(379)交渉
ミルバ側の人物が誰もおらず、つまりは貴族達から全く支持されていないと知らしめる事を目的の一つとして開催したパーティーだが、その目論見は完全に外れている。
何故かタッシュがミルバを支えると明言しており、タッシュの頭が相当おかしくなり状況判断が出来なくなっていると考えたボッシュ伯爵だが・・・立場としては圧倒的に上であるミルバに対して敬称をしっかりと区別している事からその線は無いと把握してしまう。
「タッシュ・・・お前は本当にそれで良いのか?今迄お前が献身的に支えていたのは此方に倒れているゼシュー王子だぞ?冷静に状況を把握できないお前ではないだろう?今後の事も理解した上で言っているのだろうな。今ならまだ引き返せるぞ?」
少し圧を掛けて元のタッシュを取り戻そうと試みるボッシュ伯爵は、同時にゼシューの意識を戻す為に近くに移動して揺すっている。
本来であればもっとも権力がある国王の意識を戻す方が先なのだが、一見すると直には真面に頭が働くような状況には見えないので諦めていた。
「ゼシュー王子・・・しっかりしてください!」
視線はタッシュに固定しながらゼシューを介抱しているボッシュ伯爵と、周囲の貴族も幾らタッシュが裏切ったとは言っても未だにゼシュー派は圧倒的に優位だと思っている為に同じくゼシューの元に駆け寄っている。
少し前に道具が一切使用不可になった際、どれだけ大きな被害を被ったのか全く理解できていなかったのだろう。
人の波ができているので壇上は少々ごった返しており、その隙にミルバ一行と何故かボッシュに問いかけられているタッシュもさっさと被害の少ない一角に移動してしまう。
彼等は無事な椅子を集めて座っており、何処から出したのか新たな机の上に出来立ての料理が並んでいる。
「ミルバ様。このタッシュ、過去の行いを心の底から反省して粉骨砕身お仕えする事、ここに誓います!」
「え・・・あの、ありがとうございます」
未だにこの勢いについて行けないミルバだが、今まで明確に敵対して露骨に攻撃の意思を見せていたダイヤジャックが平然としている事から問題ないとは理解出来ている。
「そちらはリンド子爵ですね?皆様にもこのタッシュが作成した道具、優先的にお配り致します。これからよろしくお願い致します」
スペードクィーンが敢えて学校の面々を支えるようにとだけ告げたのは当初懸念していた通りに少しでもリンド子爵家に向かう敵意を無くすためだったのだが、今集まっている場所にリンド子爵一家が揃っている状態で視線を集めてしまっている以上は意識を逸らせる事は不可能だ。
入場時にはクィーンズの美貌に意識を集中させていた為に問題視していなかったのだが、こうなってしまっては仕方がないのでタッシュの意志を尊重する方が有意義と判断される。
「それは素晴らしいですね、タッシュさん。是非とも宜しくお願いしますね?」
「お任せください、女神様!」
このやり取りを黙って見る羽目になっているゼシュー一派は、国に対して相当な貢献をし続けているタッシュが完全にミルバの派閥に移行したと認識する。
だからと言ってこの場で鞍替えするわけにもいかないしまだまだゼシュー派の方が優位であると確信しているので焦っている様子だけは無いのだが、続くタッシュの言葉を聞いて血の気が引く。
「ミルバ様。私が作成している魔力保管の道具ですが、是非ともミルバ様が全てを管理して頂きたく思っています。これは私の忠誠と今迄のお詫びと考えて頂きたく思います!」
道具を起動するには魔力が必要であり、魔力分野の学問をないがしろにし続けている為に制御できる人材は極めて少ない。
そんな中で生活に必要な道具は全て起動に魔力が必要になるのだが、各自が魔力を供給している訳も無くタッシュが独占的に作成販売している魔力保管の道具に頼り切っていた。
つまりこのタッシュの宣言は正に生活の基盤となる道具の権利を全てミルバに譲ると言っているのと同義であり、仮にミルバが道具の販売を制限すると・・・少し前に経験した風呂にすら真面に入れない生活が待っている。
比較的冷静なボッシュが、ゼシューの介抱をやめて未だ装飾品が破壊されたダメージによって唖然としている国王ステヴァンにこう告げた。
「陛下!陛下!!呆けている場合ではありません。今のタッシュの言葉を聞きましたか?このままでは陛下のお立場すら危うくなりますぞ!」
流石に自らの立場が危うくなると聞こえてくればそちらに意識が向くので、改めてボッシュに同じ説明を受けると立ち上がる。
「その方等・・・特にタッシュ!貴様はあれ程国中に被害を出しておきながら何を勝手な事を言っておる!応分の被害が出ている事は知っているだろう!当然その保障として、国家に魔力保管・供給の道具に関する権利を渡すのは最低限の義務だぞ?」
少し前にタッシュに対して例の道具を起動して混乱に陥れたのはダイヤジャックのせいだと明言していた国王だが、ここまでくるとそのような事は言っていられないしその情報源がゼシューである事からどの道正しい情報ではないだろうと思っている。
「そうだぞ!お前のせいで我が侯爵家も相当な被害を被ったのだ。今更何も補償がないなどは有り得ない!」
国王の一言を皮切りに口々に損失補填を少しでも懐に入れようと、リンド子爵以外の貴族が好き勝手な事を言い続けている。
過去のタッシュであれば如何様にも言い逃れできていたのだが、汚れが落ちている存在になっているので何が正解なのかわからない様で言葉に詰まっているその態度も貴族達に勢いをつけていた。
「ふははは、良いではないか。製法と今の在庫か?渡しても構わんと思うぞ?ミルバ君も良いだろう?」
そこにダイヤジャックが平然と権利を譲渡するべきと口を開いている。




