(406)おまけ
不正防止の注意もダイヤクィーンから指示されていた事で、実際に事を起こそうと画策していた多数の面々は忌々しそうに再びテスト用紙に向き合っている。
「やはりタッシュ先生は素晴らしい。おかげで改めて全体をしっかりと監視する事が出来ますよ」
これ以上ない程的確なタイミングで未然にカンニングを防止できた事を目の当たりにして、生まれ変わったタッシュの素晴らしさに感動しきりのモルダン。
シーンとしている教室の為に2組や3組からの声まで聞こえているのだが、1組の中で筆を進めている音は極めて少ない。
「それでは終了時間5分前です。そろそろ見直しを行う時間ですね」
見直すも何も全く回答できていない状況の者が殆どだが、それを知っていながら一般的な対応を口にしているタッシュ。
焦りが出ている生徒からしてみれば5分など有って無い様なもので、やがて終了の宣言がなされる。
「はい、そこまで。モルダン先生、宜しくお願いします」
後ろから強制的に答案用紙が回収されており、都度名前まで確認されている事から意図的な回収逃れや名前未記入による採点逃れも出来ない。
「皆さんどうでしたか?今回は今迄の授業で何度も教えていた基礎的な部分の知識が修得できているのかを確認する試験です。結果を見て客観的に今の実力を把握すると良いでしょう。それに・・・少し冷や汗をかいて涼しく感じたのではないですか?それでは今日の授業は終わります」
言われて見れば冷や汗により暑さを感じていなかったのだが望んでいたのはこのような事ではなく、ゼシューも全く手も足も出なかった上に過去とは異なりタッシュに点数の水増し指示できる状況ではなくなった事から無様な結果を開示されては立場すら危うくなりかねないと思っている
ミューゼ王国で最も重要な学問であると認識されている錬金分野の最高クラスに存在しており、偽りながらも常に優秀な成績を収めてトップに君臨している事になっているので・・・そのような存在が最悪は0点である事など許容できない。
受ける価値の無かったテストと言えれば良かったのだが事前に基礎的な所は全員が修得していると言い切ったのは他でもないゼシューなので、黙ってテストを受けている時点でその言い訳も通じない。
「く・・・どうするべきか」
今の学校の環境であれば最悪はテストの結果は学内中に広まる可能性も有り、そうなってしまうと魔力分野に多数在籍している貴族ではない面々から国中に面白おかしく尾ひれがついた噂が流れかねない。
一部の貴族子息達も同じことを思っているようでソワソワしており、一部の面々は既に教室を出て何故かタッシュの私室に向かっている。
今後しっかりと学ぶと宣言して授業態度を改める姿勢を見せに行っているのかはたまたこれまで通りに多少交渉すれば融通が利くと思っているのかは不明だが、全員一致して焦りの表情でいる。
「タッシュ先せ・・・」
未だに格下だと思っているのかノックもせずに私室に突入している生徒は、部屋の中にダイヤクィーンがいる事から言葉が詰まる。
今回の件で何かトラブルがあればダイヤクィーンが継続して対応する様にロイから指示を受けていた為に待機しており、その姿を見て一瞬で虜になり何をしに来たのか忘れてしまっている様だ。
「あぁ、採点は直に終わりますから待っていてください」
通常であれば採点はもう少し時間がかかるのだが、全員揃って殆ど記入できていない事から過去にない程早く採点できてしまっている。
「ハロン君。君は随分とゼシュー君と懇意にしていますね。そこを否定する事は有りませんが、自らの意志で考えて行動しなければいけませんよ?今が最も知識を簡単に吸収できるのですから、無駄な事に時間を取られてしまうのはもったいないです。コレは人生の先輩からの体験談でもあるのですよ?」
何とか諭すように言いながら、過去ゼシューに忠誠を示そうと無駄に突っかかって来た経験を持つハロンに答案用紙を渡すタッシュ。
その点数は名前が綺麗に書けている事から2点を加算しており合計点数は3点で、残念ながら100点満点中の3点でありあからさまなおまけがなければ1点と言う事になる。
自分の感覚では実は0点だった事から、何故かタッシュの温情?に感動しているハロン。
同行してきた貴族子息にも同じように答案用紙を返して言葉をかけているのを黙って見ているダイヤクィーンは、何故これだけ簡単な問題で0点やら1点やらを叩き出せるのか不思議で仕方がなかった。
仮にハロンを始めとした貴族子息がタッシュに暴言を吐いたり攻撃したりするような事があれば即対処するつもりでこの場にいたのだが、珍しく予想に反してタッシュの諭す様な言葉が響いたのか全くその素振りすらなかったのには少々毒気を抜かれていた。
実際にはタッシュの対応もあるが、そこに加えてダイヤクィーンに情けない姿を見せたくない事も相まってこのような態度になっている。
「残念です。あの汚物と同じように肥溜めに投げ込めると思っていたのですが、ここだけは予想を外してしまいましたね。いいえ、予想以上にタッシュ先生の手腕が上振れした結果でしょう。この辺りは修正をかけておく必要がありますね」
ゼシューが直近で経験した肥溜め投入の刑が執行できない事を残念に思っており、この刑を実際に食らったゼシューは自ら発する匂いに精神的にも肉体的にも疲弊する羽目になっていた。
実は今尚若干匂うのだがそこは王族として数多の道具と香水を使用する事で対応しており、一般的な貴族が同等の事が出来るのかと言えば決してそのような事は無い。
その道具の一部は、タッシュから教室で最新道具と指摘されていた品だ。




