(404)とばっちり
正直ミューゼ王国・・・特に王都では市場が非常に混乱している。
日常生活だけではなく素材入手に従事する人物でさえも道具に依存しているのだが、その道具起動に必要な魔力保管・供給の道具の金額が突如として10倍に跳ね上がれば混乱するのは当然だ。
「おい・・・いくら何でもコレはないだろ?」
道具を販売している店はタッシュが供給していた時点からそう大きな変化はしていないので、馴染みの店で何時もの通りに道具の寿命が来たことから新たな品を購入しようとした所で文句を言ってしまう。
「申し訳ありませんが、仕入れ価格が突如として10倍上がっているのですよ。なるべく利益を取らない様に配慮していますが10倍ですから・・・店側としてもちょっと困っています。間違いなく他の店でも同じ状況ですよ」
この店だけが利益を貪っているのであれば購入しなければ良いだけだが、多少の御差は有っても基本的に桁が一つ跳ね上がっている事は間違いないので必要であればこの金額で購入するほかない。
「なんで突然・・・何か知っているか?」
市井の者には道具に関する権利移譲の情報が完全に伝わっていない様で、都度店に来て文句を言っている人々に対して仕入れ元が変わった事を伝えている。
「私達が懇意にしている購入元の担当は同じですが、大元はどうやらタッシュ先生ではなく国がこの道具の権利を持つ事になったようですよ。その人物も突然原価が10倍になったと言われて面食らったと言っていましたから」
「原価が10倍?ひょっとして、道具の練成に必要な素材が枯渇しかかっているのか?」
一般常識で言えばこのような事を質問してしまうのは当然で、まさか国が単純に暴利をむさぼっているとは思えない。
「私もその線を考えましたけど、そもそもこの道具に使用されている素材が何なのかは一切公表されていませんからね。そうかもしれないしそうではないかもしれません」
過去にはタッシュが独占していたので情報を公開している訳も無く、その状態を引き継いでいる国王も自らの権益を確保する為に継続して秘匿事項としているが大半の予想に反して素材は極めてありふれている品々になっている。
「本当に困るよな。タッシュ先生は何で国に権利を渡したんだ?ひょっとして強制的に譲渡させられたのか?」
「そこまで詳しい情報は無いですけど、学校で今迄通りに生活しているらしいので強制的な譲渡ではないと思いたいですね」
魔力保管・供給の道具を買いに来た男性は想定以上の金額になっている事から今回は購入を諦めたようで、現在使用している品・・・保管容量が減少しており道具を起動できる時間も極めて短くなり始めている今の品をもう少し使う事にした様だ。
「そっか。悪いけど流石に10倍となると簡単に購入できない。そもそもそれだけのお金を持ってきていないからな。今回は見送らせてもらう事にするよ」
「仕方がないですよね。またのご来店を!」
道具自体は相当数必要になっている環境の為に販売している店も多数あるのだが、どの店でも全く同じ状況になっているばかりか・・・中には納得できずに店員に食って掛かっている存在もいる。
残念な事にコレは民だけではなく貴族にも言える事で、こうなると錬金分野のクラスに通っている貴族もある程度事情は把握しているのでタッシュではなくゼシューに対して融通を聞かせるようにお願いをしている。
「ゼシュー王子。その・・・私の邸宅でも相当数の道具を使用しているので例の魔力保管・供給の道具も応分に使用しております。今回突如として10倍の金額になっている事から一部は道具が使用できなくなっています」
あちらこちらからこのように言われるのだが王城は潤沢に道具を保持しているので全く必要ではない場所の照明道具を起動している程で、非常に無駄な状況になっている事を知りながらも自分の生活環境が上向いている為に真剣に受け止めていないゼシュー。
ゼシュー個人で使用できる予算も急遽増額された事もあり、中途半端に販売金額を下げてしまうと予算が減額される事は容易に想像できるので受け入れる事は出来ない。
「・・・貴族として無駄を省く必要があるだろう?模範を示すのだ。実際に使用する必要がない道具を過去の慣習だからと無駄に使っていないか?」
尤もらしい事を言っているが今の王城こそが無駄の塊になっているのだが、高位貴族でなければその現実は分からない。
ボッシュ伯爵の様な存在であればその事実に気が付いているが、国王は抜け目ないのかその辺りに対しては直接今迄通りの金額で融通している。
値上げをしていない段階でも応分の利益が出ているので損はないし重宝している貴族に対する貸しも出来ると考えており、この場にいるボッシュ伯爵家嫡男のボナンが全てを理解してこう告げる。
「ゼシュー王子の仰る通りだ。無駄を認識する良い機会と捉えてみろ?他の面々にも言える事だぞ?」
王子や伯爵子息からこのように言われてしまえばこれ以上の要求や提言は自分だけではなく家の立場も悪化する事は嫌でも分かってしまい黙るほかなく、スゴスゴと自席に戻って行く。
「それでは授業を始めますよ?準備は出来ていますか?」
そこにタッシュが到着して普通に授業を開始するのだが、残念ながら温調の道具に関しては魔力供給が不安定になっている事から非常に効果が薄くなり始めている。
不快指数が上昇する上に各家の状態も改善できない可能性が高いと理解した各貴族の子息達は、八つ当たりの相手がいる事からここぞとばかりに騒ぎ出す。
「タッシュ先生!多額の授業料を支払っているのにこの教室の状態は最悪ですよね?しっかりとした環境で学ばなければ、この国で非常に重要な錬金の学び舎としては不適切ですよ?教官としてその程度も理解できないのですか?」




