(386)ゼシュー、動く
ミルバはロイに対して突然乱入して喚いているゼシューが発した言葉の意味を説明しているが、語尾には曖昧な言葉がついてしまった。
らしい・・・とは、タッシュは王族であっても真面な扱いを受けていかった為に情報もあまり入ってこないので、過去に得ていた情報に加えて最近ヨーレイやパーミアから教えてもらった話しを踏まえて発言していた。
ロイに伝えている内容が正しいのか多少不安になっているようで、チラチラとパーミアとヨーレイを見ながら説明しているのはお約束だ。
「何を呑気なことを言っているのだ!過去に獣共が来ただけでこれだけのサイレンが鳴った試しがあるか?少しは危機感を持て!!」
確かに獣人が入国すること自体が非常に稀で訪問すら滅多にないが、時折現れることはある。
その際にサイレンが鳴った試しがないので、言われてみればその通りだと感じているロイとダイヤジャックを除くこの場の面々。
「では、私のほうで見てきましょうか?パーミア先生?」
パーミアの助手になっているコームであれば、過去の経験から仮に多少危険な状況でもしっかりと情報を得ることができるだろう。
「うーん、ちょっと何が起きるのかわからないから止めておいたほうが良さそうよ?」
「え、えっと、パーミア先生がそこまで言うのは珍しいですね」
不安要素が多いと案に告げているパーミアを見るのは珍しく、知能分野担当教官だけあって相当な検討が瞬時になされた結果だと知っているヨーレイは即座に反応していた。
高速思考を持っているミルバもパーミアの反応から楽観視できる状態ではないと感じたのか、視線をタッシュに向ける。
「何故今という気がしないでもないですが、ひょっとしたら・・・国内が纏まっていない事を突き止めたのか、噂程度で知り真実を確認しに来たかでしょうか?」
「貴様!纏まっていないのは貴様のせいだろうが!今更何を言っている!」
「ふははは、お前は少しうるさいぞ!そもそも不安を感じる要素が何一つ見いだせない連中が屯している程度、何故そこまで大げさに騒げるのかが非常に疑問だと言わざるを得ないな」
本心から告げているダイヤジャックだが、この言葉を聞いてやはり先般の報告はカードの者達基準での判断があったのだと確信したロイ。
だからと言って現実的に今・・・ロイだけではなく何も知らない一般市民にも危険があるかと言えばそのような事はないと理解しているので、特に介入するつもりはない。
「どこから来たのかわからない出自が不明な奴が言いそうなことだ!ミルバ!!お前ならば今どれほど危険な状況にあるのか、その程度はわかるだろう!その目で現実を確認してみたらどうだ?」
「何度も同じことを言わせるとは、お前の頭は想像以上にスカスカなのだろうな。そこに免じてもう一度だけ伝えてやろう。現時点で不安になる要素は一切ない。従ってミルバ君が何かをする必要も一切ない。普段偉そうにしているのだから、その立場に応じた義務を自分で果たしたらどうだ?」
ミルバが何かを言う前にダイヤジャックが介入し、言われていることは尤もなのでゼシューも二の句が継げずに睨んでいると・・・再び教室に乱入者が現れる。
ゼシューに従うように教室から食堂に移動していた生徒で彼等は応分の立場がある人物ばかりの為に、魔力分野の教室にいる生徒達はゼシューの言葉に動揺していることもあってか追加の脅威がやってきたと感じて多少脅えている。
「ゼシュー王子・・・このような腑抜け共に説明しても無駄ではないですか?ここは我らが一丸となって対策を行い、陛下や民にもその力を見せつける方が得策かと思います!」
多数いる腰巾着の中の一人であるハロンが真っ先に口を開いている。
彼等は食堂で配下の者から何らかの情報を聞いたゼシューが一人慌てて出て行った為に、その後に同じように事情を聞くと慌ててゼシューの後を追っていた。
錬金分野のクラスに戻ったのだが誰もいなかった為にウロウロしていた所で大声が聞こえてそこに向かって走るとゼシューが魔力分野の教室にいたので、これまで何を話していたのかは不明だが間違いなく今回の騒動の件だろうと思いこのように告げていた。
忠誠を示せる上に自らの力も誇示できるこれ以上ない程に素晴らしい案だと自画自賛しているハロンは、第二王子ゼシューからの称賛を待っていた所で聞きたくも無い声が聞こえてくる。
「ふはは!そこのチンチクリン!一部気に入らない表現は有るが、自ら行動を起こそうとするその一点だけは褒めてやろう!ホレ、さっさと行って存在価値を示して来い!我らはその成り行きを生暖かく見守ってやろう」
ロイに面倒ごとが襲い掛からない様に敢えてダイヤジャックが矢面に立っているので、素早くその意図を把握したパーミアが介入する。
「素晴らしい事よね。流石は王族と貴族!私達も応援するので、国を守る為に宜しくお願いします!」
ここまで言われてしまえば撤回する事はプライドが許さないので、何とか面倒ごとをミルバに押し付けようとした意図とは異なって自らが出向く他ないと黙って踵を返して教室を出て行くゼシュー。
「待ってください!自分達もお力になります!」
慌てて後を追っている錬金分野クラスの面々は確かに家の力を使えば相応の対応が出来るのだろうが、今日は学校に学びに来ている為に過剰な道具を装備している訳も無く、事は急を要すると知っているので家に取りに帰る暇も無い。
「あの子達、今更だけど大丈夫かな?ある意味丸腰よね?と言っても警備もいるし、それ程問題にはならないかしらね?」
パーミアが全てを瞬時に検討してこう結論を出しているが、現場を見ているわけでは無いので多分に希望的観測が入っている事は否定できない。




