(387)タッシュの実力
獣人襲来に関する騒動が起きていると知っているが、自分達の経験ではそれ以上の騒動・・・獣人が来ているよりも王族が貴族と共に文句を言っている状況が初めての経験だったので相当委縮してしまっている魔力分野の教室にいる生徒達。
リンド子爵家の娘であるシェーンは周囲のクラスメイトの大半とは異なって貴族ではあるが、爵位が低いその立ち位置から王族と接する事は無くこちらも少しだけ怯えている。
この場にいるミルバもまごう事無く王族なのだがその扱いが劣悪で魔力分野の教室にいる事は知られている上に、他国から来たと認識している一般人のロイやダイヤジャックがフランクに接している事から特段壁があるわけもなく普通に対話ができる環境だ。
「コレは申し訳ない事になりましたね。そうだ!折角ですから、私の道具に関する授業をさせて頂くのはどうでしょうか?その後ヨーレイ先生の授業を行い、魔力操作が最も上達した方に特性の道具を差し上げますよ?」
タッシュ作成の道具は直近で色々とやらかしてしまった事を差し引いても非常に有用であると認識されており、一般庶民では購入できない品も多数ある。
巨大な餌を目の前にぶら下げる事で勉学に意識を集中させると共に恐怖を取り去る一石二鳥の作戦に出ており、目論見通りに生徒達は湧きたつ。
「先生!タッシュ先生!!操作の上昇とはどの様に判別するのでしょうか?正直、クラスの中でもある程度のレベルにいる人とそうではない人がいます。授業終了後の操作レベルで判別するのでしょうか?」
「私も質問です。その・・・頂ける道具とはどのような道具ですか?」
パーミアは半歩引いてヨーレイ、ミルバ、ロイにタッシュの思惑と共にその通りになっている事を説明しており、ダイヤジャックは何故か教室の端の方に移動しているのだがその程度は把握しているだろうと敢えて移動して説明するまでも無いと思っている。
「私の道具と聞いて一番に思い出していただけるのは・・・恐らく魔力保管・供給に関する道具だと思います。ですがその道具に関する権利は譲渡しましたので別の道具を準備させて頂こうと考えています。例えば健康状態をある程度把握できる道具や天候を予想できる道具もありますよ?」
何れの道具も市場には出ているが簡単に購入できる金額ではない事を知っており、がぜんやる気が漲っているのは誰の目から見ても明らかだ。
「そして判断基準ですが、現在の実力からどの程度伸びたのかで判断させて頂きます。ですから、今の実力が多少劣っていたとしても十分にチャンスは有りますよ!」
追撃する様に、現在の能力ではなくある意味伸び率で判断すると明言したタッシュの言葉を聞いて更に騒がしくなる魔力分野の教室。
「ふふ、凄いわね。タッシュ先生が本気になるとこうなるんだ。私達も頑張らないと、生徒からの評価が厳しくなっちゃうわよ?ヨーちゃん!」
「そ、そうですよね。本当に凄いです。で、でも・・・私も頑張りますよ!折角これだけの生徒に興味を持ってもらえたのですから!」
教官として引き締まった表情になったヨーレイは教壇に向かい、パーミアは自らが担当する知能分野クラスで授業を行う為に出て行く。
その後特に授業に何か障害が起きる事も無く進み、特権意識が未だに蔓延っている錬金分野の各クラスを除いた生徒達は全ての教科の受講をすんなりと受け入れていた。
錬金分野の教官達もその輪に加わっている状態なのだが、一応自らが担当しているクラスの錬金に関する授業は過去にない程真摯に対応している。
逆に貴族である生徒達からすれば権力を失ったタッシュの子飼いである教官が幾ら授業を真面目に行っても正面から向き合うつもりは一切無く、授業内容は丁寧であるが独学で習得した知識とは大きく乖離している事もあって受け入れる事が出来なかったので実力が伸びる事も無い。
獣人襲来に関しては特に何か騒動になる事がなかったので日常が流れているのだが、当時対応に当たっていたゼシューとハロン、ボナンを始めとした錬金分野クラスの面々は近くの衛兵から状況を聞いて一気に腰が引けていた。
相当な強者である事は誰の目から見てもわかる程に鍛え上げられており、種族故か身長も普通の人よりも二回りほど大きいと聞いてしまった為に直接対峙する事を避けて門の上から様子を見る事にしていた。
この行動が吉と出ており、威圧的に交渉する機会が失われた結果獣人族は何かを調査するような素振りだけを見せて撤収していた。
仮にゼシュー一行が獣人族の前に出向いて接触した場合、相手に悪意が無く温和な人物であったとしても相当気分を害するような態度を平然と取った挙句に勝手に攻撃し、無駄に反撃を受けた上に国家間の騒動になっていた可能性が高い。
そのような事実が公表されるわけも無く・・・その場にいた面々には事実は知られているのだが、王位継承を盤石なものとするべくゼシュー一行が交渉した結果獣人族は去って行ったと告知されている。
「はぁ・・・そんな事がある訳ないわよね?この目で確認していないから不確実さは増すけれど、これまでの態度や実力、人柄。どれをとっても真面に交渉できる様な人材ではないわよ?高速思考を使う必要性すら感じない程よ」
最早恒例となっている授業終了後の集いとして、ヨーレイの私室に集まっているパーミア、コーム、タッシュ、ロイ、ダイヤジャック、ミルバ、そしてリンド子爵家令嬢のシェーン。
「パーミア先生の言葉に反論する術が無いですね。過去の私が過剰に甘やかしてしまった事も一因であると考えると、非常に申し訳ない気持ちです」
「た、タッシュ先生のせいではないと思います。元の素養もありますから、そう落ち込む必要はないと思いますよ?」
三人の教官がこのように話しているのを尻目に、パーミアの助手の位置付けであるコームを除く生徒達は獣人族について話している。
「私の知識では、獣人族は魔法を使用するのではなく直接的な攻撃を得意としていると聞いているよ。何でも当たらなければ魔法も脅威にならないという考えらしく、普通の人では目で追えない程の動きが出来るらしい」
ミルバの口から魔法を避ける事が出来る動きと聞いて、シェーンは驚きが隠せない様だ。




