですか?」
今の回答であればどう考えても警告を無視して地上に来たと判断せざるを得ない事から棘のある返しをしているダイヤクィーンと、返事をした王も確かに目の前のダイヤクィーンから得体の知れない力を感じているので早速娘を動かす。
「お前には少し事情を話す必要があるな。おい!出番だぞ!!」




