(418)ハルバン伯爵
冒険者の帰還率悪化は依頼先から戻ってこない率を表しており、依頼放棄でどこかに行ってしまってもカウントされるが基本的には何か大きなトラブルがあって戻ってこられない事が殆どだ。
大半が想定以上の外敵に遭遇した結果負傷して隠れているか、最悪はその場で息の根を止められている事もある。
裏の世界に長くいたコームは生存競争を勝ち続けた結果生き残れているのである意味普通の環境と考えているが、そこまで過酷な経験をした事が無いリンド子爵令嬢のシェーンやヨーレイは少しだけ怯えているように見える。
そこを敏感に感じ取ったミルバが直に話題を変えており、コームもその意図は分かるので詳しい話しは別の機会にすれば良いと再び口を閉じている。
その後数日して・・・今度は何とも言えない話題が始まるのだが、今回の出所はシェーンだ。
「あの・・・ね?私が聞いた話しでは、ボッシュ伯爵を色々な場所で見た人がいるらしいの。一般市民では顔を知らない人もいるかもしれないけど、貴族の友達も何人かは同じ事を言っているから怖くって」
同じ学年内での風通しは過去にない程良くなっている事から、貴族ばかりの錬金分野にも友人が出来ているシェーンは聞いた話しを怖そうに口にしている。
話題になっている逝去したボッシュ伯爵の息子ボナンは登校していないが、何故か伯爵本人の目撃情報だけが噂になっている。
自分から話したのに相当怖そうにしている事から、再びミルバが配慮して少し別の話しに流れるように誘導する。
「それは怖いね。いないはずが・・・と言えば、私の弟のゼシューも未だに登校していないね。まだ匂いが取れないのかな?」
ダイヤクィーンによって再び肥溜め投下・・・ではなく、肥溜め浸漬の刑に処された事はダイヤジャックから公開されており、その結果登校できずに王城の離宮と言う名の監獄に幽閉されている事実まで知らされている。
一応警備が万全のはずの王城における出来事の為に何故?と言う気持ちが少しだけあるが、ジャッ君だから!と誰しもが納得していた。
ミルバの思惑通りにゼシューの話題に移行してこの場はお開きになったのだが、宿に戻ったロイは久しぶりに自らダイヤキングを顕現して話しをしている。
「今日の話しは聞いていたでしょ?シェーンさんが複数の人から聞いた情報で、俺が知る限りでは話しを聞いた相手は伯爵とは全く関連の無い人だから・・・ちょっと気になるんだよね。それにボナン君の状況も気になるし。って、勝手に調査はダメだよ?一応俺の力をなるべく使わないで穏便に調査できる方法を考えて欲しいんだけど」
カード基準で動かれてはたまらないので、一般的と言える範疇で出来る事を考えるように告げているロイ。
「であれば我が主。一度友人として伯爵家に弔問するのは如何でしょうか?場合によっては先生も同行すれば・・・特にパーミア先生であれば少しの異常でも見逃す事は無いでしょう」
「確かにそうだよね。そうしようかな」
珍しく真面な案だと思ったロイは翌日の夕方、怖がらせたくない配慮でシェーンが不在になった時にこの案を告げると教官三人とミルバ、ダイヤジャックが同行する事になった。
週末に弔問するのだが特段変わった事は無く、ダイヤジャックから見ても怪しい部分は何もないのでシェーンが伝え聞いた目撃情報は勘違いだろうと判断される。
まさか墓荒らしをして存在を確認する程の暴挙に出る訳にもいかないので、一般的な異常の有無を確認しただけ。
ボナンに至っては爵位継承の手続きにより中々学校に通えなくなっただけで、処理が終われば頻度は減るが登校すると直接言われたので教官一同安堵している。
宣言通りに立場もあって毎日ではないが学校に通い始めたボナンを含めて日常が流れている中で、女神からの啓示によって常に新しい視点で道具について研究しているタッシュが新たな発見をしてしまう。
タッシュは高い能力から王都の外・・・国の外れにある森の一部に得体のしれない何らかの存在・・・体が見えるわけではなく本当に雰囲気だけしか察知できずに何かとしか言えないが、ある一定の範囲を出られない存在を新規で作成した道具によって確認してしまう。
余りにも気になったので何となくその方向に向かった所、嫌でも背筋が凍って逃げ帰るように学校に戻っていた。
流石のジャッ君でも対処は不可能だと感じるほどの恐怖だったこともあり、また生徒に助けを求めて危険に晒すことはあり得ないと教師の鑑のような精神で日中は授業を行い、夜単独で必死に対策するための新たな道具の錬成を行っている。
特にミルバやロイ、ダイヤジャックを始めとした生徒に勘繰られることが無いように行動しているので特段調査をする意思のないロイもその動きは掴んでいないのだが、知能担当教官のパーミアは違う。
とある日の深夜・・・タッシュの研究室に三人の訪問者が現れる。
「おや?こんな時間にどうしました?パーミア先生、ヨーレイ先生。え?ハルバン様!」
ゼシュー派として活動をしていた時には各貴族について色々と情報を仕入れていたので、当時敵になり得る相手の筆頭だったハルバン伯爵については他の誰よりも情報を持っていたタッシュは一目見て本人だと理解する。
「確かにタッシュ先生は相当変わったようだな。お邪魔しても良いか?」
「も、もちろんです。どうぞこちらへ!」
過去であれば絶対に入室など許可しなかったのだが、タッシュが完全に生まれ変わったとパーミアから報告を受けたハルバンはその姿を一目見ただけで報告の内容は事実だと理解していた。
「突然どうされたのでしょうか?それにパーミア先生やヨーレイ先生まで・・・何かありましたか?」




