(401)道具の弊害
とある日の夕方、校長もヨーレイの私室でダイヤジャックやらタッシュやらが話し込んでいる事を知っているので訪問している。
「め、珍しいですね。狭い部屋ですが、ど、どうぞ」
ヨーレイが椅子を勧めながら慌ててお茶の準備をしている。
「校長先生。どうやら宜しくない事態が起きたようね。私の想像では・・・タッシュ先生が供給していた道具に関する件かしら?」
「流石はパーミア先生。その通りです。ご存じの通りに温調の道具を始めとして学校に設置されている各種道具にもタッシュ先生が作成していた魔力供給の道具が使用されています。当然道具ですので太古の道具でもなければ性能は劣化するわけで、丁度交換の時期に来ているのですよ」
「そこで敢えてこの場に相談に来たと言う事は、供給に問題・・・は差し当たり練成した品を大量に渡しているはずなのでその様な事は起きる訳がないわね。そうなると販売金額かしら?」
「そこもご指摘の通りです。正直に言って今迄の10倍の金額になってしまうと、流石においそれと交換できないのです。学校の運営も予算を組んでいるので、どうしても交換できない場所が出てきます」
ダイヤジャックやロイは黙って聞いているが、この事態は間違いなく王族として誤った判断をした事が原因の為にミルバが立ち上がる。
「申し訳ありません。間違いなく陛下が金額を設定しているはずで、まさか10倍とは・・・何故その設定にしたのか疑問しかありませんが、先に補償としてこれまでの利益を手に入れた事で味を占めた結果、単純に過剰な利益を得たいと思っての行動でしょう」
「あの・・・学校でそのような事態になっていると言う事は、各家庭にある道具に使用している品の供給にも近い内に問題が出ると言う事ですか?」
リンド子爵令嬢シェーンが不安になっている事を口にしており、子爵家でももちろん道具を使用して生活をしているのだが他の貴族と比較すると決して裕福ではないので日常的に使用する為の道具に関する消耗品の金額が10倍になると立ち行かなくなる可能性が極めて高い。
「恐らく国王が欲に目がくらんでこのような暴挙に出たのでしょ?って、ミルバ君が謝る事じゃないわよ?その結果はシェーンさんの言った通りに貴族や民にも大きな影響が出るでしょうね。対応策としては・・・重要な道具に必要な魔力は都度各人が供給するほかないかしら」
魔力さえ供給できれば道具は動くのだが、当然のようにこの国の国民は魔力に関する知識がほとんどない為に安定的に供給する技術を持っている人物は極めて少ない。
道具の中には繊細な品もある訳で過剰に供給すると必要な道具そのものが破壊されかねないし、連続して動かすには継続的な魔力供給が必要になる事から現実的には人がつきっきりで供給し続ける事も不可能だ。
前回の魔力消失の際もそうだが、実際に問題になって初めて各種道具の有難みが身に染みる事になる。
パーミアはこの場において口では都度各人が供給するのが唯一の改善策と言っているが、高い確率でダイヤジャックであれば平然と常識を打ち破ってくる道具を作成して解決すると思っている。
敢えて言わないのは選択肢は製作者であるダイヤジャックにあるからで、なんだかんだと常識外れな存在ではあるが心根は優しいと感じている事からここで余計な事を言ってしまうとどの様な苦労があろうが一切表に出さずに一人で仕事をしかねないと配慮している。
正直無駄な配慮ではあるが流石に人ではない超常の存在だとは流石のパーミアもわからないので、他の対策があるのかもしれないとタッシュに話しを振る。
「タッシュ先生。先生が作成した道具は保管時の魔力供給は一気にできる上に放出時の魔力量は任意調整できたわよね?あの道具以外に今回の対策になり得そうな品は有りそうかしら?」
「残念ながら非常に難しいですね。本来はもう少し研究して寿命を延ばそうと考えていたのですが、陛下に全ての権利を譲渡しているので研究資料自体を破棄しています。そもそも継続して研究できたとしても、そう簡単にできるとは思えません」
「あ、あの・・・シェーンさんのご自宅では、最も停止すると困る道具は何でしょうか?」
「色々ありますけど、私の考えでは食料保管庫の冷気供給の道具です。アレがあるおかげで食材の長期保管が出来ているので、止まってしまうと・・・本当に困ります、ヨーレイ先生」
冷蔵庫に近い道具も一般的に出回っているので、直近の魔力が消失していた大事件の際に実は保管していた食料は全てダメになっている。
ダイヤジャックとしては前回作成した魔力生成と供給が出来る道具があれば一発解決になるので対策をしろと言われれば即可能だが、相応の道具であると認識している今の状態で勝手に暴走するわけにはいかないと珍しく常識的な考えで黙っている。
「えっと、国王陛下に譲渡した在庫から10倍になっているのかな?補償金としてこれまでの利益も全て渡しているのにその状況って、王城ではそこまで財政難なの?ミルバ君」
「私は内情を知るわけでは無いけど、感覚的に言えば全くそのような事は無いはずだよ、ロイ君。例のタッシュ先生が生まれ変わったパーティーの時、無駄に装飾品が沢山有ったでしょ?アレだけの品を準備できる財力があるのは間違いないからね」
「あぁ、そうだったよね。ジャッ君の親戚が攻撃の余波で殆ど破壊したんだっけ?」
「確かにロイ君の言う通りだが、庇う訳ではないがあくまで不可抗力だな。それにタッシュ先生が渡したこれまでの利益だけでも十分以上の保障になっているのは間違いないぞ?それ程の道具や装飾品ではなかったからな。程度が知れている」
価値に関してはカードの者達基準になるので鵜呑みにするわけにはいかないが、ロイの感覚でもダイヤジャックの言っている事は正しいと思うので同意している。
「そうだね。俺もそう思う。となるとミルバ君が言っていた通りに、単純に利益が欲しいだけで暴挙に出たのかな?どうすれば良いのか悩ましいね」
放置しては友人のシェーンも苦労する事が目に見えているので何らかの対策は必要だと思っているロイの一言で全てが解決する事は間違いないが、過剰な対応をしてしまうと最近徐々に暴走気味であると感じている事から慎重になっている。




