(396)無能を晒す
「お待たせしました」
ダイヤクィーンがタッシュはクィーンズを識別・・・最低でもタッシュが女神と崇めているスペードクィーンがこの場にいるわけでは無いと理解している可能性が高いと話していたので、確かに相手がスペードクィーンであれば語尾に女神様と付けるはずだと思い至っているこの場の面々。
正直どうでも良い部分ではあるが、ロイでさえも見間違ってしまう存在を識別できているのか気になっているのでゼシューは少し放置されている。
「あの・・・タッシュ先生?その、タッシュ先生が女神様と崇めている女性がいらっしゃいますよね?」
「はい。ロイ君。こちらのお方と姉妹になるのでしょうか?そっくりではありますが、別の方がいらっしゃいますね」
ロイの質問に普通に回答しているタッシュだが、この一言でダイヤクィーンやジャック、そしてロイもどれだけ崇めれば差を見つけられるのか・・・と感心している。
「それではこちらになります。参考までに、恐らく過去のこの資料を見たのだと思います。追加として普段のゼシュー君の筆跡がこちらですね」
言い訳を全て潰せるだけの資料を一気に持ってきたタッシュは非常に優秀で、このままでは無駄な糾弾会が始まってしまうと少しだけ焦っているゼシューはミルバに視線を移す。
ミルバもゼシューがいる事はとっくに気が付いているが、先行していたダイヤクィーンに加えてダイヤジャックも部屋に居る事は分かっているのでゼシューの視線を無視する形で部屋に入る。
「お、お帰りなさい、ミルバ君。皆さん。よ、予定通りに回る事が出来ましたか?」
「はい、ヨーレイ先生。おかげさまで今迄見る事の出来なかった町の様子まで確認する事が出来ました。本当に有意義な時間でした」
ヨーレイが敢えて獣人二人の名前を呼ばないのは何かあると困るからであり、その程度はこの場にいるゼシュー以外は理解している。
「その二人は見た事が無いな。ここの生徒なのか?錬金にもいなければ無駄な学問のクラスでも見た事が無い。知能分野か?それとも学年が違うのか?」
「はいはい。先ずはゼシュー君のこの提出資料について話すのが先ですよ?」
即タッシュが割り込むので非常に機嫌が悪いゼシューは、そもそも資料が提出できない程の緊急事態が起きていると告げる。
「おい!この余が国難に立ち向かっている最中に提出してやった資料だぞ!そもそも例の獣人共はミルバを目的としていた。何故何も力の無い無能ミルバと会おうとしていたのか・・・」
ここでゼシューは獣人の二人と門の外で話した時の事を思い出し、その際にミルバにお礼を伝えたいと言ってはいたがそれはカモフラージュで実は国内の情報を得ようとしているのではないかと考えた。
当事者二人はダイヤ部隊の道具によって人に見えているのでこの場にいるとはわからないし、そもそも会話が第三者に漏れている可能性はないと確信しているのでこの場を乗り切るために仮定の話しをし始める。
「ミルバ・・・お前は国家を売りに出すつもりだったのだな?あの獣人二人はお前に会いたいと言っていたが目的は話さなかった。いや、余の姿に恐れ戦き咄嗟の言い訳が出来ずに話せなかったのだ!」
現実は普通にお礼が言いたいと伝えていたのだが、把握されているわけがないのででっちあげて事実として伝えればこの場を逃れられるしミルバにプレッシャーをかけられる素晴らしい案だと思っている。
「虫も殺さない様な姿を見せて騙しているようだが、余にその様な小細工は通用しない。無能のお前にも言い分があるのかもしれないが、そうしたければ獣人二人と纏めて王城に来い。お前が持っている程度の情報は流れても問題ないが、近い内に会う予定だろう?その後陛下と共にしっかりと糾弾してやる!」
これで国王との約束である獣人二人の連行も出来るし、少々危うくなり始めている立場も持ち直す事が出来ると機嫌良くこの場を去ろうとするのだが・・・ムンズと襟首を掴まれて動けない。
「な・・・誰だ?無礼だぞ!」
「無礼?随分と面白いですね。いいえ、正直全く面白くないので不快ですが、私の用件が済んでおりませんよ?」
何故か全力でもがいてもビクともしないので、もう少し強めに脅す必要があると思った瞬間に浮遊感に襲われた直後に床に落ちる。
「ぐ・・・お前、王族であるこの余を投げ飛ばしたのか?」
「これもあまり面白くありませんね。淑女に対して失礼ですよ?か弱い私に成人の殿方を投げ飛ばすなどできるはずも無いでしょう?それとも貴方はそれ程貧弱なのですか?」
背後から掴まれて投げ飛ばされた当人のゼシュー以外はダイヤクィーンが軽く放り投げた様子を目の前で見させられているのだが、これまでのダイヤジャックの暴挙や城での惨事を経験してしまった結果少し面白くなっているので、次に何が起こるのか楽しみになってしまい黙っている。
因みにダイヤジャックだけは、この場で余計な事を言おうものなら容赦なく吹き飛ばされると思っているので黙っているだけだ。
「・・・貴様」
何を言っても自分の地位を下げる事になりかねないので二の句が継げないゼシューをよそに、ダイヤクィーンはタッシュから渡されている資料を既に読み終えていた。
「はぁ。随分と汚い字ですね?そしてこの資料の字・・・どう考えても貴方の様な汚物が書ける文字ではありませんね。参考にした過去の資料も少々陳腐ですが、どうせ何が書かれていようが汚物には理解できないとでも思ったのでしょうか?写すにしてももう少し内容を精査する必要があると思いますよ?」
形だけ資料としての体を成しているだけで、内容は酷かった。




