(398)刑執行
突然拉致されたこの場で動揺しているゼシューは、少し前にいたヨーレイの部屋で確かにダイヤジャックが自分自身を肥溜めに突っ込んでおけと口にしていた事を明確に思い出している。
そして今・・・正に肥溜めと言われると納得できる匂いが充満しており、王族に対して敬意も何もあったモノではないこれまでの行動を考慮すると容赦なく有言実行される未来が見えてしまう。
仮に実行されても差し当たり命に別条がないのは救いだが、精神的には非常に辛い事になるので激しく動揺している。
「ま、待て!待て!そもそも淑女が王族を肥溜めに落とす事が許されるのか?それが淑女の行動と言えるのか?」
本来突っ込むべきポイントはそこではないが、迫りくる大惨事を回避する事に頭がいっぱいで真面な受け答えが出来ない。
「汚物を掃除する事も淑女の務めですよ?王族としてこれから学ぶべきことはたくさんあると思いますので、頑張ってくださいね?」
その後浮遊感に襲われるとヘドロが溜まっている池のような場所・・・正に肥溜めに落とされた事を確信してしまう。
「うぇ・・・お、おい!助けろ!!おえぇ・・・は、早くしろ!」
慌てているので汚物が少々口の中に入ってさらに慌てる事になり、悪循環に陥っているのだがダイヤクィーンは冷めた視線で観察しているだけ。
差し当たりロイの方針である生命を奪わない様に気を付ければ良いだろうと思っているので、ゼシューが肥溜めから脱出した事を確認すれば任務は完了予定だ。
落とされた当人は慌てているので中々脱出する事が出来ずに相当な時間が経過しており、飽きが出ているのかダイヤクィーンはこの様子を心底つまらなそうに見ている。
「これがミルバ様の弟・・・何をどうすればこれ程までに差が出るのか研究してみるのも面白いかもしれませんね」
何とか肥溜めの縁に到達したゼシューは最後の力を振り絞って脱出したのだが、最早体力も気力も精神力も枯渇してしまったのか倒れて激しく息をしているだけで動けない。
当然首を横に向ければ激しく動いた事によって波打っている肥溜めが直目の前にあるのだが、指先一つ動かせない程に衰弱していた。
「漸くですか。本当に愚図ですね。王族として行動が遅いのは致命的ですよ?それに加えて体力の無さにも呆れるばかりです。頭も悪ければ力も無い。どこに尊敬する要素があるのでしょうか?」
嫌悪感丸出しでこれ以上ない程にこき下ろしているのだが、この暴言にさえ一切反応できない程に弱っているゼシューは虚ろな目をしている。
「・・・反応があると鬱陶しいですが、何も反応がないのも釈然としませんね」
今回の件に限って言えばゼシューが気の毒になるのだがダイヤクィーンには一切関係がないので、最後にこう付け加えている。
「貴方が言っていた獣人の方ですが、あの場の説明は全くの嘘である事は分かっていますよ。単純にお礼を伝えたいだけなのに、何故ミルバ様が国の情報を渡す事になっているのでしょうか?勝手に事実を捻じ曲げるのは感心しませんね」
この言葉には少し反応してもらわなければ困るので、様子を慎重に観察しながら嫌々光魔法を調整しながら行使している。
「・・・お前こそ何を言っている!余は事実を伝えただけだ」
「それが偽りだと言っているのですよ。あまりにも話しが通じないのであれば、再度肥溜めに落とすほかありませんが?」
「・・・」
何故急に話せる程度に体力が回復したのかは分からないが、再びあの惨状に陥る事だけは避けたいゼシューは黙る。
「そこで貴方に命令です。良いですか?お願いではなく命令ですよ?あの場では黙っておりましたが、獣人二人を王城に連れて行く件は認めません。どの道貴方程度では獣人のお二人を発見する事は出来ないでしょう?正直に見つける事が出来なかったと伝えてくださいね?」
やっと国王からの命令を遂行できる状況になったし最悪獣人二人が発見できなくともミルバが逃がしたと言えば如何様にでもなると思えたのだが、その全てを否定しているダイヤクィーン。
素直にゼシューが命令に従うとも思えないので、脅しをかけておくことも忘れない。
「故意に失念するのが得意なようですし、勝手な解釈もお手の物でしょうから念のためお伝えしておきます。貴方が獣人のお二人を見つける事が出来なかったと言うのですよ?仮に偽りの報告が行われた場合、今以上の環境にお連れする事を淑女としてお約束します。それでは何時までもここに居るのも不快ですから、これで失礼しますね」
もちろん匂いは遮断しているし服にも体にも一切付着していない状態でこの場にいるのだが、やはり気分が良い場所ではないのでサッサと消えて行くダイヤクィーン。
その後暫くは動く事もままならずに放心状態になってしまったゼシューは、相当時間が経過すると何とか立ち上がりダイヤクィーンが去って行った方向に向けて歩を進めている。
「こんな場所に・・・」
扉を開けると階段がありそこを登って建屋の外に出ると、王都の中でも非常に汚くゼシューとしても近寄るのも嫌悪していた場所である事がわかってしまい悔しさが隠し切れない。
とは言えこの場で暴言を吐こうものなら周辺住民に何をされるのか分かったものではないので大人しくしており、そもそも着ていた服も悪臭漂っている状態の為に遠目に見られるだけで誰にも絡まれる事は無かった。
この流れでそのまま王城に向かった為に衛兵から相当嫌そうな顔で尋問され、漸くゼシュー第二王子だと判明した際にはすっかり明け方になっていた。




