(381)譲渡
相当無様を晒していたと理解した上に、意識が戻れば最も忠実な配下と思っていたタッシュがミルバを支持すると明言した事を報告されて怒り心頭のゼシュー。
「ゼシューよ、少し落ち着け。気持ちは分からなくも無いが、タッシュの優位性は明日には跡形も無く消えるのだぞ?」
父であり国王でもあるステヴァンに続いて、ゼシュー派筆頭のボッシュ伯爵も続く。
「その通りです。魔力がない故に努力したのでしょうが、魔力を充填して放出できる道具の譲渡に加えてその製法まで献上すると明言したのですよ?こうなるとタッシュはこれまでとは全く異なる新たな技術を生み出さない限り、我らの障害にはなり得ません」
更に自らの忠誠を無駄に示そうと、この場にいる貴族も口々に同意している。
「陛下やボッシュ伯爵の言、正しくその通りです。所詮は自らの無能部分を補う道具を開発したに過ぎないのですよ?確かに生活に有用な道具もタッシュの発明ですが、既に市場には溢れていますので希少性もありません」
「相当有用な道具で、魔力がなければ生活すらままならない事は先般身を持って体験しました。しかしその中でも最も重要な技術を手に入れられるのです。逆に言えばタッシュは唯一にして最大の武器を手放すのですよ?脅威になる訳がありません!」
「完全に同意ですな。あれ程の道具を新たに発明するなど現実的には厳しいでしょう。怪しいジャッ君とか言う存在がミルバ王子側におりますが、あ奴が見せた道具は生活には関係の無い道具ばかり。全く脅威にはなり得ませんな」
道具を作成するにも錬金の技術が必要で、錬金と言う大きなくくりの中にも分野が存在している。
生活系統なのか武器系統なのか、様々な分野がある中で基本的には得手不得手が存在しているので、タッシュの道具は生活系統として認められているが関連技術を手中に収める事は確実である為にこれ以上の新たな道具の開発は相当厳しいと言うのが一般的な見解だ。
分野が異なれば新たな技術や知識が必要で相当な時間を有するはずだし、仮に有用な道具が発明されたとしても魔力保管・供給の道具程に有用な品が出来るとは思えない。
同じ考えでダイヤジャックが作成する道具も素晴らしい所は認めるが基本的に生活系統ではない事から脅威にはなり得ないと考えており、一般常識として全員が納得してしまう。
「そうだな。その通りだ。一瞬だけ輝きを放った蝶が、勘違いして飛び回った挙句に羽を捥がれて飛べなくなっただけだ」
怒りが収まっているかと言えばそのような事は無いが、対外的には落ち着いたように見えるゼシューが着席したのを見てボッシュは続ける。
「では今後の懸念点についていくつか検討していきます。仮定にはなりますが、タッシュは恐らく生活道具に魔力保管・供給道具を内蔵して販売してくるでしょう。外から見えなければ問題ないと考えるのは容易に想像できます」
タッシュの力、財力を削ぐ必要がある事はこの場に集まっているゼシュー派の総意である為に対策が話し合われるが、幸運にも議題にリンド子爵が上がってくる事は無かった。
確かにパーティーに参加する条件として支持する貴族同伴と条件を付けていたのだが、その程度は霞んで見えなくなる事象が置き続けていたので誰もその条件すら思い出す事無くタッシュに意識が向いていた。
ロイ達の思惑とは異なる方向に意識が向けられているので、結果論だが安全の為にと思いクラブクィーンが護衛を行っていたが無駄に終わっている。
「・・・では、恐らく明日タッシュが在庫や技術について持ち込むなり譲渡に関する相談なりがあるだろう。その際に技術について詳しい者を同席させる。当然二度と魔力保管・供給の道具を制作できない事を確約させる。形や機能が若干異なる品もダメだ」
国王ステヴァンはここまですれば安泰だと考えているが、同席させると宣言している錬金に詳しい存在に関してはゼシューを指名する事は無い。
本来は錬金分野の最上位クラスに存在しているのだが反して実力は乏しい事を知っており、相手がタッシュであれば逆に無駄に口を挟んで交渉が決裂しかねないと思っている。
翌日・・・
「陛下。タッシュが謁見を申し出ております」
「来たか。通せ。何か荷物を持っている様子は有ったか?」
「いいえ。ですが、昨晩のパーティーに参加した女性も来ております」
スペードクィーンが同行していると聞いたステヴァンは本来の目的を一瞬だけ忘れて前のめりになってしまうが、破壊された装飾品の補償の為にも先ずはタッシュに魔力に関する道具を譲渡させるのが先だと自らを律する。
「わ、わかった。鳥の間に通しておけ」
鳥の間とはゆったりできる雰囲気の部屋であり、本来の予定ではこの場で謁見して短時間で条件を飲ませて追い返す算段だったのに・・・と思いながらも、命令を実行しにタッシュの元に引き返していく警備兵。
何故か国王は自らの姿を無駄に確認した後に鳥の間に向かい、いつも以上に権威を見せつけるように背中を反らせて入室する。
「お待ちしておりました」
扉が開いた瞬間に立ち上がり跪いているタッシュだが、スペードクィーンは優雅にお茶を飲む姿勢を崩していない。
一瞬不敬だと指摘したくなった国王だが、余りの優雅さに何も言えずに徐に対面の椅子に座る。
国王から何も言われないので跪いて下を向き続けているタッシュだが、ステヴァンはスペードクィーンに見とれてしまった事もあるが敢えて自らの権威を知らしめるべく声をかけていない。
「タッシュ先生。どうぞお座りください」
本来国王の命令が最も優先されるのだが、今のタッシュはスペードクィーンを神と崇めているので国王よりも優先される。




