(370)会場にて
性別や立場に関係なく全ての視線を集めているクィーンズは、内心では有象無象の鬱陶しい視線など受けたくも無いがロイの指示より優先される事は何一つ存在しないので笑顔で入場している。
ミルバの両隣と半歩引いた位置に三人が陣取り、更にそこから一歩程度後ろにノッシノッシとダイヤジャックが歩いており、その後ろにロイとリンド子爵一家がいる。
敢えて尊大な態度をとっているのは周囲の者どものロイに対する態度がなっていないと憤慨している部分もあるが、クィーンズの視線が外れた際にシェーンを含むリンド子爵家やロイに意識が向かない様にする為だ。
残念ながら誰しもがクィーンズから視線を外す事がない為に、ダイヤジャックの配慮は無駄になっている。
「陛下にミルバよりご挨拶申し上げます」
称えたくはないが立場があるので表情は能面のまま挨拶をしているミルバだが、国王の両隣にいるボッシュとゼシューには視線を向けない。
「む?あぁ、よく来たな」
意識の外から話しかけられた思いでいる国王は、ミルバの立場をより一層下げる目的など全く思い出せておらずに反射的に回答すると再度クィーンズを見つめている。
前回同様に夫々のクィーンはドレスの色が異なっており、煌びやかではないながらもその美しさを際立たせる落ち着いた雰囲気を醸し出している。
過去にさり気なくロイの好みを聞いたところ派手な装いはあまり好きではないと教えられた事からドレスは決定されており、笑顔で正面を見ながらも意識は背後にいるロイに向けられ続けていた。
その程度ダイヤジャックは把握できるので内心苦笑いをしながらも、全体をしっかりと監視してロイとミルバに悪影響がないかを確認している。
「その方・・・過去にも余と会った事があるな。あの時は時間がなくて配慮できない部分があった事を謝罪しよう。此度のパーティーでは余も入念に準備したのでな。間違いなく楽しめるだろう」
国王ステヴァンは味方であるはずのボッシュやゼシューからも渋い顔をされている会場の装飾に何故か自信満々で、ここまで主張すればクィーンズが自らを無条件で称えると信じて疑っていない。
「ミルバ様。無駄な挨拶も済みましたし、彼方でお食事に致しましょう?」
ミルバやロイ、ダイヤジャックからしてみれば予想するまでもないのだが、スペードクィーンが代表して半ば強引にミルバを国王達の前から移動させようとする。
「ま、待て!ミルバ。お前の立ち位置はここだ!」
国王はミルバを呼び止めて自らが座っている椅子の後ろを指さしており、ミルバもこの場でこれ以上国王の機嫌を損ねるのは得策ではないと分かっているので軽くクィーンズやロイ達に耳打ちする。
「ごめんなさい。今のところは指示に従おうと思います。シェーンさん達も申し訳ない。見た所準備されている食事に関しては前回同様レベルの様なので、楽しんでください!」
ダイヤジャックやクィーンズもこの大陸に来てからはロイの指示もあって大人しくするべきとの認識が根付き始めているので、危険度は無いとしっかりと把握したのか素直に引いている。
ロイの表情に不安や焦燥があれば何を置いても対応する準備は出来ているのだが、全くその素振りがなかった事でミルバの言葉を受け入れる事が出来ていた。
「分かりました。では後ほど一緒に楽しみましょうね?ミルバ様」
まるで国王や伯爵、次期国王と言われているゼシューを歯牙にもかけずにミルバだけに挨拶をして去っていくクィーンズ。
残されたミルバは言われた通りに国王の背後に立つのだが、一般的には使用人や護衛の立ち位置になるので周囲の貴族達は改めてミルバの立場を知る事になっている。
言葉や権威ではクィーンズを振り向かせる事も強制的に手に入れる事も出来ないのは分かるのか、国王だけではなくゼシューもこれ以上暴走する事は無かった。
「ゼシューよ、あの者達の素性は把握しておるのか?」
去っていくクィーンズの後ろ姿を見つめている国王はゼシューに問いかけるが、過去にパーティーで顕現して以降はカードの状態になっているので何をどう調査しようがその痕跡すら掴む事は出来ていない。
「残念ながら何も分かっておりません。ジャッ君の親戚のようですが、そもそもジャッ君自身の素性も明らかではない事もあって調査は非常に難航しております」
黙って聞いているボッシュとミルバは全く考えが異なっており、ミルバはあれだけ不思議な力を持っているダイヤジャックであれば王家の調査も難なく躱せるだろうと思っているが、一方のボッシュは国王とゼシューの言葉をすんなりと受け入れる事は出来なかった。
噂で聞いてはいたが有り得ない程に目を奪われてしまった美貌の持ち主三姉妹?なので、少しでも情報を得たい気持ちがある為に独自での調査を誓っている。
「・・・ミルバ。貴様はどうだ?どのようにしてあの三人と知り合い、どの様に交流しておるのだ?話してみろ!」
嫌そうに話しかけている国王だが、同行しているミルバに聞く事が一番の近道だと思い渋々話しかけている。
「ジャッ君の親戚を紹介して頂いただけなので、それ以上の事は私にもわかりません」
本当の事なのでこれ以上何も言える事は無いのだが、国王、ゼシュー、ボッシュですらこの言葉をそのまま受け入れてはいない。
「お待たせしました!」
継続的に参加者が入場している中で今日のパーティーの形上主賓であるタッシュが入場して国王達に挨拶をしているが、その視線の奥では王族やボッシュをしっかりと観察し続けていた。




