(423)ゼシュー去る
まるで自分の魔力の質について褒められているかのような不思議な言葉が聞こえて来たゼシューは、魔力の分別などできた事は無いしその様な知識はないと把握しながらも不思議な存在と普通に会話を始める。
ある意味豪胆である意味知識の無さからくる無謀な者とも言えるが、褒められるのが当然の環境にいたゼシューは最近の変化に納得できずにいた所で自分自身を理解してくれる存在が目の前にいる事から会話が弾む。
<どうやらお前は相当な力を持っているようだ。ここまで会話が続いた事は無いし、そもそも近接出来た存在もこれまで皆無だったぞ?>
「ははは、当然だろう!何度も言うが、余は次期国王となる男だからな。その辺りの有象無象と同じにしてもらっては困る!」
<確かに現実がお前の実力を裏付けている。どうだ?一度こっちの世界に来てその実力を伸ばしてみないか?>
「こっちの世界?どの様な世界だ?ひょっとして、お前は少し前に王城のパーティーでタッシュを操っていた存在の仲間か?」
<タッシュとやらの存在は知らないし、そもそも王城など場所も知らないので行った事もない。自分が関連する者がこちらの世界に来た報告は受けていないし、正直に言って来られる状況にないはずだが?>
ゼシューは次期国王と言う立場は間違いないと思っているので、目の前で会話をしている存在がパーティー会場で猛威を振るったタッシュを乗っ取っていた存在と同類なのであれば同行するわけにはいかないと判断している。
流石に制御しきれる自信はないし裏切られては自分の配下が始末されてしまう可能性もある事から、保身の為に何故か普通に聞いている。
相手が嘘をついても見破れる術はないのだが、此方も過剰な実力の勘違いによってその程度は看破できると信じて疑っていない。
「そうか。今更だが、お前は何故このような場所にいる?それと、今尚姿が明確に分からないが何か制約を受けているのか?」
本来はボッシュ伯爵の件で太古の道具を使用している存在を探しに来たはずだが、その辺りは全く気になっていない様だ。
<あぁ、こっちの世界がどのようなものか気になっているのだが、残念ながら順応するのに相当時間がかかっている有様だ。そう言った意味では制約を受けているのだろうか・・・>
「おいおい、仮に俺がお前の言う別の世界に行ったとしよう。お前がこっちの世界に順応できていないのであれば余もそっちの世界で同じ状況になるのではないか?」
<それはないだろう。繰り返すがお前の魔力の質は素晴らしいからな。自分達のいる世界に来ても即座に順応する事が出来るだろう。場合によってはその影響を受けて今以上の力を得る事が出来るかもしれないぞ?いや、その可能性が高い>
「な、なに!!力を・・・今以上の力・・・か?面白い。お前の言う所の別世界に行くにはどうするのだ?余が力を付けてしまえば、これ以上ない程にこの国の継承者は余になるだろう。一応確認だ。そっちに向かった後に行ったきりにならないだろうな?」
ゼシューの最大の目的は王位を継承する事なので、幾ら力を付けようがこの世界に戻ってこられなければ話しを受ける事は出来ない。
<大丈夫だ。自分がこの場に来ている様に、自由行動に関して制約が出る場合があるだけだ。さっきも言ったが、お前の魔力であれば向こうの世界に行っても何も問題はないだろう>
「もう一つ質問だ。向こうの世界で余が力を付けるのは当然だが、その結果今のお前の様にこの世界で制約を受ける可能性があるのではないか?」
基礎知識もまるでないゼシューにしては鋭い質問だが、自らの最大の目標に関する話しであればある程度は知恵が回るようだ。
<今の自分の様にはならないだろう。この世界に対する順応に時間がかかっているだけだが、お前であれば向こうの世界でもそのまま動けるはずだ。戻った際にも元からこの世界にいたのであれば何も影響はないだろう>
言葉だけで憂いが無くなったと感じている浅はかなゼシューは、これ以上ない程の幸運をミスミス見逃す手はないと話しに乗る。
「余は全てを理解した。その提案、受けようではないか」
<英断だ。これで事前調査の為に無駄に力を使っていたのだが中止にできるな>
「・・・もう一つだけ確認したい。今の事前調査だが、ひょっとしてとある人物を徘徊させて王都の情報を得ていたのか?」
<王都かどうかは知らないが意識だけを少し分離してこの世界に関して調査を始めた所、一部補修中なのか?ある程度の屋敷の中に一人でいた存在が居たのでな。観察していた所で突然倒れて死んだ。意識だけ分離したままだと長くはいられないのでな、不思議な儀式が終了した後に丁度良い道具として活用させてもらった>
不思議な儀式とは葬儀の事だろうと理解しながらも、最も重要な部分を確認しなくてはならないと多少剣呑な雰囲気で問いかけるゼシュー。
「それはお前が殺したのか?」
補修中のある程度の邸宅、そして死亡したはずのボッシュ伯爵の目撃情報が重なればこの存在が口にしている対象はボッシュ本人で間違いない事からどうしても確認したかった。
<自分の話しを聞いていないのか?勝手に死んだのだ。意識だけを分離しているのに、何かをどうこうする事は出来ない。まぁその後活用させてもらったが、そうした方が楽に情報を得られるのは間違いないからな>
流石に忠臣を殺害するような存在であれば幾ら力を得られると言われても単独で同行するわけにはいかないと思っていたのだが、説明を信用すればその様な事はなさそうで安堵しているゼシュー。
「理解したぞ。正直お前が操っていた・・・のか?その存在は余の忠臣だったのだ。もうゆっくりと休ませてやってくれ」
<そうしよう。この世界の情報についてはお前がある程度教えてくれるのであれば不要だからな>




