(366)ボッシュの作戦
以前に何も力がないミルバを晒し者にするべくパーティーを開いたのだが豪華な馬車と美しい女性まで引き連れて逆に思い知らされてしまった過去があるので、今回は同じ轍を踏まないように王族は必ず貴族の当主を同行させるように記載した。
誰しもが知っていることだがミルバを公に支持しているのはハルバン伯爵唯一人であり、今尚彼は航海に出ているので間違いなくパーティーに参加することはできない。
貴族の当主を参加させるように敢えて指示したのは代理人を出されないようにするためであり、こうすることで前回のような事態は起こり得ないと確信している。
事実ミルバは相当窮地に陥っており、流石のダイヤジャックでもこの国の貴族に息がかかった人物はいない為に完全に手詰まりだと思っている。
「そのようなチンケなパーティーに参加する必要があるのか?何もメリットが見いだせないのだが・・・必要なのだろうか?ミルバ君」
ダイヤジャック本心からの問いかけだが、人に関する知識・・・ましてや異国の王侯貴族のゴタゴタなどには一切興味がなく知識を得ようともしていないので、これは当然の疑問だろう。
「一部推測になるけれど、通常これだけの規模のパーティーであっても参加者が貴族のみであれば民に公開する事はないんだ。そこを敢えて公開しているということは、絶対に私をターゲットにしているんだ」
「??・・・どのように?」
ダイヤジャックのこの質問にはこの場にいるヨーレイも内心では同意しており、一方ロイは何となくだがミルバの評判を落とすための行動であるところまでは理解できたのだが具体的にパーティーに参加しないことで何の不利益をこうむるのかは理解できない。
「この条件であれば、私は絶対に参加できないのはわかるよね?」
これは聞かれずとも理解できるが、ダイヤジャックの言うとおりに参加しなければ良いだけではないかと思っている。
「確かにジャッ君の指摘の通りに参加しなければ良いのかもしれないけど、民にまで大きくお触れが出ている以上は・・・多分、私が誰一人として貴族からの支持を受けていない存在だと殊更に主張して、パーティーの結果を民に周知させるんだと思うよ?」
高速思考を持っているミルバなので想像の域を出ないと前置きをしているのだが、正解に到達している。
こうする事によってミルバが王族として相応しくないと判断されてその結果を民に広く知らしめることで権威と信頼を失墜させる事に繋がるのだが、原因や理由はどうあれ貴族の支持を取り付けられない王族であれば確かに不安要素があるのは事実だ。
全く貴族からの支持を得ない状態でミルバが王位を継いでも配下が全く制御できず、場合によっては下剋上が起きて国内が混乱した結果民にも大きな影響を及ぼす可能性がある。
権力云々に関して民は一切関係の無い所での争いだが、貴族が反旗を翻してしまえば民も大きく巻き込まれるのは事実で国民もその程度は理解している。
結果的に民も本心はどうあれミルバを王族にすべきでないと判断せざるを得ないので、正にゼシュー派にとっては逆転の一手と言える。
「下らん!何ならその会場を木端微塵にしてやれば万事解決ではないか?蠢いている虫を含めて排除できる絶好のチャンスと考えれば良いだろう!」
呆れてしまったダイヤジャックが平然と爆弾を投下するので、直ぐにロイが諫める。
「いや、だめでしょ!何も知らない人々も給仕やらの作業で間違いなくその場に存在しているし、仮にその人達に被害を出さないようにしたとしても、それこそ唯一参加していないミルバ君に冤罪を仕掛ける口実を与えちゃうよ?」
一応ダイヤジャックは知能集団のトップ3だったはずだよな?と思いながら、どうしていつも簡単に暴走してしまうのか悩ましく感じているロイ。
今回のパーティーとは全く異なるところで非常に悩ましい事態に陥っているロイをよそに、ミルバは真剣に悩んでいる。
「参加しなければ民からの信頼を失うけど、参加する条件を満たす事が出来ない。八方塞がりだよね」
余りの落ち込み様に、友人として何とかしてあげたいと思ってしまったロイはとある人物を思い出す。
「あの・・・さ?リンド子爵っていらっしゃったよね?例の魔力が全くなくなって道具が起動しなくなった時、一早く改善出来る道具を探しにダンジョンに向かったって聞いているけど」
あくまで第三者的な立ち位置での話し方になっているが、リンド子爵に手を差し伸べたのはロイの指示によってダイヤジャックが殊更匿名希望を主張しながら実行していたので辛うじて伝手はある。
「そうだね。可能性があるとすればリンド子爵以外にはいないだろうね。ハルバン伯爵がいれば万事解決だけれど、絶対に不可能なタイミングである事は確認済みでこのような行動に出ているはずだからね」
「ミルバ君。その子爵に話しがついたとしよう。今迄の話しを踏まえると、王族を支持する貴族が同行すれば良いので問題は解決とみて良いのか?」
リンド子爵に交渉を行うのは自分だと分かっているので、必要な知識は今得ておこうと質問しているダイヤジャック。
「最低ラインを越えられると言ったところだよ、ジャッ君。間違いなくゼシューは多数の貴族を引き連れてくる形をとるだろうから、仮に参加できたとしても全く支持を受けていない王族と噂を流すだろうね。その上、数多くの貴族がゼシューについているのは明らかだからリンド子爵は委縮して・・・高い確率で私と同行はしてくれないと思うよ?」
力業が使えれば問題ないがロイ自身の方針は極力干渉せずに穏便に事を済ませたい意識があるので、カードの者達としても今迄の様に強引な手は使えない。
その日の夜・・・ロイとダイヤジャックは今回の件についての対策を話しているのだが、リンド子爵を後ろ盾にしてしまった場合にはミルバが力を得るまでは相当な圧力にさらされるので保護が必要になり、そこまでの援助は出来ないとロイは判断していた。




