(416)タッシュの希望
王城での出来事はダイヤジャックからリアルタイムでカードを通して報告が行われており、まさかあのボッシュ伯爵が国王に進言めいた事を口にするとは予想出来ていなかったロイも驚いている。
ダイヤキングや知能担当教官のパーミアでさえ相当驚いているのだが、現場にいるパーミアはこの状況とこれまでの全ての情報を吟味した結果即座に正解に到達する。
一応確認の為に声をかけるのだが、パーミアの立場はボッシュ伯爵と地位が同じハルバン伯爵の忠臣であり・・・正直敵対している事から一般的な教官が口にして良い話し方ではない。
「ボッシュ伯爵?ボナン君から色々と聞いているのかしら?確かに彼の授業態度も激変していたし、ゼシュー王子が不在になった事から接触が減って結果的に汚染が止まり自分を見つめ直す事が出来たと考えているのだけれど、合っているかしら?」
現時点で最も王位に近い王子の事を汚染物質と言い切っているのだが、言われている事は事実なので普通に頷いているボッシュ伯爵。
「そしてその姿を見て、自分自身も見直す事が出来た・・・これも合っているかしら?」
「確かに指摘の通りで、既にかなり遅いと自覚はしているが少しでも罪滅ぼしが出来ればと思い忠言してみた。結果は御覧の通りだが、謹慎程度であれば軽い罰だ。この程度はこれまでの愚策を進めてしまった結果だと思えば何の事は無い」
政治云々の話しは介入するべきではないとロイの基本方針があるので黙っているダイヤジャックは、今回の激変は元を正せばタッシュが黒の存在によって悪意が引きはがされて真面になった事がきっかけなのだろう・・・と、漠然と思っている。
一応ボッシュ伯爵とパーミアは会話を継続している様だが、最早内容に興味がないので全く聞いていないダイヤジャックは暇そうにしているミルバ、ヨーレイ、タッシュとこの部屋の内装について語り合っていた。
語ると言っても気に入らない国王の趣味をこき下ろす内容になっており、ミルバの父と理解しながらもミルバ本人も色々と思う所がある事は知っている事から容赦がない。
「そもそもこの壁の模様は何なのだ?何やら螺旋状と言えば良いのか波紋と言えば良いのか分からんが、目が回る可能性があるだろう?センスが感じられないな」
「私としては女神様の肖像画でもあれば他がどれほど惨くとも受け入れられるのですが、確かにこれでは色々と言いたくなる気持ちもわかりますね」
「わ、私は良く分かりませんけど、ミ、ミルバ君はどうですか?」
「私もジャッ君と同じ感想です、ヨーレイ先生。タッシュ先生の気持ちは分かりますけど、それはご本人に許可を取らないと難しいですよね?」
本人の知らない所で勝手に肖像画を作成されても嫌だろうと思い口にしているミルバだが、聞かれたタッシュは少々ズレた回答をしている。
「それはもちろんです!女神様の神々しいお姿を肖像画にするにも、女神様自身がご納得頂かなければ御利益などあろうはずもありませんから!私も次にお会いできた暁には、是非とも持ち運べる像か肖像画を賜りたいと思っていますよ!」
ミルバの言わんとしている事は本人の知らない所で肖像画を勝手に作成されるのは問題があると告げているのだが、タッシュとしてはその肖像画の出来栄えについてスペードクィーンが納得する必要があると少々ピントがずれていた。
正直錬金だけではなく教官としても非常に優秀だと誰しもが認めているタッシュだが、一方でスペードクィーンの事になると結構バカになる事も広く認知されている。
「そうだ!ジャッ君。申し訳ないですが、是非とも女神様の像を作成頂けないですか?ジャッ君程練成の技術が高ければ、造形に関する実力も当然お持ちでしょう?」
突然振られたダイヤジャックは少々悩むのだが、ロイから作成してあげるように指示が飛んでしまえば従うほかないながらも少しだけ自らの思いを口にする。
「・・・それは構わないのだが、スペードクィーンを過剰に美化していないか?タッシュ先生に伝えた事があるのかは忘れたが、この自分よりも遥かに強い存在だぞ?そこを踏まえると、先生が想像している人物像とは少々開きがあるのではないか?」
自らの発言に関してはカードに報告していない・・・クィーンズに知られては後でどの様な報復があるのか考えるだけでも恐ろしいので、この言葉は独断で一人胸の内に秘めておく決意のもとで話している。
相当な決意での発言だが、この言葉を聞いてもやはりスペードクィーンの事になると無条件で崇拝する事が流れになっているのかタッシュの考えに変化はないばかりか・・・何故か説教までされるダイヤジャック。
「ジャッ君!何を言っているのですか!素晴らしい女神様が強い事は当然ではありませんか。その上に慈愛に溢れているのですよ?そのような方と血の繋がりがある。これ以上ない程に誇って良い事ではないですか!!」
「・・・そ、そうか?わかった。それで大きさと姿勢・・・注文があれば言ってもらいたい」
気迫だけでダイヤジャックを負かしたタッシュだが、女神像の希望と言われたので直ぐに興奮状態になる。
「先ずは神々しいお姿を常に拝見できるように、全ての場所に対して細部に拘りを持って頂きたいですね。当然御髪や爪の先まで・・・そして服装まで拘りを見せる必要がありますよ?ジャッ君の腕は信用していますが、この件に関して私は一切妥協しません!女神様の素晴らしさを表現するには注意点しかありませんが、先に申し上げた事に加えて全てを見通すあの美しい目と黄金比と言って良い・・・」
「ま、待ってくれ!待ってくれ、タッシュ先生。まさか自分がこのような事を言うとは夢にも思っていなかったが、お腹いっぱいだ。少し落ち着いてくれ」
止めなければ勝手な賞賛と注文が永遠に続きそうなのであっという間に辟易して強制的に止めにかかったダイヤジャックと、かなり不満そうな表情のタッシュ。
「ふ。はははは。正に互いが信頼して言いたい事を言える環境になっているのだな。私と陛下にはなかったものだ。なるほど。タッシュ先生とジャッ君は敢えてこのような姿を私の前で見せてくれたのか?感謝する。私も出直しだ!」
勝手に全てを良い方向に解釈したボッシュ伯爵がこのように口走ると退室するが、突然このような事を言われたダイヤジャックとタッシュ・・・特にタッシュはボッシュ伯爵が何を言っているのか全く理解できなかった。




