(421)王族
タッシュの私室で何時ものメンバー達が盛り上がっている頃の王城では、未だに機嫌が悪い国王ステヴァンが漸く匂いが取れたゼシューを前に怒り散らしている。
「あれほどの道具について何も情報を得ていなかったのか?こうなる事を危惧しておったのだ!貴様はこの程度の仕事も出来んのか!!」
実は道具の完成品を盗み出そうとした所で肥溜め浸漬の刑に処されたのだが、ありのままを話すとコソ泥のような行動も説明する事になるので何も言えずにいるゼシュー。
こうなると更に叱責が続くので、思わず責任転換をしてしまう。
「いくつかの情報についてはボッシュ伯爵に情報を渡していました。余・・・私は継続して情報収集をするために報告する時間がなかったのです」
完全に嘘だが配下のボッシュ伯爵であればこの程度の虚言で罪を擦り付けても許容範囲だと思っているが、ゼシューは隔離・幽閉されていた為に外の情報を得る手段がない事からボッシュ伯爵逝去の事実を知らない。
「ゼシュー、貴様死人に口なしで罪を押し付けるのか?」
「え?は?」
「とぼけるな!その上にあの道具を安値で市場に出されているのだ!こっちとしては大損だぞ!」
実際には決して損はしていないのだが、取れるはずの利益を失った事を考慮すれば大損になっている。
「お言葉ですが陛下。つい最近ボッシュ伯爵を目撃したと聞き及んでおりますが?」
「あ奴には謹慎を命じておったわ!そろそろ反省した頃合いかと思った所で訃報が飛び込んできた以上、貴様の言う目撃情報など有り得んのだ!」
貴族達の間で噂になっている事からゼシューの耳にも入っているので逝去と聞いても素直に聞き入れる事が出来ないが、立場もあるし国王ステヴァンは間違いなく伯爵は逝去したと知っているので意見を曲げる事は無い。
結果的にゼシューの立場を更に悪化させる事態になるので一方的な叱責だけで追い出されてしまい、翌日子飼いの面々・・・可能であればボッシュ伯爵子息であるボナンに会って事実を確認しようと学校に向かっている。
「雰囲気が変わった・・・か?余のいないこの短い時間で劇的な変化があったようだな。陛下によれば、魔力生成の道具が安価で販売されてしまった影響か?」
自分が叱責された原因を擦り付けようとしたボッシュ伯爵の生存確認に加え、実際に隔離された後にはゼシュー個人の実入りが一気に激減している事から道具に関してもこれまで国が主導で値上げをしていた品が販売できていない可能性は高いと思っている。
とは言え・・・やはりゼシューも一応人の子の為に魔力生成の道具に関しては仮に存在したとしても太古の道具であるはずだと考えているので、民が普通に購入できるわけがない事から真実は何処にあるのか確かめようとしている。
「道具は何処も動いている・・・と。つまりはそういう事か?」
王家が魔力保管・曲級の道具に関して値を釣り上げた結果販売数量が一気に落ちており、応じて起動している道具も本当に必要最低限になりつつあるのは知っていたので今の状況を考えると、信じたくはないが魔力生成の道具が安価で販売されていると言う話しに真実味が出てきてしまう。
自然と早足になって錬金分野の1組に入ると生徒達から注目を浴びるのだが、視線を集めても特に気にならないのでボナンを探す。
「おい・・・ボナンはどうした?何故いない!」
近くにいるどこかの貴族・・・名前を覚えるほどの立場ではない事から顔だけ覚えている存在にこう問いかけると、ゼシューとしては聞きたくない内容が耳に入ってくる。
「ボナン君は今日はお休みです。伯爵としての仕事もあるので、学校に来る日は相当少なくなっています」
自らが欲している回答とは真逆の内容である事から、何故この短い期間でこれほど大きな変化が起きているのか中々受け入れられずにいる。
「・・・ボッシュ伯爵はどうした?」
「少し前に逝去されたので、ボナン君が後を引き継いでいます」
これ以上何を聞いても結果は同じだろうと思い、最終的には一度伯爵家に出向いてボナン本人と面会するほかないと考えている。
「理解した。それで?何故この教室だけではなく学校中の雰囲気が変わっているのだ?」
「そ、それは・・・」
この貴族子息では直接的に抵抗勢力の親玉であるゼシュー本人に真実を告げる事は出来ない様で、どうしても言い淀んでしまう。
「はい、おはようございます。ゼシュー君は久しぶりですね。遅れを取り戻せるように頑張ってくださいね。ですが安心してください。今日は素晴らしいお方が授業に参加して頂ける事になっています」
タッシュの紹介で生徒達は改めて開いた扉に視線が集中しており、そこからスペードクィーンが入室してくると一気に沸き立つのだが・・・ゼシューだけは自分を二度も肥溜めにぶち込んで見せたダイヤクィーンに見えてしまうので他の面々とは打って変わって顔面蒼白になり逃げ出している。
ゼシュー不在の方が授業は捗るしクラスだけではなく学校全体の雰囲気も良い事は間違いないので誰も引き留めなかった結果想定外に時間が余った事から、その足で直接ボッシュ伯爵邸に向かっていた。
「・・・お久しぶりです、ゼシュー王子」
ゼシューが突然乗り込んできたので立場的には対応せざるを得ないボナンだが、ゼシューから見れば過去とは異なって自分を歓迎しているようには見えない態度になってしまう。
ゼシューはこの態度を実父逝去の悲しみによるものだと誤解していた。




