(410)授業
二次練成以降はダイヤ部隊作成の練成道具を使用しなければ、一般的な存在では練成する事は絶対にできない。
逆に言えばその部分の説明が出来ないので一次練成だけに焦点を絞って説明しており、極めて基礎的な手順である事から教材として利用している。
餌をぶら下げる事でより一層学習意欲が湧くのは周知の事実である事から再びその手法をとったタッシュの思惑通り、ゼシューと多少狼狽しているボナン以外の生徒達はやる気を漲らせている。
「それでは今から各人に必要な素材を配ります。モルダン先生、宜しくお願いします」
タッシュが授業を行う時にはそこから学ぶ為に常に同行しているモルダンなので、今日も事前に言われていた品々を準備して待機している。
ゼシューとボナンにも区別なく全く同じ素材が置かれているのだが、そこには一般的に武器を研磨する砥石と何も変哲の無い土、そして見た目では判別できないが蒸留水が準備されている。
「先生。これだけですか?」
目的の道具を作成するには四次練成迄必要である事から更に素材が必要になる事は嫌でもわかるのだが、それにしても想像もできない機能を持つ道具の基盤となる一次練成の素材が予想以上にありふれた素材である事に驚きを隠せない生徒達。
「はい。一応この水は完全に不純物を取り除いた蒸留水になります。コレは特に錬金の技術が無くても一般的に水を加熱する事で準備可能ですが、作成後一日以内を目安にしておいてください。劣化しますので」
ここまでくると妨害などできないので少しでも知識を入れて国王に報告する方が有用だと大人しくしているゼシューだが、基礎的な授業と言われているが今の自分では恐らく理解する事は出来ないと正しく認識しているので、横で何とも言えない表情をしているボナンに丸投げしている。
「おい、おいボナン!お前がこの授業の内容をしっかりと記憶して陛下に報告しろ。わかったな?」
ボナンとしてはあれだけの道具であれば是が非でも欲しいと思っているので、このままゼシューに付き従って良いのか多少の迷いが出始めている。
そこに追い打ちをかけるように完全に仕事を丸投げしてきたので、忠誠心は目減りしているがこの場で否とは言えずにいる。
ボナン本人も有能かと問われれば決してそのような事は無いのでこの授業内容を把握できる保証はないのだが、一次練成の状態が良ければ完成品を貰えると聞かされているので何とか食らいつこうと思っている為に過去とは違いやる気が出ているのは間違いない。
正にタッシュの思惑通りであり、一方で今後の事を予測してロイに伝えていたダイヤクィーンはゼシューの言葉も聞こえているので間違いなく個人で悪しき行動を起こすだろうと確信している。
具体的にはタッシュがデモで使用した道具を盗み出そうとするはずで、できもしない逆練成やらを国が抱えている錬金術師に命じて勝手に道具を練成して販売しようとするところまで把握していた。
盗まれてもこの場で公開していた一次練成に使用している素材すら判明できない事は明らかなのだが、だからと言って放置して良いかと言われればそのような事は無く・・・近い内に折角匂いが取れたタッシュは再び肥溜め投入の刑が執行される事になる。
授業は今尚進んでおり、見た通りの素材の説明の後に基礎的な考えの講義が行われている。
蒸留水に関しては一日以内の使用と説明しているが、今回に限らず練成に必要になる品々の特性をしっかりと把握して最良の状態で維持保管して使用する事の重要性が説かれている。
「・・・ですから、素材の状態が悪ければ幾ら練成の技術が素晴らしくとも応分の成果しか得られません。素材は種類によって保管状態が異なります。今回の蒸留水は極力低温保管が良いですが、逆に低温で保管すると劣化する素材もある訳です。つまり、錬金に必要な知識は素材にも至る訳ですね」
魔力保管・供給の道具の急騰によって生活がままならなくなり始めているので、代替品・・・いや、それ以上の効果がある品を貰えると聞いては授業に対する熱意がこれまでと異なるのは当然で、ゼシュー以外の誰しもが分かり易いタッシュの説明を聞いて頷いたりノートにメモをしたりしている。
「各素材の詳細に関しては別の時間に講義を行います。早速今回は砥石と土に加えて蒸留水で練成を行いますが、皆さんご存じの通りに練成には魔力を使用します。この魔力伝達が素材に美味く伝わらなければ練成は上手くいきません。魔力は実は各々特徴があるので一概にこうすれば良いと言う事は言い辛いのですが、その辺りについては専門家の意見を頂戴できる環境にあります。皆さんは幸運ですよ?」
そこにヨーレイがオドオドしながら入ってくるが、話しの流れからこうなる事を生徒達は理解しているので・・・本心から言えばやはり少々文句を言いたいが、折角このまま上手く行けば想像以上の道具を手に入れられる事から黙っている。
実際タッシュが説明している通りに魔力を使わなければ練成出来ないし、効率的に適した手法で使用出来ればより良い練成が出来る事は何となく把握しているのでこの際学んでみようと気持ちを切り替えていた。
ただ一人・・・ゼシューを除き。
「はっ、今更魔力?バカにしているのか?余はこのような授業は不要だからな。退席させてもらおう。お前等は一応学んでおけば良いだろう」
普段であれば周囲を巻き込んで強制的に授業を壊していたのだが、今回は授業の内容を報告する必要がある事に加えて・・・タッシュは一つと言っていたが量産準備は略整っていると言っていた以上は完成品に近い品を保管している可能性が高いので、家探ししようと思っていた為に単独で行動する必要があった。
完全にダイヤクィーンの想定通りの行動をし始めたので、事前にこうなる可能性が高いと聞かされているタッシュはゼシューを止めるような事はしない。
一方のダイヤクィーンはロイから離れなくてはならない事から無駄にゼシューに恨みを募らせており、一時ロイから手を繋いでもらえた幸せは帳消しどころかなかった事になっていた。




