(382)譲渡完了
スペードクィーンから座るように指示されると、一も二も無く了解の意を示すタッシュ。
「承知しました、女神様!」
完全に国王を無視する形で座り直しており、その姿を見て額に露骨に青筋が浮かび上がる国王ステヴァン。
「今日は私の方から説明させて頂きます。少々無駄に待たされましたので時間がありません。良く聞いて下さいね?」
ステヴァンが身なりを無駄に気にしていた為に想定以上の時間が経過していたのだが、全く興味の無い国王の見栄えなど心底どうでも良いスペードクィーンは早く用件を済ませたいので容赦なく告げている。
国王に対する態度ではないのだがスペードクィーンには強く言えない為にどのように反応するのが正解か迷っているステヴァンをよそに、スペードクィーンは説明を始める。
「昨晩のお約束通りに、タッシュ先生の素晴らしい発明に関しては全てを譲渡致します。現物はこちらになります」
何処から出したのか分からない小袋を机の上に置くと、ステヴァンの背後に控える護衛が一先ず袋を手に取り安全かを確認している。
袋の口を開けて手を突っ込むと当然タッシュが作成した道具が入っているので、その内の一つを抜き出して見分する。
「陛下。正直相当な袋です。この道具も確かにタッシュが作成した道具に違いありません。どれほど入っているのかは分かりませんが、百や二百では済まない事だけは分かります」
護衛の立ち位置にいる騎士だが、実は錬金に関しても相当な実力があるので同席させている。
「ご指摘の通りにタッシュ先生が作成した道具と作成中の道具も全て入れております。今回の条件にその袋は入っておりませんので、返却をお願いしますね?」
意識が魔力の道具よりも収納の道具に向きかけているのを察したスペードクィーンは、しっかりと返却するように釘を刺しながらも話しを進める。
「こちらが製法になります」
これも何処から出したかわからないが、突然机の上に書面が置かれる。
相当意識が収納袋に持って行かれた護衛騎士だが、机の上に置かれた書面を手に取り読み進めている。
「あら?当事者の陛下は読まれないのですか?私の認識では、最も欲していた情報だと思いますが。違っていたのでしょうか?」
読んでも理解できない事を知りつつ敢えて告げているスペードクィーンに対し、苦虫を噛み潰したような表情だけで何も言わない国王ステヴァン。
この期に及んで良い所を見せたい気持ちが出ているので、正にダイヤキングの作戦通りに交渉よりもスペードクィーンに意識が向き始めている。
スペードクィーンは作戦の意図を把握しているのだが有象無象に良い感情を持たれても全く興味がないのでそっけない態度をとっており、この場で国王が感情的になっても何も問題ないと思っている。
同席しているダッシュも女神が行う事に間違いは無いと心底思っているので咎める事も一切せずに静観しており、この場で唯一少々焦っているのは護衛騎士だけだ。
「陛下。確かに素晴らしい製法である事を確認いたしました。まさか素材がありふれている品ばかりなのも驚きですが、逆に言えば安価で作成できることになります」
「・・・なるほどな。今迄は相当利益を得ていたのだろう?知っての通り、昨晩のパーティーで王家としても相当な損害が出ているのでな。この程度では補填できないのは分かるはずだ」
「・・・では此方をどうぞ。タッシュ先生の善意ですが、これまでの利益に関しては全て寄付するとの事でした。素晴らしいお考えですね。私利私欲に走っているどこかの国王にも見習って頂きたいと思いませんか?」
こうなるだろうと事前予想がなされていたが、言われなければ渡す必要も無いと指示されていたので自らは出さずに保管していた追加の袋を机に置くスペードクィーン。
「その袋も返却いただきますので、お忘れなく」
国王ステヴァンとしては少しでも困って縋る様な姿勢が見たかったのだが、完全に意図が外れている。
「陛下・・・相当な金額が入っている事だけは確認できました。制約に関してお話しされるのがよろしいかと思います」
耳打ちしているがスペードクィーンには丸聞こえであり、制約と聞いてどの様な条件を告げて来るのか気になっている。
「うむ。良く聞くが良い、タッシュよ。その方の功績については知っての通りに余も認めておった。その上で今回最も重要な魔力に関する道具の権利はその方の申し出もあって全て余が受け入れた。つまり、今後その方が作っていた魔力に関する道具の権利は全て余にある。従ってその方がこの道具を作成する事、改善する事はまかりならん」
スペードクィーンは何故か少々呆れたような表情を見せており、実はこれもダイヤキングが予想していた内容で既に対策も考えられていた。
「タッシュ先生。先生のこれからの研究は異なる視点を持って新たな道具開発を目指すと話されていましたから、全く問題ありませんよね?」
「はい!陛下。必要であれば何らかの書面にサインを致しますが?」
少なからずゴネてくると考えていた国王側は完全に拍子抜けだが、念を押している。
「良い心がけではあるが、新たな道具へのエネルギー供給用に魔力保管の道具を使用する場合には、必然的に余の管理下にある道具を購入する事になるのだぞ?」
ここまで伝えても全く表情に変化が無いので、目的は達成できたと書面にサインをさせて退室させた後にゼシューを呼び出す。




