(383)変動
目的通りの成果が得られ、且つ金銭も想像以上に得る事が出来たので装飾品の補填をしても余剰金が発生している状態になっている。
喜ぶべき成果だが、国王ステヴァンとしてはここまで追い詰めても余裕の態度を崩す事がなかったスペードクィーンが気になっている。
タッシュはスペードクィーンの下僕となっているように見えたので意志の決定権は無く、一方で全てを仕切っていたスペードクィーンが無能であるとも思えないので、正直何故これほどまでの権利を難なく譲渡したのかが気になる。
付け加えると、最後にスペードクィーンがタッシュに対して告げていた言葉・・・異なる視点で研究を始めると言った事も気になっており、タッシュの実力を認めている国王ステヴァンとしては新たな技術を生み出されて脅威となる可能性に思い至っている。
「ゼシューよ、お前に一つ仕事を与えよう」
ゼシューは今回の交渉に呼ばれていない事は知っているが結果だけは誰よりも早く報告を受けており、これ以上ない程の成果を得られたと聞いていたので安心して鳥の間に来ている。
「はい。何なりとお申し付けください!」
ゼシューはタッシュが統括している錬金分野クラスの生徒であり、立場もあって生徒の中では最も立ち位置が高い。
その立場を利用してタッシュの研究内容を把握するように命じたステヴァンは、一先ず目先の利益を把握する事にして部屋から出て行った。
さらに翌日・・・学校では錬金分野のクラスの生徒だけではなく担当教官にも驚きの表情が浮かんでいる。
タッシュ自らが日替わりで各クラスの教壇に立ち、懇切丁寧に錬金に必要な技術について話し・・・本当に基礎的な質問にも嫌な表情を一切浮かべずに対応していた。
3組全てに同じ対応をしつつ教官からの質問にも対応しているので選抜意識は早くも無くなり始めて学問を学ぶ意識が芽生え始めている人物はいるが、残念ながらそう簡単に意識が変わらない人物の方が大半を占めている。
錬金分野の生徒は貴族でそもそもゼシュー派ばかりなので、パーティーでの一件も親の色眼鏡がかかった状態で報告を受けている為に中にはタッシュを露骨に見下している人物もいる。
過去には考えられなかった事象だが、タッシュの権力が地に落ちたと認識している貴族の子息としては当然の行動なのだろう。
特に1組にその傾向が強く、当然ゼシュー本人がこのクラスに所属しているので逆らえない意識もあるのだろう。
「タッシュ先生。その説明ですが全く分かりません!」
一人の貴族令息が立ち上がり、タッシュが道具の練成に関する手順について説明しているところを強制的に遮って質問している。
「ハロン君。この手順のどのあたりが分かりませんか?」
黒板に書き込んでいた手を止めて振り向くと、立ち上がっている生徒に向き合う。
この状況を黙って見ている1組の担当教官はこれまでにない程に分かり易い説明で自らも勉強になると思っていたのだが、知識の乏しい生徒ならではの質問があるのかもしれないとも思っているので静観している。
タッシュに引き摺られ、自らも教官としてしっかりとした意識が芽生えたのだろう。
「えっと、全部です。何で素材を分けて保管する必要があるのかに加えて、保管温度の違いも理由がわかりません」
ハロンがそれらしい質問をしているがタッシュは明確に理由を説明していた事を知っている1組の担当教官は生徒に注意をしようとしたところ、その声を発する前に追随する声が聞こえる。
「ハロンの言う通りだな。タッシュの説明は全てが分かり辛い。錬金の能力に長けているこの余ですら、全く理解できん。教師としての能力不足が露呈しているな」
「ゼシュー王子の仰る通りにちょっと教師としての資質が疑われるレベルですよ。俺としてはミューゼ王国で最も重要な錬金の技術をしっかりと身に着けたいのですが、俺に素養があっても教師があれでは・・・敢えて原石を破壊していると勘違いしそうですよ」
ゼシューとボッシュ伯爵家のボナンが追随しており、立場上この二人に何かを言おうモノなら問答無用で職を失う可能性があるので黙らざるを得ない担当教官は心配そうにタッシュを見ている。
「そうですか。何度も説明しているのに全く理解できないのであれば、他の生徒の学習に影響を及ぼしますね。お二人とハロン君は授業終了後に補習を行います。他に何か質問は有りますか?」
「・・・タッシュ、お前・・・」
越権ながらもこの場で首を宣言したいゼシューだが、そうなると国王から命令されたタッシュの新たな研究に関する調査が難しくなるので何も言えない。
ゼシューが反応できない以上は格下のボナンや更に格下のハロンでは何も言える訳も無く、追加の質問が無いと判断したタッシュは説明を再開した。
「失礼します!」
そこに乱入してきたのは知能担当分野教官のヨーレイであり、助手であるコームを引き連れている。
「あぁ、お待ちしていましたよパーミア先生。皆さん良く聞いて下さい。以前道具が一切使えなくなった際に生活環境が激変して相当困ったのは記憶に新しいと思います。今後の対策として道具を有効に使用する事に変更は有りませんが、誰しもが魔力を供給できる知識と技術を身に着ける必要があると考えました」
タッシュが説明を行っている最中だがオズオズと魔力分野担当教官のヨーレイも入室していたので・・・この場にいる面々はこれからタッシュが何を言わんとしているのかは誰しもが理解しており、予想通りに各自が持っている魔力に関する技術向上の話しが始まった。




