(427)ゼシュー帰還
体感で一月ほど経過しただろうか・・・ゼシューは特にする事も無いので適当にブラブラしていたのだが、時折上昇した力を試したいのか細かい騒動を起こしている。
しっかりと配列している巨大な石を放り投げてみたりあろう事か強固に見える壁に攻撃して大穴を開けたりしているのだが、多少迷惑そうな表情をされるだけで何も指摘を受けない事から余計に増長していた。
「これこそが余の真の力だな。はははは。確かに錬金も重要だが、冷静に考えれば王である余があくせくと作業をする事自体が有り得ない。その様な事は下々の者にさせれば良いのだ!真の実力者は己の力を示せればそれで良い!」
普段は錬金の技術が至上と考えていたのだが、この結果を見るにゼシューはどちらかと言えば身体強化寄りの能力に親和性があるのだろう。
ミューゼ王国には錬金に適応できない人物は排除される傾向になる事から他の能力に適性があったとしても強引に錬金の能力がある形を作るのが一般的になっており、勿論王族であるゼシューも有りもしない錬金の能力が過剰に高いと誇示していた。
この世界・・・地下の世界では道具に対する概念がないので錬金と言っても理解されず、故に無駄にその分野の実力が必要であると誇示する必要がない事から何となく肩の荷が下りた気がしているゼシュー。
そこに加えて目に見えて理解できる過剰な力を得てしまったので傍若無人になっており、不思議な万能感に酔いしれている。
「この力があれば無条件で王位が転がってくることは間違いないだろうが、念には念を・・・だな」
昨日から力が増加している感覚が無くなったのでコレが言われていた限界なのだろうと判断したのだが、予想を超えて来る物理的な力を得る事が出来たのでこれ以上増加する見込みがないと言われていると同義なのだが全く気にならない。
「忌々しいジャッ君すら凌駕出来るに違いない。いや、アイツは身体強化径の能力ではなくあくまで錬金の能力だからな。分野は異なれば対処も異なってくる。折角手に入れたこの力を有用に使用するべきだろうな」
有用と言っても権力を盤石にする事とダイヤジャックを始めとした目障りな面々の排除が目的の為に碌な使用方法ではなく、当然の様に貴族や民の為に使用する気は全くない。
「ゼシュー。お前も感じているだろうが、この地に居て得られる強化は終わった。約束通りに地上に向かうぞ」
「そうだな。余もそうではないかと感じていた所だ。次のステージは地上・・・我がミューゼ王国になるのだな。面白い!これほど期待が持てる事象は最近では何もなかったからな。お前が望む道具も余の力があれば直ぐに作成する事が出来るだろう。当然それまでのつなぎとしての依り代も直ぐに準備する。楽しみにしておけ!」
周囲の器物破損に関して目の前の存在が知らないはずはないので、その上で態度に変化がない事から尊大な態度が無条件で復活しているゼシュー。
傍若無人な行動や過剰な欲望に関してはこの地では標準である事から対応に変化がないだけで、仮に一般的な感性を持っている存在が相手であれば容赦なく断罪されて最低でも何らかの賠償を求められているだろう。
行きと同じく良くわからない内に景色が切り替わるので、実際は抱えられて高速移動しているのだが今更ながら移動方法に関して興味が湧くゼシュー。
「一つ聞きたいが、この場にどうやって移動してきた?逆にどのように向こうに行けるのかも気になるな」
「それは自分の力だとだけ伝えておこう。この世界からの無駄な干渉を防ぐために、その辺りの詳細については秘匿させてもらう」
ある程度の力を有している地下の存在であれば地上に移動する事は容易く、実は非常に高速で複雑な経路を移動してきただけなのだが、こう言っておけば地上と地下を繋げる隠し通路の存在にも気が付かないと思っている。
力がなければ地下の生活圏から隠し通路にまで到達する事は出来ず、また逆も不可能なために地上側からの侵攻にも対処できると考えられている。
道中は複雑な経路の上に相当な罠が設置してあるので、仮にゼシュー一人で行動した場合には木っ端みじんになっているだろう。
ゼシューは移動方法についてあまり興味がなく何となく気になっただけで、そもそも地上のミューゼ王国を手中に収める事が至上命題である事から秘匿と言われても不満には感じていない。
「それはそうだな。っと、そう言えばお前は地上でもその姿でいられるようになったのか?」
過去この場で会話をした際には人の姿を保てず、また不思議な感覚で意思疎通が図られていたのだが改善されている。
「自分もこの期間遊んでいたわけでは無いからな。魔力のサンプルを持ち帰って研究した結果、この程度は出来る様になっている。だが・・・やはり依り代は必要だ。このまま活動できる状態ではない。あくまで見かけ上普通にできているだけだな」
「ならばしばらくお前はこの場で待機になるのか?」
「残念ながらその通りだ。依り代はどの程度で準備できるのだ?」
「数日以内だな」
「わかった。数日はここで身を潜めておこう。とは言えこの姿だから仮に見つかっても怪しまれる事は無いだろうが、用心の為に隠れておく。数日経過して何も連絡がない場合、此方で勝手に依り代を準備してお前の居城に向かうぞ?」
「好きにしろ。だが余は約束は守る!何と言っても国王になる男だからな。結果的には無駄な心配だと分かるだろう」
過去約束を破るより守った方が少ないが今回はこれだけの力を与えてくれた上にミューゼ王国だけではなく地上にある国に存在している誰一人として認識していない可能性が高い地下の国の王とも懇意にできている実績があるので、この関係を切るつもりがない事から約束も違えるつもりはない。
こうして悠々と城に戻るのだが、当然王都に入った段階でゼシューが無事であった一報は王都内・・・もちろん学校にも一瞬で広まる。




