(431)使者の方へ
ここ最近で二度程ゼシューから強烈な匂いが発せられている事実を知っている国王ステヴァンは、この場に来て漸くその原因を把握したのだが・・・ゼシューが感じているのと同様に目の前の異質な存在に何を言おうが行動を改めさせることは不可能だと理解してしまう。
同じ環境にいるゼシューは未だにもがき苦しんでいながらも絶望の表情である事から何かを期待する事は不可能なので、かつてない程に頭を働かせている国王ステヴァン。
常に国王としての品格を保つ意味である程度豪華な服と装飾品を身に纏っているので、装飾品はどうにかなるにしても豪華な服のまま肥溜めに突っ込まれてはありとあらゆる隙間に汚物が侵入してくる事は想像に難くなく、その後脱出できたとしても服の重量がかなり増すので脱がない限り真面に動けない事も把握できている。
結果、何を置いてもダイヤクィーンの暴挙を止める必要があるので必死になっている国王ステヴァンは、一つ賭けに出る事にした。
「そ、その方にも言い分があるだろうが当然こちらにも言い分がある。一つ聞きたいが、何故余とゼシューをこの場に連行したのだ?」
「汚物とその生産者を本来居るべき場所にご案内差し上げただけですが?寧ろ感謝されるべきだと考えておりますが、一体何が不服なのでしょうか?」
心底不思議そうな表情をしているダイヤクィーンも美しいと現実逃避してしまうが、このまま無言の時を過ごせるとは思えないので気を取り直している。
「余の居城は知っての通りに王城だが?無駄な親切大きなお世話と言う言葉を知らんのか?そもそも余はこのような場所にいて良い立場ではないのだ!」
「その判断は貴方がする事ではありませんね」
全くかみ合わず、そもそも一般的な立ち位置を考慮すれば国王に対してこのような事を言える存在など有ってはならないのだが、その常識を軽くぶち破れるのがカードの者達なのでさも当然の様に返されてしまう。
普通の行動では悲劇的な未来が確定するのは間違いないと確信した事から、ステヴァンは少々話題を変える。
「その方の言いたい事を理解はできないが・・・凡そ把握はした。そもそも過去の行動を鑑みてもミューゼ王国で教育を受けたわけではないのだろう?その知識と経験を持って、新たな国との交渉を行ってみたいとは思わんか?」
「全く思いませんね」
まるで取り付く島もないので内心慌てている国王ステヴァンは、一応秘匿事項とは理解しているが最早なりふり構っていられないので勝手な想像を含めてダイヤクィーンの意識を他に向ける。
「単純に今の話しだけではそう思うのも仕方がないのだろうが、もう少し状況を聞けば考えが変わるはずだ。このまま放置するとお前の弟か親戚かは知らんが、ジャッ君が危険に陥る可能性が高い上にミルバのいるクラスにも影響があるだろうな」
ダイヤジャックはどうでも良いがミルバのクラスと言われてしまうとロイが該当するので、ここで初めて露骨な反応を示してしまうダイヤクィーン。
国王ステヴァンとしては餌に食いつかせる事に成功したのだが本番はこれからであり、何を言ってもまるで意に介していなかった目の前の存在もやはり身内には甘いと明後日の方向で確信を得ている。
「少々詳しくお話しを伺いましょうか?」
少し剣呑な雰囲気になっているが、差し当たりこの場所から遠ざかりたいので提案を受けるついでに場所の移動を告げる。
「当然余の方から説明するつもりだが、ここでは話したくとも話せる環境にないのでな。なるべく早く場所を移動して落ち着いて詳しく説明したい」
この言葉を聞いたダイヤクィーンは直に移動を始めたいのか、呻いている手元の存在を軽く国王に向けて放り投げると移動を始める。
目の前に迫っていた地獄が回避された事は確実だが、この後もダイヤクィーンの意識を肥溜め以外に向けさせなければ危険な状況が再来するのは間違いないので歩きながらも必死に考えている。
ゼシューもむせながらだが何とか歩を合わせており、三度目になる生き地獄を回避できた事だけは父である国王に感謝している。
「陛下。それでどうするのですか?」
非常に小さな声で作戦を練っているのだが、先を歩いてまるで後方を意識していないように見えるダイヤクィーンには丸聞こえだ。
「お前が言っていた例の使者か?そこに連れて行く。他国と関係に関する話しも事実だし、実際にお前がそれ程の強さを一気に手に入れる事が出来た国なのだろう?そこが紛れも無い事実であるならば、我が国に対して益にもなれば脅威にもなり得る」
「確かにそうです・・・ね。ボッシュ伯爵を死後操れる技術まである程ですから、得体の知れない存在同士で潰し合うのが最も効果的です」
この時点で我が身が最も可愛いので恩を返す事や約束を守ると自信満々に宣言した事などまるでない事になっているゼシューは、やはり欲望や願望に満ち溢れている国の王から褒められる存在なのだろう。
二人の言葉を完全に信用するわけでは無いがロイに何かがあるのは許容できないのでカードの者に情報を都度送っているダイヤクィーンは、ジョーカーが顕現して調査に乗り出した事を知る。
ジョーカーが調査をする以上二人の言葉が真実か否かは把握できるし、ロイの影に潜って護衛をしているスペードキングからも警戒度合いを上げたと通達を受けた事で安心している。
当然例の使者が潜伏している場所など即座に情報が流れてくるので、先導しているダイヤクィーンはさっさと王都を出てしまう。
「む?何処に向かっておるのだ?」
「そこの産業廃棄物は分かっているのでしょう?面倒なので案内は不要ですよ」




