(384)改革へ
過去には絶対に有り得なかった現象が起きている錬金分野の教室。
魔力に関する学問を嫌悪していたと言っても過言ではないタッシュ自らが、積極的に魔力に関する学問も習得すべきだと熱弁している。
「一つの技術だけに捕らわれた結果が前回の惨状なのです。色々な知識と経験、技術があれば対応出来る事も、そこが偏っていた結果あれ程の惨状となってしまいました。同じ被害が起きないように、校長先生を含めて相談した結果を先んじてこのクラスで発表します」
途端にざわつく教室だが、タッシュは止まらない。
「錬金だけでは道具は起動できません。魔力が必要になるのです。そして魔力や錬金だけでは生活は向上しません。知識が必要になるのです。つまり、今後は分離してしまった三分野の学問を全員に等しく学んでいただきます!」
選民意識が強い1組では暴言が飛び交っており、パーミアとコームがこのような環境に慣れていないヨーレイを背後に隠している。
「ふはははは、喧しいわ!それ程新たな学問を学ぶのが恐ろしいのか?無能だと明らかになるのを恐れている様にしか見えんな」
廊下で待機していたのはダイヤジャックであり、騒動が起きた際には対応する様にロイから言われている為にノッシノッシと錬金分野の1組に悠々と侵入している。
「お前・・・何様だ!」
ダイヤジャックの実力を一切知らないハロンが攻撃的になるのだが、ゼシューやボナンはとたんに大人しくなる。
「言わずと知れたジャッ君様だが?この学校では相当有名になっていると自負しているのだがな・・・お前はその程度もわからんのか?だから知識を得ようとする姿勢が見られんのだろうな。嘆かわしいぞ?」
いつも以上に尊大な態度で接しているのだが、ハロンは不穏な空気を感じながらも未だに引く事はない。
「き、貴様・・・何処の家だ!正々堂々と正面から貴様の家を潰してやるぞ!!」
伯爵や王子までが後ろ盾になっているので、何処の家門であろうが絶対に負けは無いと思っているハロンは忠誠心を見せようと張り切っている。
「何故家を知りたがる?ストーカーか?お前などに好かれても何もメリットは無いな。そもそもお前を家に招く気がないからな。他を当たれ」
貴族であればハロンの言わんとしている事は家門を聞いていると理解できるが、ダイヤジャックはある程度把握しながらもまるで興味が無いので適当にあしらっている。
「ゼシュー王子!このような連中をつけあがらせると学校の・・・ひいては国家の恥になりますよ!そもそも魔力分野の学問など不要ではありませんか!この様な理不尽な事が罷り通るのであれば退学して自ら学んだ方が遥かにましです!」
会話が成立しないダイヤジャックに対して早々に見切りをつけたハロンは、周囲の貴族に聞かせるように主張している。
学校運営は無料で出来る訳も無く貴族が一斉に退学すれば運営に大きな影響を及ぼす事は確実であり、結果校長も糾弾出来る上に教師も総入れ替えが可能になる。
出来る対策と言えば収入源となり得るタッシュの道具の販売だが、最も重要な道具に関しての権利は喪失している事を知っているゼシュー。
「残るは・・・ジャッ君の道具か?」
タッシュは抑え込めてもダイヤジャックが出てくる可能性が否めないので、そこさえ何とかなれば貴族を引き連れて学校を引き上げて第二の学校を立ち上げるのも有りだと考えているゼシュー。
頭の回転が良くないので、この時点で国王から命令されているタッシュの新たな研究に関する調査の件はどこかに消え失せている。
「法を修正してしまえば何とでもなるだろうな」
ダイヤジャックが作成する新たな道具販売に関しては必ず貴族を通して王族の承認が必要であるとすれば、どの様にでも制御できると考えたゼシュー。
事実それだけの権力が王家にはあるし、一度決定されてしまえば民は内容にかかわらず黙って従うしかない。
「ハロン。お前の案は検討に値するな。お前等も今後の事を良く考えてから行動する方が良いと伝えておいてやろう。余に従う者は食堂に移動しろ」
授業中だが勝手にゼシューがこのように宣言すると、このクラスにいる生徒はゼシュー派が大半なのでゾロゾロと教室から出て行き・・・一部は本意ではないが権力には逆らえないと刷り込みがあるのでガラガラの教室に残されているタッシュやヨーレイ達。
「あ、あの・・・タッシュ先生?わ、私のせいでご迷惑をおかけして申し訳ありません」
授業が台無しになったばかりか権力の有る王族から目を付けられたのは間違いないので、どもりながらもヨーレイが謝罪している。
「いえいえ、全く問題ありませんよ。私は女神様の教えを受けて自らも納得して行動しているのです。そもそも学問とは一つに捕らわれては良い知識を得る事は不可能なのですよ!専門的に極めたとしても偏った知識で良い成果を得る事などできはしません!過去の私の道具も正にその一言に尽きます」
「あははは。本当に随分と変わったわね、タッシュ先生。正にその通りよ!今のタッシュ先生なら、近い内にジャッ君が作ったレベルの道具も作れるようになるかもしれないわね?」
パーミアもタッシュを称賛しているが、どれだけ努力しようが実力的に隔絶しているダイヤジャックの道具を作る事は不可能だろうと何となく理解できている。
とは言え今のタッシュであれば本当に僅かながらもその可能性があるのかもしれないと思わせる姿勢なので、心底褒めていた。
「確かに今のタッシュ先生であればそうなる可能性は捨てきれんだろうな。フハハハ、良いことではないか?何ならこのジャッ君自ら指導してやっても良いのだが、それにはもう少し学校自体の環境が整わんとならんだろうな」




