(405)改善
突然生徒から教室の環境が悪いと文句を言われているタッシュだが、実際に少々暑いのでその文句は妥当だと判断している。
事前にダイヤクィーンを含めて打ち合わせをしておりこのような場合の対処についても教えてもらっているので、本当に言われた通りの事象になったと感心しながらも模範解答を行う。
内心では流石は女神様の親戚だと感心しきりで、実際にダイヤ部隊は頭脳が突出しているので・・・最近は非常識な行動だけが目立っているが、本気を出せばこの程度の事を予測する事は容易い。
「貴族として我がメルク子爵家も授業料の他に相応の寄付金をしていたと思うのですが、どうしてこのような環境になっているのですか?」
文句を言っている子爵家子息のターランドもその原因は魔力保管・供給の道具の値上がりだと分かっているが、どうしても文句を言いたいので格下だと思っているタッシュに無駄に噛みついている。
「ターランド君の言いたい事は分かります。確かに少しだけ暑いですよね?しかし過去に魔力が使用できなくなった際にはもっと劣悪な状況でした。今後も何が起きるのか分かりませんので、例えば今回の様に多少なりとも環境が悪化した状況で何かしらの対応する為に錬金を行う必要があるかもしれません。良い経験が出来ると思えるのではないですか?」
「はっ・・・詭弁ですよ、先生。今は基本的な事を学び終えた所ですよね?そこから色々な経験を積んだ上でならば少しは理解できますが?」
本当にここまでダイヤクィーンの筋書き通りになっているので、このまま指示された通りの事を口にするタッシュ。
「そうですか。ゼシュー君は今のターランド君の意見に対してどう思いますか?」
「言うまでも無いだろう?お前の言葉よりもターランドの言葉が極めて正しい」
思わず口角が上がってしまうのを必死になって抑え込みながら、これまた言われた通りの言葉を口にするタッシュ。
「成程。それでは二つほどゼシュー君に質問です。一つ目は、皆さんご存じの通りに教室の温調不具合に関しては魔力保管・供給の道具劣化によるものです。通常は定期的に交換しているのですが、何故か値段が跳ね上がって10倍の金額で販売されています。その結果が今の状況を創り出しているわけです。私は既に製法や在庫全てを陛下に譲渡しているのですが、当然どの程度作成に費用が掛かるかを理解しています。そこを踏まえて10倍の金額についてどのように考えていますか?」
「そ、そんな事は余が知る訳がないだろう?全ては陛下のお考えだ」
「うーん。それにしてはゼシュー君が身に着けている道具、相当価値ある品々が過去にない程増えていますよね?随分と王城は羽振りが良さそうなので、王族として道具を一部寄付しては如何ですか?」
「余にその様な権限はない。それにこの道具は余が大切に保管していた品々を眠らせておくのはもったいないと思い使い始めただけだ!」
「おや・・・そう言う割には最新式の道具がありますが、それも保管していたのでしょうか?不思議ですねぇ」
残念ながらタッシュでは遠目で道具が最新か否かの判断はできないのだが、指示された事をそのまま言っている。
ゼシューの様子を見るに完全に図星だった・・・つまりはダイヤクィーンの言葉が正しい事を確信しているので間髪入れずに次の言葉を投げかける。
「二つ目ですが、ターランド君が話していた通りに基礎的な学問は非常に重要です。勿論優秀な1組にいる皆さんには基礎を一通り教え終っているのですが、何故か経験が不足している事も事実でしょう。その原因は何だと思いますか?」
「タッシュ、お前は何が言いたいのだ?余がその様な事を知る訳がないだろう?」
「成程。それでは私タッシュから改めて説明しましょう。基礎すら真面に習得できない生徒が多過ぎるからですね。このまま経験を積んだとしましょう。変な品を練成して大爆発でも起きたらどうしますか?」
「そ、そうならないようにするのがお前の仕事だろうが!そもそも優秀なこの1組に基礎を習得していない奴などいない!」
「その言葉を待っていました!それでは皆さん。基本的な錬金の内容についてこれから試験を行います。当然皆さんが自信満々である事は把握していますので逃亡するような事は無いでしょう?それではモルダン先生、お願いします」
モルダンとは錬金分野1組の担当教官で、既に教室の後ろにテスト用紙を持って待機していた。
逃亡と言われてしまうとプライドが邪魔をして受験拒否する事もできず、その上に逃亡の隙を与えない様にさっさと後ろから試験用紙を配っているモルダン。
こうなると事前にタッシュから聞かされていたので、実は各人のセリフも一字一句異なる事無くその通りになった事に驚きを隠せていないモルダン。
「流石はタッシュ先生。ひょっとしたら、予知系統の道具でも開発されたのだろうか?」
明後日の方向で推理をしながら全ての用紙を配り終えると再び後ろに移動し、生徒達の背後から不正がないかしっかりと確認している。
「それでは試験時間は40分です。はじめ!」
タッシュの号令で一斉にテスト用紙と向かい合っている生徒達だが、錬金分野が全てと偏った思想のまま変化がなく・・・ゼシューを担いでいれば問題なかった事から問題の意味さえ理解できない者がいる。
全く手が動いていないのは背後のモルダンは直に分かるので、特にそう言った面々が不正を行い易い事から注視している。
開始から10分ほど経過しただろうか・・・タッシュから時間経過を知らせるとともに事を起こす場合には頃合いの時間だと指摘が入る。
「そろそろ10分経過します。ご承知の通り不正が発覚した場合には、掲示板に不名誉な内容と共に名前が掲示されますよ?」




