(435)侵攻
欲に対して忠実な国家である事から地上侵攻については常々話題に上っており、国民としても漸くか!と言う思いが強い事から準備については既に大半が実施済みだった。
その為に王女が突然この場に来た時には全員の準備が整っており、彼女が同行する理由も知っているのだが・・・近接すると体調が悪化する事は周知の事実である事から全員が距離をとっている。
その中には当然使者も含まれているし実父である王も含まれている。
もう慣れているのか・・・正直に言えば相当悲しい気持ちになっているが、今となっては亡き母以外のぬくもりを思い出せないのでこの国に存在する面々に対して何かを期待する事は無い。
実はその母は王女の体質について解明された後にも常に優しく寄り添っていた結果、体内魔力まで枯渇してしまい衰弱して死亡している。
全ての事実を知っている王女は父である王から強制的に監禁されても何も文句を言う事は無いが、唯一で最大の宝物である母から貰ったネックレスは常に身に着けている。
特に有用な品ではないし高価な品ではない事は広く知られているので誰も気にしておらず、そもそも強奪するにしても王女に触れる必要がある事から各自が自分の健康を気にした結果誰も実行していなかった。
母からの言葉は常に優しく自分を信じて生きて欲しいと言われていたので自らの手で自分自身を終わらせる事などできず、孤独に耐えながらも毎日ネックレスにその日の事を報告して変化の無い日常を過ごしていた。
今回大きな環境の変化が確実になっており間違いなく地上で生活している存在に被害が出てしまう事は確実なのだが、自分だけで止められるわけもないので黙って指示に従っている。
壁際でボーっと父である王が勇猛果敢な言葉を連ねているのを何となく耳にしながら、有り得ないが地上の存在と仲良く楽しく生活できていると言った妄想で自らの心を慰めている。
王だけではなく直接的に地上に赴いて情報収集をしていた使者、実際にその目で見て実力を目の当たりにした使者でさえ想像もつかない事象が起こり王女の儚い希望が叶ってしまう事はこの場の誰も・・・現実世界から逃避して妄想している王女本人も含めて誰一人として想像もしていない。
「おい、お前は当然先頭だ。わかっていると思うが、一定の距離を正しく維持して行動しろ!勝手な逃亡は許さんぞ!」
そう言いながら鎖を投げつけた王と、鎖の使用用途など聞かず共分かるので自発的に先端の輪になっている部分を自分の腰に装着する王女。
こうする事で鎖の端部を持っている存在から一定以上の距離をとる事が出来ない、つまり逃亡できない状況を創り出している。
王としては娘が逃亡しようが正直どうでも良い存在になっているばかりか寧ろ邪魔だと思っているのだが、今回の作戦の肝になっている事からある程度の期間はしっかりと管理する必要があると思っている。
先ずは使者が脅威と口にした道具の無効化と地上の魔力の吸収により濃度を下げて自分達が活動できるようにする事、その後侵攻が完了した場合には更に広範囲の魔力を吸収させれば用なしだと断じていた。
大気中の魔力がどのように発生しているのか、どの様に蓄積されているのか全く分からないし分かり様がないので、仮に王女が不在になった途端に行動を阻害する魔力が再び大気中に充満する可能性は否めないながらもある程度の期間は活動可能なのは間違いない事や、使者からある程度対策が出来そうだと言われているので問題視していない。
あれよあれよと言う間に侵攻が開始され既に一行は王女を先頭として例の地上に続く秘密の通路を移動しているが、直近で帰還した使者により罠が大幅に増えている事からその速度は速いとは言えない。
直接使者が先導するのが非常に効率的だが使者は簡単に通れても体力的に王女が通れるとは限らないので、背後から罠の場所について説明する事になっている。
「頭上にあるその出っ張りを右に移動すると道が開ける。間違っても左にずらすなよ?」
言われた事を忠実にするほかないのだが指示されていた頭上の出っ張りは無数にあるので一つ一つ触れる形で確認を取っている王女と、全てを知る使者としては説明する事も鬱陶しくなっているのだがこればかりは仕方がなない。
「そこじゃない。もう一つ、違う!その隣。そう、それだ。それを右に動かせ。そうだ。今のお前から見て右だ」
地上の脅威に対応する為に罠を新設した事は報告したが詳細を報告する前に侵攻が始まっているので、この状態を報告としながら進行している。
「随分と罠を過剰に設置したようだな。それだけ地上の道具が脅威だと感じたのだろうが、それ程か?お前は想像できるか?」
「ちょっと過剰だろうが、そこは特に問題じゃないだろう?どの道王女がいればその道具とやらは使えないのだろう?仮に道具以外の戦力が有ったとしても、王女がある程度の時間触れてしまえば行動不能になる」
同行している国民がこのように話しているが、コレは王が事情を説明した事から地上の戦力を推測して盛り上がっているせいだ。
実際に道具は脅威になり得るが王女がいれば問題ないし、二人が話していた通りに道具以外の個人的な脅威が有っても王女の力があれば強制的に行動不能にさせる事が出来る。
触れている最中やその後に王女がどうなろうがどうでも良いと思っているのでその辺りを心配する声は一切出ないし、仮に王女が直に攻撃されたとしても生きている間は間違いなく距離に応じて魔力を吸収するので即死でなければ良いと思っている。
相当な時間が経過してしまい王女も目に見えて動きが鈍ってしまったので、このまま継続しては指示通りに動かずに罠を誤起動させるリスクも出てきてしまった事から休憩を入れる事にした。
忌々しそうに鎖を強引に引かれて集団で休んでいる場所の端に追いやられてしまい、他の面々が何かを食べたり飲んだりしている姿を少し悲しそうな表情で見つめている王女だが当然誰も近づく事は無いが・・・流石に体力を回復させる必要があると理解しているのか、使者から食事と飲み物が投げ込まれていた。




