(378)裏切り?
近年のタッシュを知る人物であれば彼がこのような言葉を発する事など絶対に有り得ないと感じており、事実近くにいて少々呆けていたボッシュ伯爵も驚きの視線を向けている。
国王は情けなくも装飾品に目が行っており、損害に頭を悩ませているようだ。
「タッシュ・・・未だにあの謎の霧の影響が残っているのか?」
間違いなく少し前まではタッシュは自らと同じくゼシュー派である為にミルバの関係者であるダイヤジャック、当然そこに連なる存在も敵であると認識していたはずなので思わず確認しているボッシュ伯爵。
「何を言うのですかボッシュ伯爵!女神様の前で不敬ですよ!ここまでの奇跡を目撃したのですから、崇拝しない方がおかしいでしょうが!違いますか?」
かつて伯爵である自分に対してここまで切れた事がないので、思わず半歩後ろに下がってしまうボッシュ。
「そもそも今までの私達は汚れ過ぎていたのです!折角このように素晴らしいチャンスを頂けたのですよ?コレを活かさずに何としますか?」
「・・・」
何をどう反応すれば良いのか分からずに黙っているボッシュ伯爵だが、タッシュを良く知るミルバもボッシュと全く同じ感情なので首を傾けている。
「ジャッ君。あれって何かの副作用?」
ロイも入学試験時の対応を含めてタッシュの性格はある程度把握している為にこのように問いかけてしまい、実際にダイヤジャックとしても余りの激変に小悪魔が何かしていたのか確認する必要があると感じていた。
ないとは思うがロイに悪影響が有ってはならないので、そこからカードの者に連絡が行き直にジョーカーが厳しく詳細を鑑定して報告が上がる。
この場でダイヤジャックが口にしては周囲の者達にも聞かれるので、公には分からないと伝えながらもスペードキングによって正確な情報を上げる手はずになっている。
「残念ながらあの男は何か悪いものでも食べたのかもしれない。だが問題ないぞ、ロイ君!」
納得しそうな言葉を吐き出しているダイヤジャックだが、同時にスペードキングがロイに報告している事を理解しているので反応を求める様な言葉は口にしない。
報告自体はダイヤジャックも耳にしており、そこで聞こえた内容は・・・悪意ある存在を分離する際に悪魔の力が人と比較すると圧倒的に強かった影響か、タッシュ自身の悪意も吸収された上で共に引きはがしてしまったというのだ。
誰もが予想していなかった副次効果が出ているのだが、正直事実を知っても目の前のタッシュの今迄の行動があるので少々引いてしまう。
「ミルバ君。ジャッ君の言う通りに問題は無いはずだよ。きっと極限の状態にいたから衝撃で生まれ変わったんだよ」
「そうかもしれない・・・ね。これだけの変化だからそうとしか思えないけど、逆に同じような衝撃を受けた時に元に戻らないか心配になるよね?」
「ふはははは、ミルバ君。そこも大丈夫だとこのジャッ君が宣言しておこう」
ミルバ、ロイ、ダイヤジャックがタッシュの激変について話している中で、タッシュは只管スペードクィーンに視線を向けて拝むようなしぐさを見せている。
「・・・どうしましょうか」
この現象について同じく説明を聞いているスペードクィーンはどの様に対処するのが正解か分からずに悩んでいると、ダイヤキングから指示があったのかこう問いかけた。
「タッシュさん?貴方は過去の行いを反省して生まれ変わったと考えて宜しいのでしょうか?」
「はいっ!女神様!!このタッシュ、女神様の為に全てを捧げる事をここに誓います!」
別に誓ってほしくも無いのだがダイヤキングの指示なのでそのまま会話を継続するスペードクィーンと、一方では巻き添えになっては堪らないと同じ顔のクラブクィーンは更に一歩タッシュから遠ざかりロイに近接していた。
「羨ましい・・・失礼しました。改めましてタッシュさん?それでは、この国に対して多大な影響力がある貴方にお願いがあります!」
クラブクィーンの行動程度は直に把握できるのでロイの近くに行けた事が本心から羨ましい為に言葉が漏れてしまうが、ロイの前で中途半端に仕事を終える事は出来ないと自らを律しているスペードクィーン。
一方で崇めている存在からお願いがあると言われた為に、タッシュは期待に満ちた目をスペードクィーンに向けている。
「はいっ!何なりと!!」
周囲の貴族はこのやり取りを黙って見守っており、確かにタッシュがこの国にいる人々の生活の基盤を支え続けている存在である事は間違いないのでスペードクィーンがどの様なお願いをするのか聞き耳を立てている。
「私の親戚であるジャッ君は御存じですよね?そのジャッ君の友人であるロイ様とミルバ様。そして二人が共に学んでいる魔力分野の教官であるヨーレイ先生や知能分野のパーミア先生。この方々を是非とも支えて頂きたいのですが」
国王ステヴァンやボッシュ伯爵、そして第二王子ゼシューやその派閥からすればあり得ない願いであり、過去のタッシュであれば悩む素振りすら見せずに一刀両断にすると知っているのだが今のタッシュはどうなのか・・・固唾を飲んで見守る。
「お任せください!私から言える言葉ではないことは重々承知していますが、これからよろしくお願いします!ミルバ様、ロイ君、ジャッ君!」
周囲の者達は見守る時間も無い程に条件反射の様に回答したタッシュの言葉を耳にし、何とかその意味を自分達が期待していたような否定的な言葉だと理解しようとするのだが・・・タッシュの過去の信念と行動、ゼシュー派である自らの立ち位置を考慮した結果どうしても納得のいく意味にはならずに無駄に悩み始める。




