(376)消滅
黒の存在は目の前のゴミを始末するついでに連続して攻撃を行おうとした所で動けなくなった事を把握し、スペードクィーンが明言していた通りに拘束されていた事実を嫌でも認識していた。
結界の外から見れば突然公爵令息が吹き飛ばされたように見えるだけで、殺気も遮断されているので周囲の面々はそれ程危険だとは思えない状況になっているのだが・・・
「それでは無駄に道具自慢をしていた皆様?次の挑戦者を受け付けますよ?」
スペードクィーンに貸しを作る為だけに欲望の赴くまま無駄な争いをしていた令息達だが、公爵家の道具が全く役に立っていない現実を目の当たりにして一気に腰が引けている。
その様子を見たゼシューは、クィーンズはさておきダイヤジャックを始末できるチャンスではないかと考えた。
「お、おい!ジャッ君とやら・・・貴様が対応してみろ。まさか逃げるわけでは無いだろうな?」
完全に信じ切る事は出来ないが彼等の会話からクィーンズがダイヤジャックよりも強いと耳にしたので、ダイヤジャックが勝利しても黒の存在がいなくなるし負けた場合にも大きなダメージを受けるので邪魔者が排除されると思い素晴らしい案だと自画自賛している。
仮にダイヤジャックが敗北しても現状明らかにスペードクィーンが黒い霧状の存在を完全に抑え込めているので、被害の拡大は無いだろうと確信していた。
「ふははは、無駄に知恵が回るのだな。だが断る!」
その程度の考えはお見通しのダイヤジャックは、ゼシューの申し出を検討する素振りなく瞬時に容赦なく断って見せた。
「・・・は?逃げるのか?これまでの偉そうな態度は見掛け倒しなのか?随分と貧弱になったなぁ。勝てないと思った相手には媚でも売るのか!」
「フム。そこまで言うのであれば貴様に譲ってやろうではないか。ホレ、遠慮なく無様な姿を晒してみろ!余興にはもってこいだろう?」
「何をどう考えればその様な結論になる!お前はバカなのか!余は貴様に対応しろと言っているのだ!聞け!!」
何を言おうが無視する形で強引にゼシューを結界の近く・・・壇上に引き摺っているダイヤジャック。
「あら?・・・有象無象の代表格が来てしまいましたね。一応他の面々よりは効果の高い道具を身に着けているようですが、その程度であれば誤差の範疇ですね。さっ、では遠慮なく吹き飛ばされてください!」
「ま、待て!待ってくれ!そもそも前提がおかしいぞ!何故余が吹き飛ばされる事になっているのだ!余はこのミューゼ王国の王族だぞ!」
「はい。それは嫌でも知っております。ですが威厳も無ければ実力も無い存在であり、黙っていれば良いのに自らの実力を勘違いして周囲に迷惑をかける存在とも認識しております。ですから、どうぞ!」
「だから、何が“どうぞ”だ!!意味が分からないだろうが!」
ゼシューでは認識できない結界の前でワチャワチャしているのだが、スペードクィーンはこのやり取りが面倒になったのか何かを喚いているゼシューを無視して結界の中に佇んでいる霧の前に容赦なく放り投げた。
「・・・う、うわぁ!!!!」
近接してみれば黒の存在の力を何となく把握してしまい、瞳孔は無いが目が合ったような形になったので腰が抜けてしまう。
「あら?コレは私の予想を超えて来る結果ですね。本当に驚きです」
そのまま白目をむいて失神してしまいこれ以上ない程に無様を晒したゼシューと、この結果から自分の力は衰えていない事を理解してしまった黒の存在。
「お前・・・何者だ」
底冷えする声で・・・事実耳に入るだけで脳を揺すり恐怖を煽る波長で発声しているのだが、スペードクィーンに効果がある訳もないし周囲の者達にも結界があるので変化はない。
「御覧の通りに淑女ですよ。それ以外に何があるのでしょうか?」
鮮やかなカーテシーを見せるスペードクィーンは、少し力を出して黒の存在に対応した結果取るに足らない存在だと改めて認識した事に加えて現状ロイの視線を受け続けている事から怒りは収まっており、このカーテシーもロイに見せるつもりで爪の先まで意識しながら行っている。
おかげで周囲の面々が再び意識を持っていかれる羽目になるのだが、そんな事は関係ないので結界がある事を改めて確認して黒の存在にこう告げた。
「付け加えると貴方を消滅させる事が出来る存在ですよ?どうやら物理的な攻撃は通用しないようですね。ですから早い段階で周囲の空間を強制的に抑え込む形で貴方の動きを制御させて頂きました。永遠にこのままでも私には何も負担にはなりませんが、折角この場で有意義な時間を過ごしているのに無駄な作業は避けるべきですからね。貴方はどのように消されるのをお望みでしょうか?」
笑顔だが言葉の意味を知れば背筋が凍り、実際にそれだけの力がある事を理解できてしまった黒の存在。
「・・・待て。俺はそこのタッシュに召喚されただけだ。最終的にはジャッ君、ミルバ、ロイ、ヨーレイと言う魔力分野クラスの存在を消す事が目的だったようだ」
要求を完全に聞く前に乗っ取ったのでタッシュの記憶から事実を告げている黒の存在と、未だに精神と肉体が同期していないので無様な格好のままでいるタッシュ。
「冗談にしては笑えませんね。そうですか。召喚された小悪魔程度の存在が随分と偉そうな事を言えるのですね」
スーッと掌を拘束されている黒の存在に向けているスペードクィーンと、理由は不明だが完全に地雷を踏んだと認識している黒の存在である人型の霧。
「待ってくれ!悪かった。大人しくする。元の世界に帰る!見逃してく・・・」




