(391)不要な被害
ダイヤジャックとしてはこう連続で警報が鳴ると時間によっては睡眠の妨げにもなるし授業も中断される可能性が高いと告げたロイの思いに対応するべく、即座にヨーレイの私室から退室してこの場に来ていた。
門でのやり取りも把握しており、その後疾走する獣人族二人に気配をつかまれない状態で難なく追随して現在に至っている。
ソシケ王国がある大陸での出来事であれば迷うことなく万屋の出番になるのだが、この異大陸では一切万屋としての行動をしておらず・・・そもそも禁止されているので直接姿を晒して対応している。
「む・・・やはり警戒されてしまうか。確かにこの状況であれば仕方がない部分ではあるが、対応が難しいな」
目の前の二人はあからさまに警戒している為にどのように対処すれば良いのか悩んでおり、過去は半ば強引に全てを進めていたので良い対処方法が思い浮かばない。
経験がない上に相手は初めて接する種族の女性であることもあって、慎重に検討した結果・・・同性に対応させるのが吉と思い立ちカードを通じてロイにダイヤクィーンの派遣を願い出た。
「お待たせしました。ジャッ君は非常に怪しいので警戒してしまうのはやむを得ませんが、私であれば警戒する必要はないとご理解いただけるのではないでしょうか?」
ものの数秒でダイヤクィーンが微笑みを携えてこの場に到着するのだが、これまた一切の気配を感じることなく突如としてこの場に出現したように見えるので余計に警戒されてしまう。
一般的な常識を持っていないカードの者達が独自の考えで行動するとこうなるのは仕方がない部分はある。
「フッ・・・やはり偽りの微笑みの下に隠れている恐ろしい力を感じてしま・・・ブホッ!」
立場が上で力も上のダイヤクィーンに対してジャッ君としての素のままで反応してしまったダイヤジャックは、容赦なく吹き飛ばされる。
かろうじて平手打ちのように見えるのだが獣人族の優れた動体視力をもってしても正確な攻撃が見えないながらも、ダイヤジャックが木々をなぎ倒しながらキリモミ状態でふっ飛んでいるのは嫌でも理解できてしまう。
二人そろって恐る恐るダイヤクィーンに視線を移すと、手を振り切った状態のまま笑顔でいる姿が視界に入ってより一層委縮してしまう。
警戒しても無駄だと思わせる現象をその目で見てしまい、感情が恐怖に振れて萎縮した結果話しが継続できる状況になる。
「・・・ふー、えらい目にあった。口は災いの元とは良く言ったものだ」
そこに意識の外からダイヤジャックがのっしのっしと歩いてきており、あれだけの大惨事にもかかわらず何もダメージが見受けられずにいる。
最早疑う余地がないほどに別格の存在だと認識し、なぜか地面に座り込んでしまう獣人の二人。
「あぁ、汚れてしまいますよ?ジャッ君の見掛け、態度、口調、その全てが場にそぐわないのは理解しておりますが、あの程度で委縮する必要はありません」
いつの間にか出されている椅子に半ば強引に座らされている二人と、内心では冤罪だと思いながらも再び吹き飛ばされてはかなわないと黙っているダイヤジャック。
本音では、寧ろ大惨事を引き起こした挙句に笑顔を継続しているダイヤクィーンの方が極めて怪しいだろうと言いたいのだが・・・
「私はダイヤクィーンと申します。そこにいるジャッ君の姉になります。お二人はミルバ様をお探しだと聞いております。よろしければこれからお会いしますか?」
正直願ってもない申し出ではあるのだが、見かけ美しいながらもあり得ない大惨事を引き起こした存在、そしてその攻撃を受けて尚ピンピンしているダイヤジャックを見て素直に受け入れることができない。
「・・・ジャッ君。あなたの顔が怖くてお返事ができない可能性が高いですよ?困りますね。こればかりは変更しようがありませんから、どうしましょうか?」
わざとかどうかは不明だが、あらぬ方向に話しが進んでいるので若干身の危険を感じ始めたダイヤジャックは修正を試みる。
「この顔は生まれ持ってのものだから仕方がないだろう?ところで、ミルバ君の性格であれば困っている人を目の前にして黙っていられないのは事実だろう。だがお二人は、おそらく今のミルバ君の立場については知らないのではないだろうか?」
興味を惹かれる話題を振れば乗ってくるだろうとの思惑があり、事実食いついてきた。
「ミ、ミルバ様に何かあるのでしょうか?」
食いつきが良かったのは実際に助けられた女性であり、従者の女性は口には出さないが情報を得ようと少し前のめりになっている。
「貴方はゼシューに会って会話をしたと思いますが、ミルバ様はアレの兄なのです」
獣人の二人はゼシューが第二王子と既に知っているので王族に対して“アレ”呼ばわりできる目の前のダイヤクィーンに対して改めて恐怖を感じているのだが、現状恩人に会える方法が思いつかない以上はこのまま話しを継続する方が有益だと考えている。
ダイヤクィーンに対する恐怖や警戒に思考が振れている為に、ミルバが王族であると何となく理解しても予想以上に驚くような事は無かった。
二人揃って同じ考えに至っている間何も話していないので、ダイヤクィーンとしては自らがどう思われているのか等対象がロイ以外であれば何も感じない為に特段意識する事も無く、単純にミルバが王族と聞いて驚いているのだろうと判断していた。
「驚くのは理解できますがコレは事実です。その上残念な事ですが、ミルバ様は既に一切王城で生活をしておりません。愚王とアレから全く認められていない事から立場も悪く、ミルバ様も苦渋の御判断だと思います」
「そのような事が・・・」




