(424)異界
ゼシューと悍ましい雰囲気を醸し出している存在が会話した後、ボッシュ伯爵の目撃情報は全くなくなる。
この世界の常識として土葬となっているが、その辺りも含めてゼシューが指示してその通りに亡骸を操って元の位置に戻していた。
同時にゼシュー本人の消息も一切不明になっており、学校側としては相当環境が良くなっている中で未だに権力を持っている異分子との認識だった事から安堵している者が大半だが、やはり教職者として一部の教官はゼシューの心配をしている。
「大丈夫ですよ、タッシュ先生。これまでも何度も不在になっていたではないですか?」
校長から魔力生成の道具についてもう少し詳しい説明を求められて訪問した際、慰められているタッシュ。
「そうですね。その通りですね。場合によっては王城で籠っているだけかもしれませんから、不要な心配でしたね」
その日何事も無く授業は終了し、タッシュの私室に集合している。
「今日は残念なご報告があります。タッシュ先生には全てを任せるようにお伝えしていたのですが、調査の結果対象を発見する事が出来ませんでした」
悍ましい存在に対してスペードクィーンが対処すると言い切っていたのだが、いざ事を起こそうと現場に向かうと一切の痕跡が掴めなかった。
対象がいなければ対処などしようも無いので切り上げているが、やはり多少のモヤモヤが残っているスペードクィーンの表情は少しだけ悔しそうになっている。
カードの者にも連絡してジョーカーまで顕現して調査したのだが結果は同じで、報告を聞いたロイも不思議な事があるな・・・程度だがしっかりと受け止めていた。
「め、女神様!!全く問題ありません!その存在が女神様の神々しさに自ら改心して消滅したのです!それ以外には考えられませんので、女神様が気に病む要素は何もありません!コレは確定事項です!」
表情の変化は殆どないはずなのだがタッシュにはお見通しの様で、これ以上ない程に無駄にスペードクィーンを持ち上げている。
おべっかやゴマすりではなく本心から思っている事を口にしているだけなので嫌な雰囲気になるはずも無く、流石のダイヤジャックもここで無駄に同調や逆に茶化そうものならスペードクィーンからの攻撃に晒される事を理解しているので黙っている。
「結果的には良かったのかな?ミルバ君はどう思う?」
「私はタッシュ先生やハルバン伯爵が言っていた現場を見たわけじゃないので何とも言えないけど、痕跡すらないのであれば当面の問題はないのかな。あくまで当面・・・ね。また同じ状況になる可能性は捨てきれないけど、出現の原因もわからない以上は何もできる事は無いよね。逆にロイ君はどう思うの?」
流石に高速思考を持っているだけあって理路整然としており、同じ能力を持つパーミアもミルバの言葉に完全に同意しているのか頷いている。
「うーん。俺は余り深く考える事は出来ないけど、仮に何か事が起きればその時に対処すれば良いと思うよ?だって、理由がわからなければ対処できないわけだしさ?考えてもわからない事に悩まされるよりも別の事を考えた方が楽しいよね?」
この場の全員ゼシューの所在が不明になっている事実を知っているが、血が繋がっているミルバでさえも王城で生活をしていないので城のどこかにいるのだろうと思っている。
カードの者・・・この場に顕現しているダイヤジャックとスペードクィーンは調査をすれば直に情報を得られると思っているのだが、ロイの指示がないので余計な事はしない。
ここでロイが指示を出しておけば本当に失踪している事実に気が付けたのだが、ロイ本人もゼシューが勝手に休んでいるだけだと認識しているのでその必要性を感じていないばかりか、折角変わったこの雰囲気を壊されなくて良いと感じている程だ。
一方で全く話題にも乗らずに不要な者扱いされているゼシューは、例の悍ましい存在がいる境界内部に何も考えずに侵入すると別の世界に移動した。
「ここが自分の世界だ」
「・・・随分と普通に話せるのだな。それに姿も普通に見えるぞ?」
目の前が真っ暗になったかと思い気が付けば今迄居た場所とは全く違う景色が見えたので、宣言していた通りに別の世界に来たことをすんなりと受け入れているゼシュー。
「こっちの世界では順応の為に余計な力を使う必要がないからな。それにしてもお前は相当だな。間違いなく問題ないと確信は有ったが、正直予想以上にこっちの世界に順応できているのには驚きだ」
「当然だろう?コレが次期国王である余の実力だ!」
「そうなのだろうな。改めて自分の世界によく来てくれた。住処や環境はお前の世界とそう大差はないだろうが、あっちが見えるか?あの黒い魔力の塊だ」
「あの球体であれば見えている。魔力の塊かどうかは分からないがな」
「それだ。あれはこの世界の魔力溜まりの中で最も密度が濃い場所だ。特段何かがある訳ではないが、この世界で生を受けた存在でもあの中に入ると正気を保てない。外から来たお前は余計に危険だろうから伝えておく」
「余の実力であれば問題ないと思うがな。一応理解した。ところで・・・お前が言っていた通りに余の力が増しているのがわかるぞ?」
「やはり自分が思っていた通りになったな。ここで生活しているだけで、上限は有るだろうがお前は日に日に強くなっていくだろう」
その理由は魔力の質にあり、この世界は恐怖や混沌を好んでいるので漂っている魔力もかなり淀んでいる。
ゼシュー自身も淀みを具現化した様な存在の為に応じて魔力も淀んでいる事から周囲の魔力を軽く吸収して力が上昇しているが、ミューゼ王国を始めとした大陸のどこを探しても魔力の質を研究する必要性がないので魔力の質に関して区別されていない。
そもそも道具起動も魔力の量だけが重要なので、質に関して議論にもならなかった。




