(426)道具
地上に住んでいる人は当然寿命が存在し、同じく地下にいるこの面々も寿命が存在するがその長さが大きく異なっている。
一見して貧弱そうに見えた事から王はゼシューの寿命が短いと断定して見せたのだが、実際に地上をある程度観察していた存在も王と同意見である事から異を唱えなかった。
「王よ。折角良い手駒が入っておりますが、懸念の通りにゼシューの寿命はそう長くありません。早い段階で情報を聞く必要があります」
「だろうな。その辺りは貴様に任せる。同時に地上侵攻に関する手法も研究所と共に上手く進めておけ」
「仰せのままに」
ゼシューが口にしていた王位を継承して国主となる部分・・・その欲望自体は全く否定する事は無いのだが、そのまま継続させるかは全く別の話しだと思っているこの場の二人。
今の口ぶりでは容赦なく地上に侵攻して攻め滅ぼすと聞こえるのだが、実際にゼシューから情報を得て地上での活動も問題ないと確信できた段階で不要な存在だと切り捨てるつもりでいる。
欲望の為に他者を犠牲にできる意識事態には共感する部分が大いにあるが、所詮は弱者である事は変わりないので得るものを得てしまえばどうなろうが彼等の知った事ではない。
ゼシューは自分の希望を叶えてくれそうな態度の上に力も与えてくれる存在が裏切るとは思ってもいないので、今は幸せそうな表情で夢の中だ。
翌日、男・・・実はこの世界では王とそれ以下との区別の為に名前などなく、王自身も王と呼ばれているだけで名があるわけでは無く、その男がゼシューと会話をしている。
「ゼシューよ。王のお言葉にもあったが、そちらの世界・・・地上に関する情報をもう少し話して貰おうか」
「当然だな。余はしっかりと恩には恩で返せる男だからな。説明は地上の話しで良いのか?正直他の国についての情報はあまりないが、我がミューゼ王国では道具が非常に有用で生活の一部になっている。この国ではどうなのか確認できていないが、魔力さえ供給すれば何でも出来る道具だと思えば理解は早いだろう」
「何でも出来る道具・・・か?例えばどの様なものがある?」
「そうだな。夜になって必要になる明かりや食材保管、温調管理、攻撃や防御、場合によっては回復も可能だぞ」
「非常に興味深いな。自分が調査した時にはその辺りは一切気にならなかった・・・いや、気が付けなかったのが残念だ」
道具の概念がなければ調査などしようがないので仕方ないが、説明を聞いている立場としては何でもできる不思議な道具と認識したのでとある可能性に思い至る。
「ゼシュー。その道具だが、魔力を遮断する事は可能か?」
「遮断?魔力があって起動する道具だから、意味がないのではないか?」
「説明不足だった。お前にも話しただろう?地上の魔力は地下に住む存在が自由に動けない足かせになる。つまり自分達に直接地上の魔力が触れないようにできる道具があるのかを聞いている」
「・・・そのような用途はミューゼ王国ではないからな。今の時点では誰も作っていないだろうが、錬金分野の最高峰クラスのトップであるこの余であればそう時間がかからずに作成する事は出来るだろう」
地下の男としては最高峰だのクラストップだの言われてもさっぱり理解できないが、必要とする道具の作成は出来そうだと言う所だけは理解した。
「それはどの程度の時間が必要だ?どのように作成するのだ?」
地上侵攻が可能になる可能性が高い事から矢継ぎ早に質問しているのだが、自称トップであるゼシューでは作成する事などできはしないながらも気分が良いので謎の自信が復活しているまま返事をしている。
「そうだな。過去に全く作成していなかった品故に新たな技術開発が必要になるだろう。そこを踏まえて余の実力であれば・・・数か月と言った所だろうな」
仮に自分だけで上手くいかなければクラスに属する手駒を使えば良いし、場合によっては改めてタッシュをしっかりと調教すればどうにでもなると思っている。
一般的に数か月は新たな道具のレベルにもよるが相当短い期間となり本当に作成可能なのか疑いの目を向けられるのだが、地下の存在からすれば道具に関する知識がないので寿命の観点からもその程度の期間かと言う感想だけしか出てこない。
「その作業はここで出来るのか?」
「正直に言って相当難しいだろうな。幾ら余の実力が高いとは言っても素材収集もある上にある程度過去の文献調査を行う必要もあるからな。それに練成は応じた設備が整っている必要があるので、やはり国に戻って作業する事が必須だろう」
それらしい事を適当に言ってはいるが詰めが非常に甘く過去に例がない道具と言っているのに文献調査を行うと言う矛盾があるのだが、必要なのは道具が作成可能か否かの為に意識はそこに向いていない男。
結果的にゼシューがこの魔力を吸収する事で得られる力の上限を迎えた後、地上に戻って作業を開始する方向で決定した。
「自分が可能な場所まで同行したいが、道具が出来上がるまでは動きに制約が出来る。何か依り代があると動き易いのだが準備は可能か?」
依り代に意識を入れる事で力の消費も少ない上に行動の制限も無くなるのだが、過去のボッシュ伯爵の様に丁度良い存在がいるかと言えばすぐに手に入れられるわけも無いのでゼシューに問いかけている。
ゼシュー単独で作業をさせる事も検討したのだが、自分達と同じ欲にまみれている存在である事は容易に想像できることから力を得るだけ得て逃亡する可能性が高いと判断して同行する事が決定されている。
生きた存在を依り代にはできないと聞いた事から、適当に準備する事を約束したゼシューは王位が間違いなく手に入りミルバだけではなく魔力分野クラスも潰せると思っていた。




